45話 仮面の令嬢
また邪魔くさい・・・、いやいや面白くない学園社交界が始まってしまった。
今回はアリスが音楽隊の正式メンバーになってしまった為、私の侍女役はココリナを指名した。出会った頃はあまりの衝撃に固まってばかりだったけれど、今では立派なツッコミ役まで成長した。時々私をアリスと同レベル扱いにすることがあるが、それはあえて寛大な心でスルーしておく、私って大人。
「ごきげんよう、ミリアリア様。」
「ごきげんよう、リコリスさん。」
着替え準備の為、ココリナ達スチュワートの生徒を待っている間に話しかけてきたのは、私の数少ない友人の一人、学園に入ってから友人もどきも何人か出来たけれど、正直裏心が丸見えでウンザリしている。
自分で言うのもなんだけど、見た目は立派なレディを装っているので男女を含め勘違いする子が多いのだけれど、こればかりは王女の振る舞いというのがあるので仕方がない。
本来私の砕けた性格を知っているのは家族とスチュワートの友人除けばルテアとリコリスだけ、二人には昔私の情けない姿も見られているから今更猫を被る必要もないし、何よりアリスの立場も理解しているので心から信頼できる友人と言える。
「今回アリス様は音楽隊に参加されるんですよね?先日練習に行かれる際偶然にお会いしまして、嬉しそうに話されていましたわ。」
「そう見たいね、前回代役でのピアノ伴奏が気に入られた見たね。」
アリス昔から母様と姉様にレディの教育を仕込まれていたからね、中でもピアノは万能姉様のお墨付きだから、どこに出しても恥ずかしくない腕前まで成長している。
「それじゃこの度のパーティーはお寂しいのではございませんか?」
リコリスは時々私を不愉快にしない範囲で揶揄う悪い癖がある、昔アリス事で泣き叫んだのを見られているから、今更気取っても逆に冷やかされるのよね、だからこんな時はこう言うの。
「ええ、寂しいわよ。アリスのいない学生生活なんてツマラナイもの。」
「ふふ、随分素直になられましたわね。」
「いいじゃない、こんな事言えるのはあなたとルテアぐらいしかいないんだから、いやルテアには言えないか、あの子はアリスと仲がいいから考えなしで話しちゃうわね。」
リコリスは自分の立場も王女への気遣いも分かる子なので、今話しているような恥ずかしい気持ちや愚痴なんかは簡単には話さない。一方ルテアはアリスと仲がいいうえ同等の天然成分が豊富なので、考えたことをすぐ話してしまうのだ、それはもう恥ずかしくてアリスに言えない気持ちまでも。
「そんな風に思っていただいているなんて、これはなかなかの役得ですね、(光栄に思いますわミリィ様)ボソッ」
「(リリスも相変わらずの性格ね、嫌いじゃないわよ)ボソッ」
「「 ふふふ 」」
ちなみに私をミリィ、リコリスをリリスと呼び始めたのはアリスだ、あの子昔は三文字以上の名前を言えなかった、いや覚えなかったから。
学園ではお互いの立場があるから、愛称で呼ぶことはあまりないけれど、時々小声でこんなやりとりをする。
「そういえば前回、アリスとのやり取りを聞いていたクラスメイトから後で質問攻めがあったわね」
思わず考えていたことが口に出てしまい、慌てて周りを見渡す。幸い小さな声だった為聞かれていないようだ。
「そう言えばありましたね、ふふふ、ミリアリア様が困り果てた末、ティアラ様のお名前を出されたら皆さん物の見事に離れていかれましたわ。」
姉様の噂は良いものから怖い話まで幅が広い、おまけに容姿端麗、運動も成績優秀、ほとんどの習い事はプロ並みときている、さらにはレガリアの現役聖女となっているから、誰もが恐れ敬う存在となっているのだ。
「姉様がアリスを気に入っているってのは間違いじゃないからね。」
「ただ、ミリアリア様も負けず劣らずって所ですか?」
「はいはい、そうですよ。私もアリスが可愛いんだから仕方がないじゃない。」
「ふふふ。」
「ねぇ、リコリスは誰か指名したの?」
これ以上恥ずかしい気持ちをツッコまれたくないのでさり気なく話をそらす。
「本当はイリアさんを指名して、アリス様を虐めた報いをして差し上げようかとも思っていたのですが、生憎男爵令嬢として懲りずに出席をされるそうなので諦めましたわ。」
人のことは言えないけれど相変わらず仮面を外すとなかなかの毒舌ね、リリスの見た目は清楚で美人のご令嬢だけど実は怒らせるとかなり怖い、ただし自身や親しい友人に牙を剥いた時だけなので、その辺りの区別はわきまえているから特に注意するつもりはない。
もっとも王女の私や侯爵のリリスを敵に回したくはないだろう、心配なのはルテアとアリス。
アリスは今まで城から出る事がなかったし、母様と姉様にガチガチに守られ存在自体が一部の貴族しか知らされていない、だが学園ではそうはいかないので、悪い虫は私達で徹底排除を決めている。
ルテアの場合性格がアリス以上にぽわぽわしている為、気がつくと変な令嬢に絡まれてる確率が非常に高い、最近では私達が後ろから睨みを利かせているからバカな輩は近づかないけれど。
「あの子、今では反省してアリスの友達になっているからあまり酷い事はしないでよね。」
「もちろん理解しておりますわ、ご自身の身分を分からせるだけですから。ふふふ。」
まったく私にしか裏の顔を見せないのだから、計算高いというのか腹黒いというのか、ルテアやアリスが見たら泣くわよ。
「それにしてもまだ1年以上あるんですわね、アリス様が編入されるまで。」
「それアリスやルテアに言っちゃダメよ。」
「分かっていますわ、ルテア言ったらうっかり喋ってしまいますから。」
秘密なのだけれど、アリスは2年制のスチュワートを卒業後、ヴィクトリアの三年生として編入が決まっている。
もともとヴィクトリアへの編入は珍しくなく、特に三年生からは他の学園から優秀な生徒が多数入ってくるし、世話役の侍女も同年代なら入学の許可もされている、その為、スチュワートの生徒が卒業後ヴィクトリアへ編入することはよくあるのだ。
「早く一緒に学園生活を過ごしたいですわね。アリス様がおられなければトラブルがなくて詰まらないですわ。」
「コラコラ、アリスをトラブルメーカーみたいに言わないでよ。」
「あら、本当の事ではありませんか。ふふ」
完全に否定できないのが辛いわね、昔からトラブルの中心はアリスで巻き込まれるのはいつも私達だったから・・・、考えると今から頭が痛いわ。
ガラガラ
「どうやら来られたようですわね。」
教室の扉が開き侍女役の生徒が入ってきた、パーティーなんて邪魔臭いけれど侍女役がココリナだから少しは楽しめるわね、私は一息ついて王女の仮面を再び身につけた。