44話 またまたやって来た学園社交界
二学期が始まり数か月が経ちました。
まもなく今年二度目の学園社交界、別名『終業パーティー』が行われます。
このパーティーはヴィクトリアの四年生の卒業テストの意味合い兼ねている大事な行事で、卒業生徒のご両親が見に来られたり、はたまた婚約者が来られたりと、四年間の成長をお見せする最後の催しとなっています。
また生徒会役員や音楽隊のメンバーから四年生が外れ、新生生徒会役員のお披露目会も兼ねているんです。
一方スチュワートの二年生には、将来使えるべきお屋敷からの視察がやって来られ、まだ就職先が決まっていない生徒には自らの手腕をお披露目する最高の舞台となるのです。
「私がミリアリア様の侍女役ぅ!?」
今日の授業が早めに終わってしまった為、談話室で私の時間潰しに付き合ってくださっているココリナちゃん達、イリアさん三人組とパフィオさんは御用事があるそうで先に帰られました。
「うん、今回私は侍女のお仕事が出来ないからココリナちゃんを指名するって。」
ココリナちゃんならミリィも気がねがないし、今では前みたいに固まる事もないはずだから、ちょうどいいんじゃないかなって事になったんです。
「アリスさんは今回音楽隊のメンバーになられていらっしゃるんですよね?」
さすがリリアナさん情報が早いです。実は前回私のピアノ伴奏を音楽隊メンバーに偉く気に入って頂き、卒業されるミツバ先輩と、リンダ先輩に押しに押され、この度正式メンバーとなってしまったのです。その結果ミリィのお世話役をココリナちゃんにお願いしたすることになった、と言う訳なんです。
「じゃアリスちゃんは誰を指名するの?」
「私のお世話役は誰もいないよ。」
「いないの?」
「うん、パーティーに参加するわけでもないし、お城からサツキさんとミズキさんが侍女役で来てくれる事になってるの。」
始めは誰か指名をって話もあったのだけれど、今回はパフィオさんとイリアはご令嬢として出席される事になってるし、ユリネさんはイリアの指名、プリムラさんとカトレアさんは前回担当されたご令嬢からのご指名が入っているんです。
そこで上がった名前がサツキさんとミズキさん、本来騎士のお二人なんですが、侍女としての修行もされているそうで、前回の様な事があってはいけないと理事長から了解を得て、お二人をお屋敷からのヘルプ侍女として迎えることになりました。
「でも自信ないなぁ、最近は結構仲良くなったとは思うんだけけれど、よくよく考えれば王女様なんだよ?」
「でも今のうちに慣れておかないと、もし将来お城で侍女をする事になったら大変だよ?」
「なんでいきなり宮廷侍女の話が出てくるの?」
ん〜、言ってもいいのかなぁ・・・。
「実はね前にお母様が侍女長をされてるノエルさんに話されてたの、ココリナちゃんお城の侍女にどうかなぁって。」
「ブフッ」
お母様が話されてたんですが、ココリナちゃんって時々フリーズしちゃうけど意外と優秀で、筆記も実技も学年でトップクラスなんです。おまけに最近では私やミリィに突っ込みを入れられるまでに成長し、それがお母様の目に止まったそうです。
「あら、大変・・・良かったですわね、ココリナさん。」
リリアナさんが言いかけた事が少し気になりますが、突っ込んだら負けな気がしたのでスルーしておきます。
「まだ決まった訳じゃないよね?セキュリメントは二年生からだし。」
セキュリメントとは卒業前に優秀な生徒を確保する制度で、雇い主側から事前に「キミ、うちで働いてくれない?」って交渉する事が出来るんです。
「そんな話が出てたよってだけだから、それにミリィで慣れちゃえば、他の貴族様にお仕えしても大丈夫じゃない?」
「たしかに常識の欠けたアリスちゃんにしては納得できる答えだね。」
「ココリナちゃん、さらっと酷い事言ってるの気づいてる?」
「取りあえずミリアリア様の件は分かったから、アリスちゃんも音楽隊の方がんばってね。」
「うん、ありがとう。」
「そういえばアリスさん、音楽隊の練習はどうなさってるんですか?」
ココリナちゃんとの話がまとまったのを見計らい、リリアナさんが聞いてこられます。
「楽譜は頂いているので今は家で練習をしているんです、明日からヴィクトリアの音楽室で音合わせなんですよ。」
本来音楽隊はヴィクトリアの生徒さんばかりなので、ご自宅で先生を付けて練習をされ、学園社交界の準備が始まる前に全員が集まり音合わせをするんです。その為皆さんが準備をされている間、音楽隊のメンバーは参加せず、演奏の練習をしていていい事になっているそうなんです。
「それじゃ明日から毎日、お一人でビクトリアの校舎にいかれるんです?」
「うぅ、そうなんですよぉカトレアさん、音楽隊に参加できるのは嬉しいんだけど、一人でヴィクトリアの校舎に行くのは勇気がいるんです。」
本来授業でない限りヴィクトリアに行く事なんてありませんから、チキンな私に一人で乗り込めなんてハードル高すぎです。
「ですが、ヴィクトリアの方にもお知り合いが何人かいらっしゃるんではないですか?」
リリアナさんが言われる通りミリィやお兄様以外にも、今でも中の良いご令嬢のお友達が何人通われているんです、ですが、偶然に校舎で出会うなんてなかなかありませんから。
「アリスちゃんヴィクトリアにもお友達がいるの?」
「うん、昔からの仲の良い友達が何人かはいるよ、私だってお城の庭園でお茶会ぐらいはするし。」
そんなの当たり前じゃない?友達は少ないけれど、同年代のご令嬢様とはお茶会や小さな誕生日パーティとかもしてるんですから、私だってボッチじゃないんですから。
「ごめん、アリスちゃんが私たちと別世界の人間だったって忘れかけてたよ。」
「なんで!普通のお茶友達だよ?」
ココリナちゃん、また私をかわいそうな子だとか思ってないよね!
「参考までにお聞きしますが、どちらのご令嬢様なのですか?」
「侯爵様や伯爵様のご令嬢さんですが?」
リリアナさんの質問に普通にお答えしますが、ご令嬢様のお友達じゃなくて、たまたまお友達がご令嬢様だった事ですからね、ここ重要な部分ですから!
「えっとアリスちゃん、たしか前男爵令嬢のイリアさんに「貴族様なんて恐れ多い」的な事言ってなかった?」
「そんなの当然じゃない?貴族様なんだよ、平民の私達からしたら恐れ多じない?」
「いやいや、ちょっとまって、いろいろツッコミたいところなんだけど、まずアリスちゃんの私達に、私達をいれないで!」
「な、なんで!?ちょっとそれ酷くない?」
ココリナちゃんの言葉を否定してもらうよう、カトレアさんとリリアナさんの方を見てみると、お二人とも『うんうん』なんて頷いちゃってるんです、私だけ皆んなと一緒じゃないの!?
「アリスさん、貴族のご令嬢様とお友達はおろか、まず出会う機会なんて普通の方はありませんから。」
いやいや、リリアナさんには言われたくないですよ、何といっても現在進行形で侯爵家にお仕えされているんですら。
「でもなぜ御高位のご令嬢様のお友達がいらっしゃるのに、爵位の中では下級のイリアさんを、恐れ多い的なお付き合いをされていたんです?」
「え、だってあの時はまだお友達じゃなかったもん、ルテアさんやリコリスさん・・、えっと侯爵様と伯爵様のご息女なんですが、お二人は昔からお友達なんですよ?お友達がたまたまご令嬢様だっただけで。」
「うん、ごめん、聞いた私たちが間違えていたよ。」
「いつも通りですね、分かっていましたが。」
「さすがにもう驚きもしませんね。」
三人とも明らかに褒めてないよね!?と言うか、ますます私の扱い酷くなってないですか!
私だって皆さんと同じ平々凡々の女の子なんですからね!