37話 それぞれの戦い
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アリスの力ってチートなの?って思うことがある今日この頃です。
幼い頃からアリスの力は凄かった、傷を治したり、花を咲かせたり、あまつさえ私の心も動かした。
本人は姉様には及びもしないと思っているみたいだけれど、それは間違いである。以前姉様がこんな事を言っていた。
「私達は精霊を言霊と言う呪文を通し会話をする、でもアリスはただ願うだけで精霊が付き従うのだと。」
今、目の前で見たこともない現象が起こっている、空気が澄んで、空が近くなり、そして歌が聞こえる。
アリスが昔言ってたっけ、『精霊さんは歌を歌うんだよ。』
「今なら私にも聞こえるよ、勇気の歌声が。」
「ボサッとしてんじゃね、来たぞ。」
ビスケスの一言で現実に帰り剣を構えた。
『ゆぅ〜らり〜ゆ〜らりゆ〜♪そぉ〜らりゆ〜らりゆ〜♪』
姉様の言霊が、歌が聞こえる、儀式が始まったようだ。
言霊は一種の歌だと言われている、今ではだれが考え、だれが生み出したのかすらわから無い。ただ、この歌には力があるのだ。
儀式が始まると二人は完全に無防備となる、私の剣の腕は正直素人の域を出ない。だが今の私はかつてないほど集中できている、視界にアリスの姿を捉え、自身が誓った想いを思い出す。
「今日の私はちょっと凄いわよ。」
複数の薄黒い靄が祭壇に近づいてくる、ビスケス達が切りかかるが、靄は二つに分かれるだけ。
「くそ、ダメージが通ってるのかすらわからん。」
私はビスケス達の戦いを観察する、初めての実戦だというのに冷静な自分に驚きすら感じる。
聖水を掛けた剣程度では効果が無いようだ、魔族や邪霊を切れるのは伝説の聖剣、なんてのはよく物語に出てくるけれど、現実には存在しない。そもそも聖剣って何?どうやって作られる?神様から授けられる?ちがう、竜の牙を削り出して作られる?そうじゃない女神様の血で清められる?
「少しの間私を守ってください!」
私は一つの考えに至り行動に移る。
「わかった、こっちは何とかする。サツキ、ミズキ、姫さんを守れ。」
「「了解」」
私が今考えていることはただの思い付きだ、成功する可能性なんて分からない、でも、アリスを守れるのであれば何だってやってあげる!
剣の歯の部分を左手で握りしめ、一気に引き抜く。
「くっ。」
「くそ、キリがねぇ。」
「ビスケス後ろ!」
「ちっ!」
サツキが叫ぶ前に私は行動を起こしていた、誰かが私に教えてくれた気がしたのだ、そして私の考えも大丈夫だと。
「貫け!」
ビスケスの背後に迫った靄を私の剣が貫く。その後には薄黒い靄は徐々に薄くなり消えていった。
「姫さん、何をした?・・いや、わかった。俺らが奴らを引きつける、止めは任せた。」
ビスケスは私の剣を見て分かったのだ、返り血を浴びる事が無い敵なのに、刀身が赤く染まっているのを。
私は、私に流れている血で剣を清めた、アリスと比べれば微々たる力だと思うけれど、私にも王家の、聖女の血が流れているのだ。
「はっ!」
これで4体目、あと2体。まだ体力も気力も十分、いまのこの空間は私に力をあたえてくれる。左手はいつの間にか血が止まり、痛みはなぜか和らいでいた。
「なかなか筋がいいじゃねぇか、今度城にもどったらキッチリ仕込んでやるよ。」
「なかなか魅力的な話しね、手加減なんてしたら許さないから。」
「うわぁ、ミリアリア様がおっさんの魔の手に落ちちゃうよ。」
「だれがおっさんだ!俺はまだ30代だ。」
「えっ、ウソ!わっ、危な。」
「たく、油断すんじゃねよ。」
仕方が無いじゃない、本気で驚いたんだから!
せっかく集中していたのに元に戻っちゃったじゃない。そんな事を思いながらふと祭壇を見てみると、太陽の日差しが木漏れ日を通し、一条の光がアリスに降り注いだ。
「・・・天使・・・。」
一瞬だったけど、たしかにアリスの背中に真っ白な翼が見えた。
「よし、残り2体。」
私は再び意識を集中した。早く、鋭く、一条の閃光のように。
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私は今精霊さんと心を同調させている。精霊さんの目を通し、上空からこの空間を見つめている。
『ゆぅ〜らり〜ゆ〜らりゆ〜♪そぉ〜らりゆ〜らりゆ〜♪』
お姉様の儀式が始まったようだ。お姉様の言霊に合わせ、精霊さんを導いていく。
精霊さんの話し声が聞こえて来る、大地の精霊が地脈を動かし、水の精霊が水脈を動かし、森の精霊が太陽の力を大地に与え、火の精霊が活性化させる。
ん?あぁ!ごめんなさい、ごめんなさい、水脈直すのに風の精霊さんは要りませんでした。無差別に声を掛けちゃいましたから、風の精霊さんもきてくれたみたいです、うん、失敗は誰にでもあるよね。
『じとぉ〜』
うぅ、精霊さん達の冷ややかな目が痛いです・・・。
心を切り替え(現実逃避じゃないよ!)ミリィの方を見てみると、剣が効か無いようで苦戦しているみたい。聖水では効果があまりなかったんだ、何か力になれないかと思っていると、ミリィは自らの剣で左手を切り、剣を赤く染めたんです。
「何してるの!」声にならない言葉を発したけれど、今の私にはどうすることもできない、いや違うかな、私に出来るのはミリィを信じる事、だよね。
大丈夫だよミリィ、その剣は必ず邪霊を貫けるから。さぁビスケスさんの背後の邪霊を貫いて。
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アリスの力は私の予想を遥かに超えていた。
こんな短時間、たった一言で無数の精霊を呼び寄せてみせたのだ。こんな力の差を見せつけられたら悔しいなんて気持ちすら浮かばない。
まぁ、分かっていたんだけれど、私の役目はアリスが16歳になるまでの繋ぎ、本当は儀式自体はさせてもいいのだけれど、成長しきっていないあの子の体では、セリカさんの時のような事が起これば、自我を崩壊させてしまうかもしれない。これはセリカさんが亡くなる間際に教えてくださった私達だけの秘密、私はあの時の事を生涯忘れる事はないだろう、ミリィはアリスを守りたいと言った、その気持ちは私も負けるつもりはないけれど、今の役目は二人をよりよき道に導くこと。
さぁ、よく見ていなさい。ティアラ・レーネス・レガリアの本気を見せてあげる。