36話 精霊と対する存在
「だいぶん森が深くなってきたわね。」
私とミリィはお姉様の要請を受け、ティターニアの北にある村へと現在向かっています。
数時間前、領館へと届けられたお姉様の手紙には村の水脈が乱れている為、井戸がすべて枯れてしまっているとの事、新しい井戸を掘ればいいのだが、それでは時間が掛かってしまい、早急に対応しなければ田畑が枯れてしまう。そこで私とお姉様の力を合わせて水脈を強引に戻すそうです。
水脈を動かすとか私には出来る気がしないんだけれど、細かな調整はお姉様がされるとの事ですので、微力ながらお役に立てのでしたら全力で頑張るつもりです。
「待っていたわ二人とも、ごめんなさいねお屋敷に着いたばかりだというのに。」
村に着いた私達をお姉様が出迎えてくださいます。
「遠いところをわざわざお越しいただきありがとうございます。村長をしておりますルーツと申します。」
お隣におられた男性がご挨拶してくださいます。見た目はずいぶん若い感じの村長さんです。
「まずは小さなあばら家ではございますが、おもてなしをご用意しておりますので。」
ルーツさんに案内され一軒の木造でできたお宅へと伺いました。居間に通され、座った私達にルーツさんの奥様がお茶とお菓子を出してくださいます。
「早速で悪いんだけど状況の説明と、儀式の方法を教えるわ。」
お姉様の話では水脈を動かすにはたくさんの精霊さんを集め、水脈を調整しながら復旧させなければいけないのですが、一人で精霊さん集めと水脈調整を同時に行うことは難しいそうなんです。
そこで私が精霊さんを集め、集めた精霊さんをお姉様が言霊を使い、水脈を調整するんだそうです。
「それで私は何をすればいいの?」
お姉様の手紙には私とミリィの二人が来るように書かれていたんです。なのでミリィも何らかの役割があるらしいのですが、詳しくは書かれていなかったんです。
「ここはお城にある神域でもないし、結界も時間がないから用意ができていないわ、だから大規模の精霊を集めると、一緒に邪霊が寄ってくる場合があるの、儀式の途中では私は手出しができないから、その邪霊からアリスを守りなさい。」
「邪霊って、ミリィが危ないん「わかりました。」」
「待ってミリィ、私はミリィが危険な目に会うなんて嫌だよ。」
光があれば闇があるように、邪霊は精霊さんと対する存在なんです。その為実態も持たないし、集まれば人を傷つけることだってあるんです。
「アリス、これは民を護る為に必要な儀式よ、ミリィも王族に生まれた以上民を守る事は定めでもあるの。民は私達の為にいるのではなく、民の為に私達がいるの。」
「心配しなくても私は大丈夫よ。姉様も厳しい事をおっしゃっているけれど、これは私の使命でもあるわ、だからアリスは自分の出来る事をするの、私達でこの村の人々を助けてあげよ。」
ミリィは笑顔で言ってくれるけど、二人はやっぱり王女様なんだね、私なんかとは全然覚悟が違う。なら私が今出来る事は、少しでも追いつけるように儀式を成功させることなんだよね。
「分かりました。ミリィ、くれぐれも無理はしないでね。私も全力で儀式を成功させるから。」
私とお姉様は巫女の衣装に着替え、村の中心部にある広場へとやってきました。
そこでは円状に囲まれた簡易の祭壇が設けられており、三名の騎士様が配置に付かれております。
「王女、こっちお準備はできてるぜ。あと騎士団の連中は村人の警護にまわしといた、人数がいればいいってもんじゃないからな。
「コラ、ティアラ様に対してなんて口の利き方をしてるのよ!」
「あなたはもう少し言葉遣いを勉強しなおした方がいいわよ。申し訳ございません王女様、ビスケスの非礼をお詫びします。」
「ったく、うるさい双子だな。」
あまりお話をした事はなかったのですが、男性の騎士ビスケスさん?は結構フレンドリーな方なんですね。
お二人の女性騎士様は何度か護衛をしていただいた事があるので、お顔は知っておりましたが、そういえばお名前を聞いた事がありませんでした。
「アリス様、サツキと言います、こちらは双子の妹のミズキです。」
「ミズキです、よろしくお願いします。ついでにあのゴツいおっさんはビスケスです。」
スラリと細く、スタイル抜群の女性騎士様は双子さんなんですね。それにしてもビスケスさんの事をゴツいおっさんって。まぁ、たしかに大きな方ですが。
「あ、はい、よろしくお願いします。というのも変ですか?何度も護衛をしていただいておりますし。」
「お気づきでしたか、私達は王家の方々の警護が仕事ですので、今後もお顔を会わす機会があるとおもいますので。」
やはり今までも護衛してくださってたんですね。ミリィは普通にビスケスさんと話しをしているから、前から知ってたんですね?
「挨拶はそれぐらいにして儀式を始めましょう。ミリィ聖水よ、この水で剣を清めなさい、あなた達も。」
お姉様は水が入った小瓶をミリィと騎士様に渡していかれます。
邪霊は普通の剣では傷つけられないですからね、聖水で剣を清める必要があるんだと思います。
「それじゃアリス行くわよ。」
「はいお姉様。」
両膝を地面につけ大きく深呼吸をし、祈る形から両手を大きく大空に広げ、大気中にいる精霊さんに呼びかけます。
「精霊さん、力を貸してください。」
私の呼びかけに森が、風が、大地が優しく震え応えてくれます。
目には見えませんが、今この辺りの空間には無数の精霊さんが集まってくれてます。普通の人には分からないそうなんですが、私やお姉様には精霊の歌が聞こえてるんです。優しく、綺麗で、暖かい、そんな歌が私に呼びかけます、美しい歌を聴かせてと。
「ありがとう皆んな、お姉様のお手伝いをおねがい。」
その言葉を最後に私は目を閉じ、意識を切り放しました。
「なにこれ、空気が濃くなってる?」
「これが精霊、ってこと?」
「ボサッとしてんじゃね、来たぞ。」
ビスケスさんの一言でサツキさん、ミズキさん、そしてミリィは邪霊を迎え撃つため剣を構たのです。