35話 隣国の聖女
「まぁまぁまぁ、ミリィちゃんもアリスちゃん、こんなに大きくなっちゃって。」
館に入るなり扉の前で私達を出迎えてくださったのはミリィのお祖母様、お母様の弟にあたるティターニア公爵様はお仕事の関係上、現在ご家族で王都にお住まいされているんです。その為公爵領には引退されたお爺様とお祖母様が領主代理として運営されているんです。
「ミリィちゃんしばらく見ない間に随分凛々しくなって、顔立ちなんて昔のセリカにそっくりだわ、昔のあの子は効率がいいからって、よく精霊で噴水の水を爆発させて花壇の水やりをしたり、お湯を沸かすのに精霊でポットごと加熱して爆発させたり、館中の侍女がみんなセリカに振り回されちゃっててね、ホント懐かしいわ。アリスちゃんの方は昔のフローラのように可憐で可愛くなったわね、フローラは見た目だけは良かったから、たくさんの男性から言い寄られていたのよ。でも一度パーティーで不埒な子爵を投げ飛ばしちゃってね、それ以来だれも近寄らなくなったのよ。ホントに性格だけは似なくて良かったわ。」
「「いや、逆ですから!」」
「あら、冗談よ。うふふ。」
なんだかいろいろ気になる単語が出てきてますが、私とミリィのHPがレッドゾーンに突入したのは間違いなさそうです。
「お母様、何昔のことを話してるんですか!」
「ふふふ、いいじゃない、本当のことなんだから。」
さすがというか、納得というか、お母様が唯一頭が上がらない人がお祖母様なんです。
普段はとっても優しい人なんですよ、ただ少しスキンシップが激しいんです。
「そんな処で話しをていないで、早く中で休ませてあげなさい、長旅で疲れているんだから。」
「「ご無沙汰しておりますお爺様。」」
お祖母様の弾丸トークを止めてくださったのは公爵代理をされているお爺様。引退前は国の外務大臣をされていたんですよ。ティターニア領の東には商業都市ラフィテルがありますからね、今でも隣国からお爺様を訪ねて来られるんですよ。
「お爺様、別荘をお貸し頂きありがとうございました。おかげで楽しい休日を過ごすことができました。」
「お友達とゆっくり出来たようだね。」
サロンへと移動し、冷たい果物汁を頂きながら別荘のお礼をします。
お二人とも血の繋がっていない私をお母様と同じように大事にしてくださっているんですよ。
「しばらく二人は、こちらにいられるんでしょう?エリクも来れたら良かったんだけど。」
「ドゥーベが不審な動きをしているからな、陛下や王子は簡単に城を開けられんのじゃ。」
お爺様とお祖母様が話されているドゥーベは、レガリアの北に隣接する王国でティターニア領の北側にも面しているんです。昔からいろいろと理由を付けては金品の請求や国境沿いを荒らしまわったりと、もっとも警戒している国なんだそうです。
「あの国は年々大地が荒れているらしいからな、以前のような我が国から支援も期待できんし、国内の治安はかなり荒れてきておるそうじゃ。」
「治安が悪いのは自業自得でしょ?賄賂に横領、仕事をしない貴族が多すぎるのよ、もっとも国王と王妃が国民を蔑ろにしているんだから。」
お母様がこんなに他人を非難するのは初めて見ました。同じ王妃として国民が苦しむ姿を放っておくのが許せないのでしょうか?
「あの国に聖女様や巫女様はおられないのですか?」
お爺様の話を聞いていた私は疑問に思ったことを口にしました。だって大地に恵みをもたらすには聖女様や巫女様が『豊穣の儀式』をすればいいと思うのです、レガリアでも毎月聖女のお姉様を筆頭に巫女様達が儀式をされていますから。
「あの国の聖女と呼ばれている人物は現在王妃になっておってな、毎日金をばら撒いて、ろくに聖女としてのの務めをしていないらしい。」
「えっ?」
国の聖女様がお務めを放棄するとか本来ありえません、『豊穣の儀式』は国が生きる為に必要不可欠なんです。それなのにお金をばら撒いているって、国のお金ですよね?何考えているんでしょうか。
「もっとも本物の聖女ならとっくに国の飢饉など回避されてるだろうがな。」ボソッ
ん?お爺様今なんとおっしゃったのでしょうか?お声が小さくて聞こえなかったんですが。
「まぁまぁ、難しい話はこの辺にして、そろそろティアちゃんも戻る頃だから、お昼の準備をしましょ。」
「お祖母様、お姉様はどちらかにお出かけなのですか?」
気にはなっていたのですが、お姉様はお出かけされていたんですね。
「北にある村の井戸が枯れてしまったらしくてね、様子を見に行ってくれてるのよ。」
さすがお姉様です、国の聖女は国民が救いを求めたら駆けつけて力になる、これが私がもっとも尊敬するお姿なんです。他国のお話を聞いた後だと、お姉様の素晴らしさを改めて実感できます。
しかし北というとドゥーベ王国の近くなんでしょうか?お爺様の話では隣国は大地が荒れているそうなんで、その影響が関係していなければいいのですが。
「失礼いたします。」
お姉様が行かれている村の事を考えていたら、執事さんと若い騎士様が入って来られました。
「どうした?」
「旦那様、ティアラ様から使いの騎士が伝言を持ってまいりました。」