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正しい聖女さまのつくりかた  作者: みるくてぃー
第1章
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34話 小さな花火に映るあの日

「花火、ですか?」

港町から帰ってきた私達は晩食とお風呂を済ませ、外国の夏衣装に着替え浜辺へとやってきました。


「王国の誕生祭などの時に夜空に打ち上げられる物ですよね?私達でその花火を上げれるのですか?」

お姉様のプレゼントの一つである花火を、最終日である今日、皆んなでやろうとご提案したんですが、リリアナさんに少し勘違いさせちゃったみたいですね。

誕生祭なんかで打ち上げられる花火は、大きな筒に大砲の弾のような物を詰め、夜空に打ち上げるんですが、素人の私達がそんなことできませんからね。


「リリアナさん違いますよ。花火は花火でも線香花火と言って、手で持って遊ぶものなんですよ。」

やはりご存知ないようですね、皆さんも首を傾げておられます。


「手で持ってって、大丈夫なんですの?」

「はい、夜空に光る花火と違って小さなものなんですが、すっごく可愛く光るんですよ。」

「まぁ普通は知らないと思うわ、パングージと言う南東に浮かぶ島国で作られた物で、夏の夜にする遊びの一つなの。前に国交で来られた特使の方に頂いた事があってね、アリスが気にいっちゃって、それ以来毎年姉様が取り寄せてるのよ。」



幼い頃、頂いた線香花火を家族でした事があるんです。

両親を亡くし笑顔を忘れてしまった私は、いつしか暗闇を怖がるようになったんです。そんな私を、お姉様達は寄り添い笑顔を取り戻そうといつも気遣ってくれたのですが、当時の私は何に対しても無表情、夜になるとずっと怯えていたそうです。

そんな時、外交で来られていたパングージ特使の方が、お城での夕食のあと、お礼として持っておられた線香花火を私達にプレゼントしてくださったんです。

特使の方が見せてくださった線香花火の光を見て、私は突然声をだして泣いたらしく、慌てたミリィとお姉様がぶつかってコケてしまわれ、その姿を見て今度は笑っていたそうなんです。それ以来お姉様は毎年パングージから取り寄せてくださっているんです。



「パングージと言いますと、私達が今着ている衣装もそうなんですわよね?」

ミリィの説明にイリアさんが質問で返してこられます。

昨日いらっしゃったお姉様は私達に、パングージで作られた線香花火と一緒に夏の伝統衣装もくださったのです。

それぞれ異なる色に多種多様の花の絵が描かれた可愛い衣装なんですよ。


実はパングージの衣装をお姉様は大変気に入られていて、よく私に着せ替え・・・買って下さったりするんです。それに、お城の神殿に仕えておられる『巫女』という名も、パングージで神様にお仕えされている女性の象徴なんですよ。


「そうですよ。あちらの国ではこの服装が一般的なんだそうです。」

「なんだか、腰紐が解けてしまいそうで不安ですわね。それにこの靴も歩き難くて。」

「イリアさん何言ってるんですか、そこが可愛いじゃないですか。」

ユリネさんには気に入っていただけたようですが、普段私達が着ている服に比べれば確かに不安になりますよね、一枚になったの布を羽織って、厚めの腰紐を胸で止めているだけですから。

でも結構暴れてもほとんど脱げないんです。昔、この衣装を着てミリィと庭で走り回っても、全然平気でしたから。


「心配しなくても簡単には脱げないわよ、靴はちょっと大変だろうけどね。」

「そういう事です。さぁ始めましょ。」

エレノアさんが持ってきてくださった小さな木箱を受け取り、中身を皆さんに見せます。


「これが線香花火なんですか?」

リリアナさんが不思議そうに木箱の中身を見られますが、おそらく考えていた物とかけ離れているのでしょう、木箱の中には細く紙を丸め、ひも状にしたものが何本も入っており、その中から一本ずつ取り出し、皆さんに配ります。


「見ててくださいね。」

そう言って侍女さんが用意してくださったオイル灯で紐の端を燃やします。するとパチパチ、パチパチと小さな音をたてながら火花が暗闇を照らします。


「なにこれ、すごい。」

「わぁ、きれい」

「ホント、可愛らし花火ですわね。」

そんな皆さんが見守る中、線香花火は最後にほんの少し大きく膨れ上がり、光の粒になった後、砂浜へと落ちて消えていきました。


「あっ、消えちゃった。」

「なんだか、儚い感じがいたしますわね。」


「最後にちょっと悲しい感じがするんだよね。そこが好きなんです、私は・・・。」

線香花火は人を楽しめる為に生まれ、最後にその力を出し切って役目を終えていく。時々人の一生も同じじゃないかなって思うんだ、誰かの為に産まれ、自身の為に全力で生き、そして生涯を終えていく。


思い出すのはあの日の光景、亡くなった両親はきっと後悔はしていないと思う、自身が愛する人に出会え、私を産んでくれて、想う人の為に力になれた。

会えないのは寂しいけれど、私は両親に自慢できる生き方をしたいって思えてくるんだ、最後まで輝き続ける線香花火のように。


いくつもの小さな線香花火の光が、暗闇に染まったの浜辺を照らしててくれる。今の私にとって暗闇は怖い存在ではなくなったけれど、それでも一人の夜はあの日を思い出してしまう。

隣でミリィが肩を寄せ、私の涙を隠してくれる。あぁ、私泣いてたんだ。こんな自然と泣けるようになったのはきっとミリィが、新しい家族がいてくれるから。大丈夫、私は一人じゃないからね、お父さん、お母さん。




翌朝ココリナちゃん達を見送った後、私とミリィはお母様達がいる領館へと出発しました。

お母様とお母さんが出会った街ティターニアへ。


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