32話 海だ水着だ精霊だ
翌朝、朝食を終えたお姉様は数々の衣装と一緒に、馬車で領館へ向かわれました。
「何というか、すごい方でしたね。」
「ティアラ様ってもっとお人やかな方だと思っていました。」
お姉様は国の皆さんから人気がありますからね、見た目とのギャップが激しかったようです。
「アリスがどうして常識のない子に育ったのか、ある意味分かった気がしますわ。」
イリア、さらりと酷いこと言ってませんか?
嵐が過ぎ去ったごとく、再び平穏を取り戻した私達、本日の予定は。
「海と言えば。」
「海水浴です!」
ユリネさんとココリナちゃんが大はしゃぎです。
「あの、アリス。私くし泳いだこともありませんし、その水着というお衣装は持っておりませんので・・・、今日は浜辺で皆さんを見ておりますわ。」
イリアの言い方が、なんだか歯切れが悪いですね。
「心配しなくても大丈夫ですよ。浮袋もありますし、お姉様が皆さんの水着も用意して下さっていますから。」
「いえ、その、あのような露出の高いお衣装で出歩くのは・・・。」
そういう事ですか、水着は水に塗れても動きやすいように、体を隠す布が少ないようデザインされていますから、たしかにまったく知らない人に見られるのは抵抗がありますよね。
「それは心配しなくてもいいわよ。この辺りはティターニア公爵家の私有地だし、浜辺も周りが岸壁で囲まれているから、一般人は立ち入れないようになっているわ。」
ミリィの言う通り地元の方にとって公爵家は敬う存在ですから、無断で敷地に入ろうなんて方はいません。
「昨日皆さんでお風呂に入ったのですから、水着なんて楽勝じゃないですか。」
「それもそうですが、本当に誰もおられないのですか?」
「心配ないわ、不審な人物がいれば警護兵が捕まえるわよ。」
やっぱりいるんだ警護兵の方々、お姿が見えなかったんでどうなんだろうと思っていたんですが、ミリィがいるし、イリアやパフィオさんもおられますからね、警護は重要なんですね。
「それじゃイリアも諦めたことだし、水着を持っていない人は好きなの選んで。」
「わかりました、でも出来るだけ面積の多い衣装がいいですわ。」
その後皆んなでわいわいと、好きな水着を選んでお着換えしました。
私は胸元とスカートにフリルが付いた白色の水着を、ミリィは上下が分かれている赤い水着、イリアとリリアナさんに至っては花柄のスカートが長いタイプの水着を着られています。
準備が整ったところで浜辺に向かうと、事前に侍女さん達が用意して下さっていた、布で作ったパラソルやビーチチェアがありました。いつもありがとうございます。
「海だぁ〜!」
そう言って飛び出していったのはやはりユリネさん、早速海に入っていかれました。
その後を追うようにココリナちゃん達下町シスターズがつづきます。下町シスターズは平民シスターズにプリムラさんを加えた名称らしいです。もう何がなんだか。
「私達も少し入りませんか?」
「アリス、あまりはしゃいで日傘から出ちゃダメよ」
私とミリィ、そしてイリアは侍女さんが常に日傘をさしてくださっているんです。
なんでもお母様からくれぐれも日焼けには注意するよう、言われているそうで、私達は常に大きな日傘の影に入っている状態なんです。パフィオさんはお断りされていましたが、イリアもご令嬢様ですから、日焼けはいけませんものね。ちなみにリリアナさんも丁重にお断りされて、今はご自身で日傘をさされています。
「はぁ〜い。」
海の浅いところでココリナちゃん達が水の掛け合いをされています。楽しそうでいいなぁ。
私たちは侍女さんを引き連れ、波の近くまで行き。
「すごいですわね、海の向こうが見えませんわ。」
「私も、こんなに近くまで来た事はありませんでしたから。」
イリアとリリアナさんは海に興味津々です。そんな私達に下町シスターズが「うりゃ!」っと水をかけてくるんです。
水をかけられたイリアが可愛らしい声で「きゃ!」とか言ってるし。
そんな中ミリィは一人「やられたらやり返す。」と言って日傘から抜け出し、あわてて侍女さんがその後を追いかけて行きました。あっ、パフィオさんも行かれましたよ、二人とも以外と負けず嫌いですからね。
「「「「うりゃ、うりゃ、うりゃ。」」」」
「「この、この。」」
水の掛け合いをされていますが4対2ですからね。ミリィについている侍女さんはもうビショビショです。
「アリスは行ってはいけませんわよ。」
隣でそわそわしていた私に、イリアが釘をさしてきます。わかってますよぉ。
「でもミリィが苦戦してるよぉ。助けに行きたいよぉ。」
両手を胸の前で組み、上目遣いでイリアに訴えてみます。
「ダ、ダメですわよ、そんな目でみないでくださいまし。」
ぶぅ〜、ミリィだったら許してくれるのに。あっ、そうだ。
「日傘から出なければいいんですよね?」
「そうですが、ミリアリア様のように海に入られては、お付きの方が濡れてしまわれますわよ。」
「大丈夫です。海に入らなければいいんですから。」
そう言って両手を海水につけて。
「水の精霊さん、やっちゃってください!」
「「えっ!?」」
どっば〜〜ん。
「「「「きゃぁ〜〜〜〜〜〜!」」」」
あっ、やりすぎちゃった。
「ななななにやってるんですかぁ!アリスは淑女の慎みというのを分かっておりません!前から思っていたんですが節度というのをですね・・・・・」
リリアナさんは危険を感じたのか早々と逃げ、皆んなが海で遊んでいる間、私はひたすらイリアに淑女とはなにかのお説教をされ続けました。
うぅ、ごめんなさい。
追記:ココリナちゃん達は無事どころか逆に喜び、私も悪ノリで何度もしてしまったのが、イリアのお説教をいただく原因の一つにもなっていたそうです。