殴る時は手加減を
通学路での一件を終えた後、放課後に待つ反省文5枚という罰ゲームの事を一旦頭の中から消して切り替える。というのも、今日は一限目から華薇先生の授業だからだ。上の空で授業なんて受けた日にはボコされてしまう。まぁ、既に経験してはいるのだが、そうだとしてもボコされたいとは思わないのが普通だ。なので普段通り真面目に受けている。然し、馬鹿な奴もいるもんで…
「おいコラ、京治。お前は何度言えば理解すんだ?あ? 私がいつ寝ていいって言ったんだ?なぁ、答えろ」
思い切り居眠りバカこと京治の顔面に往復ビンタをかます華薇先生。
「け、けいゔぁふっ!?」
往復ビンタをぶちかまされながら俺に助けを求めてくるが、見て見ぬふりも時には大事な事だと思うんだ。それに悪いのはあの京治で華薇先生ではない。だから助ける理由もない。なので、俺は無視を決め込むことにした。それから数分ほど悲鳴が響き、満足した華薇先生は授業を再開する。
「・・・」
横からすごい睨まれている気はというか、完全睨まれているが俺はそっちに視線を動かすことは無い。目が合うと絶対面倒いことになる。暫くして授業終了のチャイムが鳴り、華薇先生が教室を出ていく。そして完全に気配がなくなった瞬間、
「兄太ぁああああ!!よくも俺を見捨てやがったな!!」
京治がそう叫んで襲いかかって来た。
「はぁ…。他人の所為にすんな、バカ京治」
呆れのみが込められた溜息をついて、京治の拳を受け流す。そしてそれが運の悪いことに丁度近寄ってきた桜花の腹部に激突してしまう。
「・・・あ」
「・・・やべっ」
首元にナイフを突きつけられたかのようなゾクゾクっとした悪寒が京治と俺に走り抜ける。それに対し、桜花は痛む腹部を片手で軽くさすった後、般若のような鬼の形相で俺達を見た。
「「ひぃっ!?」」
情けない声が重なる。
「あんたら…他の人への迷惑を考えなさい!!」
その一言の後、俺と京治は鳩尾に拳をクリティカルヒットされ、同時にダウンする。食った物が吐き出されかねない勢いだったがそこだけは死守できた。然し、鳩尾は流石に洒落になっていない。
「お…おま…やりすぎだろ」
「は、腹いてぇ…」
腹部を押えながら桜花を見やって抗議する。
「はァ?あんたらが悪いんでしょ!地面に這いつくばって反省してなさい!!」
そう言うと桜花は他の女子と共に体操着を手に教室を出ていった。
「く…そ。あのメスゴリラ…少しは手加減ってものをだなぁ」
痛む腹を押さえながら起き上がって文句を垂れる。そんな俺らの元に体操着を手にした新が災難だったねと言いたげな表情でやってきた。
「なぁ、新。お前からも桜花に加減を覚えろって言っといてくれ」
「そ、そうだぜ、新。さすがに体がもたねえよ」
打たれ強い俺と違い相当なダメージを受けていた京治がフラフラとしながら起き上がって同じ様に新に助けを求める。しかし当の本人は不思議そうに首をかしげた後、爽やか笑顔で告げる。
「はははっ、二人とも、華薇先生の拷問で痛みには慣れてるんだから問題ないじゃないか」
その常識の感覚が歪んでしまった新の発言に俺と京治は否定しようと叫ぼうとしたが、少しそう思ってしまう節がある為、「そっ、ぐ」と変な声を出すだけで留まってしまった。
「さ、そんなことよりも早く体操着に着替えないと授業に遅れるよ、2人とも」
「「お、おう」」
結局、完全否定もできず催促されるように俺達は体操着に着替えて、教室を後にしたのだった。




