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風紀委員長の恋愛観はズレている


「立ち話もなんだし、そちらのソファーにお掛けになって、兄太君」


「あ、はい」


俺は魔宙先輩の言葉に促されるように指定されたソファーに座る。風紀委員室に呼ばれたことは初めてのため居心地が悪いし、そこに風紀委員長から直々のお話となれば緊張するに決まっている。お陰で喉が乾燥してきた。


「さっそく本題に入ろうと思ったけど、その前に、兄太君は紅茶飲めるかしら?」


「えっと…一応」


質問に俺は頷く。正直に言えば紅茶はそこまで好きではないが飲めない訳では無いし、風紀委員長のご厚意を断るのは気が引ける。


「それじゃあ、紫季。彼と私に紅茶を入れてくれる?」


「は~い! まっかせて!!」


魔宙先輩のお願いを快く受け入れた紫季先輩は紅茶の準備を始めた。それから少しして、俺と魔宙先輩の前に紅茶の入ったカップが置かれる。俺は一言お礼をして、カップに口をつける。程よい甘みがあり、激しく打ち鳴らしていた心臓の鼓動も落ち着いていく。喉も潤い、緊張も取れてきた所で、机にカップを戻す。


「えっと…それで俺にお話というのは?」


「なに単純な事だ。あのガリ勉君自身が選んだ相手となれば気になるのは当然さ。それに--君の名前はこの学園で有名だからねぇ」


魔宙先輩は意味の分からない事を告げる。


…俺が学園で有名?? 冗談にしては面白くない。ここでは俺以上に有名な奴が沢山いる。だって、俺は単なる人間だ。存在感なんて皆無に等しいと言える。


「残念だけど、君は相当目立っているよ。華薇先生曰く超がつくほどの問題児との事じゃないか」


「・・・へ? も、問題児??」


聞き捨てならない発言に思考が一時停止する。それ程までに信じられない事だ。一度も学校をサボった事は無いし、暴力沙汰に巻き込まれたことも起こしたこともない。普通に只の高校生らしく学園生活を送っているだけだ。こんな嘘だらけの発言を信じるなんてどうかしている。と強く否定したい所だけど、この嘘の出処が華薇先生となれば他の生徒達は嫌でも納得するしかないのだろう、と思い、心の中に留めておく。


「どうやらその様子だと、この話は真実じゃなさそうだね。まぁ、それに関しては君と親睦を深めていけば分かることか」


魔宙先輩はそう言って、机に置かれたカップを手に取り、口をつける。


「えーっと、それって--」


「なに単純な事だよ。君と私が恋仲になればいいのさ」


カップを置いた魔宙先輩はそう言って、名案だろ?と自慢げな表情を浮かべる。そんな先輩に俺は困った様に視線をある方向へ向ける。その方向とは、俺と魔宙先輩のやり取りの中、静かだった紫季先輩だ。当の彼女は『元気モリモリ野菜ジュース』と書かれた紙パックを片手に、もう片方の手で自前のクッキーを頬張っている。恐らく、俺達のやり取りを聞いてはいないだろうし、頼れそうにない。


「あの…それはちょっt」


「はぁ…。相変わらず頭がポンコツのようだね、魔宙」


ガラガラと扉が開き、聞き覚えのない男の声が室内に響く。


「ん? 誰かと思えば、天風(あまかぜ)君じゃないか。やれやれ、風紀委員長に対してポンコツはないだろう、ポンコツは」


魔宙先輩は室内に入ってきた生徒の名前を呼ぶ。どうやら知り合いの人らしい。俺は天風と呼ばれた人の方に視線を移す。


「ホントの事なんですから仕方ないでしょう。それで、この非弱そうな彼は?」


真っ白な髪色に紅玉の様な瞳をしたイケメンが俺を見下ろすような眼差しを向けながら魔宙先輩に尋ねる。見知らぬ男子生徒からの鋭い視線に思わず溜息を零す。


「ほぉ。風紀委員の僕に対して、その態度とはいい度胸じゃないか。褒美に粛清してやろう」


天風という名前らしい男子生徒が、手の甲部分に不思議な紋様が刻まれた手袋を装備しながら告げる。然し、俺が彼に粛清されることは無かった。何故なら、


「はぁ…落ち着きなさい。すぐキレるのは貴方の悪い所よ、天風(あまかぜ) 狗兎(こう)風紀委員」


魔宙先輩の手によって、あっさりと地面に押し付けられていたからだ。流石は風紀委員長というべきだろうか。俺は逆らうとヤバい気がして、


「と、友達から始めませんか?」


前向きに検討する様な当たり障りのない返事をするしかなかった。

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