狼の群れに放り出された羊一匹
五月の半分が過ぎた頃。俺が通う慈愛院学園は対抗戦に向けての準備に勤しんでいた。毎年行われる【慈愛園対抗戦】は『生徒会』と『風紀委員会』によって選抜された全学年の各6名とタッグを組んで六つの戦いを繰り広げる催し物だ。去年は生徒会側の圧勝で終幕した対抗戦だったが、今回はトップ同士が仲が悪い為、白熱したバトルが繰り広げられると話題だ。ちなみにこの対抗戦に参加するメンバーは今日から選抜されていく。一年の時は選抜されなかった俺だが、正直な話を言うと選ばれなくて良かったと心の底から思っている。というのも、この【慈愛園対抗戦】は要するに『人外』VS『人外』。俺のようなただの人間が勝てるわけが無いのだ。
「だから、俺が呼ばれるわけがないと思ってたのに…」
「なんで…お兄だけじゃなく私まで…」
場所は生徒会室。なぜここにいるのかと言うと、京治達と共に昼休憩中に消しピンをして遊んでいた所に生徒会長が来訪し、『久慈宮 兄太君。君を対抗戦メンバーの一人として迎えに来た』と宣告され、連行されたのだ。そして、俺と同時に落ち込んでいる我が妹君も同じ理由で連行されたのだろう。
「さて、メンバーも揃った事だし、自己紹介といこうか」
お誕生日席に腰を下ろす生徒会長が、俺を含めた男女11名に声をかける。一応、ここに集まった全員が知っているのは生徒会メンバーだけであり、集められた一般生徒に関しては初対面が多い。ここで一般生徒側は我先にと自己紹介する程の勇気はない。それを分かりきっていた生徒会長は、『では、僕から』と席から立ち上がった。
「一応、僕のことは知ってると思うけど改めて自己紹介しよう。 僕は生徒会長の聖桐 陽汰。 趣味は読書。後は、今回の対抗戦は仲間の為に精一杯頑張ろうと思う。どうか短い期間だが、仲良くしてくれるとありがたい」
生徒会長こと陽汰先輩はそう言って微笑んだ。生徒会長という肩書きに負けない程にキッチリとした自己紹介とその姿勢に俺を含めた一般生徒側は圧倒される。
「ふぅ~。 次は私の番かなっと」
先程までカチャカチャと携帯ゲームで遊んでいたダボダボのフードで頭を覆った黒髪黒目の女子高生はヘッドホンを外して、余った袖部分をパタパタと振った。
「長く話すのは苦手なんで簡潔に。私は副会長の口道 呼吹。ゲームしてくれるフレ募集中~」
最後にそう告げて、口道先輩はゲーム画面へと視線を戻した。オマケに後のことはどうでもいいといった感じで、 ヘッドホンを付け直す。名前を聞いたことはあるが、実際にこの目で副会長を見るのは初めてだった為、驚きが隠せない。
「んじゃ、次は俺の番っすね! 」
そう活気ある声で叫んだのは、陽汰先輩の斜め右の席に座っている狼耳と八重歯が特徴的な青年。
「俺は狼園 八重っす!陽汰先輩に憧れて、生徒会に入りましたっす!んで、役職は書記っす!」
語尾の『っす』が多くて情報が頭に入りにくい。同学年に独特な語尾の生徒がいるとは聞いていたが、よもや書記の人だったとは。
「つぎ、任せたっすよ!」
狼園 八重は、表情筋が死んでるんじゃないかと思われそうな程に無表情で、どこかを睨むように研ぎ澄まされた刃と見間違いそうな目付きをした長身の女子生徒に声をかける。 それに応じるように、彼女は席を立ち、軽く一礼して口を開く。
「お初にお目にかかります。 慈愛院学園生徒会庶務の天羽 羽斬と言います。不束者ですが、よろしくお願いします」
鋭い目付きと無表情が似合う様な丁寧な口調で、天羽 羽斬さんは名乗った。ぱちぱちと拍手がなり、6人目というより生徒会最後の一人が立ち上がる。
「青柳 シェロ。 慈愛院学園生徒会会計」
淡々とした感じで、めちゃくちゃ簡潔に自己紹介を終えた青柳 シェロさんは一般生徒側の『自己紹介それだけ?!』という驚きと疑問の眼差しを気にすることも無く席に座り直す。
「これで、僕ら生徒会側の自己紹介は終了だ。そろそろ、君達も気持ちの整理はできたと思うし、一番奥に座る君から順に自己紹介と誰のパートナーかをお願いしてもいいかな?」
陽汰先輩は、左側に設置された席の最奥に座るスラリとした長身のイケメンに声をかける。
「僕は八高飛鷹です。 呼吹先輩の対抗戦パートナーとして呼ばれました」
「あぁ、よろしく頼むよ」
自己紹介と誰のパートナーかを聞いた陽汰先輩は拍手をする。それにつられて俺達も拍手をした。
「んじゃ、次は俺の番だな。本当なら自己紹介なんてめんどくせえからやりたかねえけど、可愛い可愛い妹ちゃんに恥ずかしいところは見せられねえしな」
八高 飛鷹君の隣に足を組んで座っていた柄の悪そうな男子生徒が頭を少しかいた後、立ち上がる。
「俺は三年の青柳 ユウ。 勿論、パートナーは俺の妹ちゃんだ。 一応言っとくが、俺の天使に手を出す奴は全員叩きのめすからな」
最後の最後にめちゃくちゃ怖い威圧を放って、シスコン不良兄貴ことユウ先輩はドカッと席に座った。
「次は私ですね! 先輩方、初めまして!!
一年の雪鮫 千鶴って言います!対抗戦という事でめちゃくちゃ燃えてます!!!因みにパートナーは狼園 八重先輩です!!」
名前の割に熱血キャラの女子生徒、雪鮫 千鶴はそう名乗りを上げた。ここの誰よりも対抗戦への熱意を感じ取ったらしい陽汰先輩は、
「君のような生徒が僕らのチームというのはとても心強いよ。一緒に頑張ろう」
拍手と共にそう告げた。そして、彼女が席に再び座ると、今度は我が妹の番となった。
「…久慈宮 妹華。 1年です。 羽斬ちゃんに無理やり連行されました。こうなった以上は辞退出来なさそうな空気なのでとりあえず足を引っ張らない程度には頑張りたいと思います」
めちゃくちゃ嫌そうな表情で自己紹介をした妹華。 どうやら俺と違い、天羽 羽斬さんに無理矢理連行された口らしい。
「えっと、俺で最後ですね。 あーっと、久慈宮 兄太。 二年です。 生徒会長様直々のとってもありがたいお誘いだったので、渋々ですが対抗戦に参加します。まぁ、足を引っ張らない様に善処します」
俺は皮肉な感じに自己紹介をする。本当は全然ありがたくもないお誘いだ。俺みたいな貧弱ヒューマンが足を踏み入れていい場所ではない。 例えるなら、狼だらけの檻に羊を一匹放り込むようなもんだ。
「さて、全員の自己紹介が終わった事だし、対抗戦の話をするとしようか」
陽汰先輩はそう言って、部屋にいる全員にプリントを配り始めたのだった。




