猫夢 詩愛
「はぁー。朝から疲れたぁ」
教室に着いた俺は、引きずってきた馬鹿吸血鬼入りの棺桶から手を離し、椅子に腰を下ろしていた。既に、何人ものクラスメイトが揃っており、もちろんその中には、よくつるんでいる京治達もいる。
「うっす、朝からおつかれみたいだな、ケータ」
新と桜花と話していた京治が声をかけてきた。
「うい~。飲みもんプリーズ」
俺は、親友である京治に飲み物をくれ、と手をクイクイと動かす。
「はい、ケータ君」
京治の代わりに新が水の入ったペットボトルを手渡してくれた。俺はお礼を言い、渇いた喉を潤す。
「ぷはぁ。 疲れた後だとうめぇ」
一気にペットボトルの中身を空にした俺は、濡れた口を拭う。普段からあまり水を飲まない俺だが、こういう時に飲む水はどんなものよりも美味いというのが分かった。
「ありがとな、新」
「ううん、大したことないよ。それよりも彼女達のテスト勉強は順調かい?」
新の言う『彼女達』とは、リィンとレヴィの事だろう。俺は昨日の事を思い出して大きなため息をついた。
その反応で順調にいってないのを察した新は気の毒そうな表情を浮かべた。因みに、桜花は爆笑していた。とても殴りたい。
「な、なによ。面白いんだから仕方ないじゃない」
俺の視線に気づいた桜花は反省することなく寧ろ、逆ギレに近い態度で視線から逃れるようにそっぽを向いた。なので京治にしゃがむよう指示して、額にデコピンをお見舞しておいた。
「ぬおオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!?」
「騒がしいぞ、我が親友よ」
額を押さえ床でゴロゴロと悶え苦しんでいる京治に、俺は何もしていない体で言う。
「さ、騒がしいじゃねえよ!? お前がデコピンしなけりゃこんなことなってねえかんな!?」
「あいかわらず回復が早いことで」
1分ちょいで京治はピンピンした状態で起き上がり、食いかかってきた。さすがは半獣半人。驚異的な早さの自己回復能力。俺は食いかかる京治をあしらいながら大きな欠伸をかましていると、
「あ、おーい、ケータ」
ふと、そんな俺を呼ぶ声が廊下から聞こえた。そちらに視線を移すと、顔見知りの女子生徒がこちらに手を振っていた。
肩で切り揃えられた金髪に猫目。そして普段から猫のマスコットキャラが描かれたマスクを顎にかけており、服装は学校指定制服(胸ポケットに可愛らしい猫の刺繍あり)を愛用している。身長は143cmくらいなのだが、一応、3年生だ。
「どうしたんすか? しーにゃんせんごぶぅ!?」
未だに食いかかってくる京治を新になすりつけて、しーにゃん先輩こと猫夢 詩愛の元に駆け寄ると、思い切り鳩尾を殴られた。いきなり過ぎて理解が追いつかない件。
「し、しーにゃん先輩って呼ぶなって何度も言ってんだろ!バカケータ!!」
顔を真っ赤にしたしーにゃん先輩が、鳩尾を押さえて座り込んでいる俺にキレてきた。
「・・・可愛い」
そんな反応に思わず口を滑らす。お陰で、頬を殴られました。すごく痛いです。それとなんか追い討ちのように蹴られてます。廊下を通る皆が見て見ぬ振りして通り過ぎて行きます。なんて薄情な人達なんだ!これがいじめの始まりなのよ!っとまぁ、冗談はこれくらいにしてっと。
「け、蹴るのもいいんすけど、用があって来たんじゃないんすか? しーにゃぶへっ!? すいません! し、詩愛先輩!」
これ以上ふざけると話が進まないので、俺はしっかりと謝り話を進めるよう催促する。うん、俺えらい。
「はぁ…はぁ…。 そ、そうだった。そろそろ始業が始まるし、手短に済ますぞ。 放課後、私の教室に来い」
「…は、はぁ? 別にいいっすけど」
「んじゃ、また後で」
ヒラヒラと手を振って背を向けたしーにゃん先輩はしばらく歩いた後、何かを思い出したのか、俺の方に振り返り、
「万が一、約束忘れてたら半殺しにすっからな」
なんか怖いことを言ってきた。
「・・・え?」
「え?じゃねえよ。返事は『はい』だろ」
「は、はい」
「うし、よく出来ました」
しーにゃん先輩は可愛い笑顔を浮かべた後、今度こそ自分の教室へと戻っていった。




