0:留年という脅し文句には逆らえない
人外、魔王に勇者となんでもありのスクールラブコメディです!
日曜日の夜、寝ている俺の元に妹--妹華が来た。 妹は学園でかなりの美少女と言われるほどの美貌を持った女の子だ。だがそれは他人の意見であり、俺の意見ではない。 というかそもそもこんな時間に夜這いされようが、所詮は妹。 異性として見る方が間違っている。 だからこそ、俺は冷静な心持ちで妹の次の行動を待っていたのだが、その心持ちは、妹のとある言葉により一瞬にして砕け散った。
「お兄ちゃん・・・好き」
顔を唐辛子みたいに赤らめて、恥ずかしそうに何処か甘い声で告げたのだ。 俺はその言葉に混乱するしかなかった。 なぜなら、たしかに昔から妹の事をとてつもないほど可愛がってはいた。 だがそれは兄としての役割だと思っていた。 なのに、その行動が妹の人生を狂わせてしまった。 まさか兄への恋心を抱くとは、こんなことは絶対に有り得ない。
こんなのは・・・ギャルゲーでしか有り得ない!! そうに決まっている。 妹が兄を好きになる? そんなものエロゲかギャルゲーだろうが!?
「まぁ、その、なんだ。 少し落ち着け、妹よ。 お兄ちゃんはいまとてつもなく眠たいんだ」
俺は平静を装い顔を横に向けた。すると、妹は諦めたのか布団の上から下へとズルズルと下がっていった。 上に乗っていた圧力がなくなり、やっと眠れるとまぶたを閉じようとすると、下半身らへんが岩が入ってるかのようなほど不自然に盛り上がっていた。 流石に俺のアレが覚醒したわけでもないし、というかしても人間とは思えないような岩型のアレになる訳が無い。 となると答えは一つだ。 バレないようゆっくりと上半身を起こし、思い切り布団を引っぺ返した。 すると、そこに居たのは我が妹の妹華だった。 しかも、今まさに俺のパジャマのズボンのチャックを開けようとしているところだった。 ちなみに俺のパジャマズボンはチャックのあるズボンだ。
「おい、妹よ。 お前はお兄ちゃんの下半身にあるとてもデリケートな部分に何をしようとしていた?」
「・・・・」
「聞いてるのか? 妹よ。 ここで何も言わなければお兄ちゃんはもう二度とお前と目を合わせないし声もかけない。 むしろ、隣の雫の家に住み着く。 それでもいいならなんも話さなくていい」
「・・・さい」
怒るようにというかマジギレ寸前の俺に向かって妹が小さな声で何かを呟いた。
「何だって? もうちょい大きな声で言え」
「・・・なさい」
「なさい? 何が言いたい、妹よ」
「ご」
「ご?」
意味のわからぬ単語に首を傾げる俺に突如、妹が抱きつき、耳元で泣きながら謝罪の言葉を呟いた。
「・・・うわぁぁん、ごめんなさい。 もう二度とこんな事しないから、雫ねぇの家に行くのはやめてぇぇぇ! それと声をかけないことも目を合わせないこともやめてぇぇぇぇぇ! うわぁぁん!」
かなりの大泣きに俺は呆れたため息を呟き、妹の頭を撫でて告げた。
「はいはい、冗談だから、そんな泣くなよ。 そんなことより、早く自分の部屋に戻りな。 明日は学校なんだから」
「・・・ここで寝る」
妹は俺の隣に寝転がり甘えるような声で告げた。
「そうか、好きにしろ。 俺はもう寝るから」
俺は瞼を閉じて本当に夢の世界へと落ちていった。
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「という夢を見たんだが、どう思う? 親友よ」
俺は隣を歩く親友--佐々倉 京治に尋ねると、
「夢オチかよ!? さっきのモノローグは何なんだよ!?」
「そう騒ぐなよ、ここは学校の通学路だぞ。 変な奇声をあげるキチガイと友達だと思われるだろ」
俺は騒々しい声を上げる親友の口を押さえて、言った。 すると、親友は自身の口を押さえる俺の手を振り払い更に騒々しい声を上げた。
「お前がそんな話するからだろうが!? そもそもお前の妹が俺たちみてえな冴えねぇ奴を好きになるわけねえだろ!!」
「だから騒がしいって言ってんだろ!! この近親相姦魔が!」
「それはお前だろうが! というか俺は姉が大嫌いなんだよ!!」
俺はギャーギャーうるさい親友と学校に向かう通学路で取っ組み合いをしながら歩いていると、思い切り視界の外から膝蹴りがかまされた。
「ごゔぁ!?」
「けい・・・ごゔぁふ!?」
吹き飛ばされた俺と同じように膝蹴りをかまされ吹き飛ぶ我が親友。 これが一心同体というやつか。 これが本当の親友。 そんなアホなことを考えながら、膝蹴りをかましてきた奴の方を睨み、
「いてえじゃねえかよ、妹華」
「うるさい、バカ兄」
頬を膨らまし不機嫌な顔を浮かべる小豆のような髪色に紅い瞳。
猫耳フードパーカを見に纏った少女--
久慈宮 妹華が俺の脛を蹴りあげてつげた。 こいつは昔はとてもお兄ちゃん大好きな性格をしていたのに、今となっては反抗期だ。
「妹がこんなヤリ○ンみたいなビッチに育って、お兄ちゃんは悲しいよ。 妹華よ。 しかし、未だにお兄ちゃんが買ってあげたパーカを着てて嬉しい」
「・・・バ、バカなこと言うんじゃ無いわよ!! バカ兄!! 童貞死ね!! バーカバーカ!!」
真っ赤な顔をして俺の脛をさらに蹴ってくる妹。 照れた顔を可愛いけど、そろそろ脛が死ぬ。 というか童貞を馬鹿にしたことは許せない!!
「フッ、男を取っかえ引っ返してるお前に言われたくありません! それにお兄ちゃんは好きで童貞でいるんですぅ!! 分かったか、ビッチ妹!!」
「ぐぬぬぬ、お兄なんて大っ嫌い!! 死んじゃえ、バーカバーカ!!」
我が妹は舌を出してアッカンベーをした後、本日三度目の脛蹴りをかまし走り去って行った。 俺は未だにとばっちりで頬を膝蹴りで抉られて落ち込んでいる親友を慰めながら学校へと向かったのだった。
--⑵--
俺が通う慈愛院学園、通称『慈愛園』は、男女比率が【2:8】で私服自由。 この学園は創立から二十年も続く由緒正しき超名門校。 そしてそこに通う者達の大半は人ではない。では、何なのか? それはいくつも上げれば切りがない。 ので、わかりやすく言えば、ファンタジーのお決まりとも言える『亜人』、AI機能が特化した『アンドロイド』、他にも色々な人外がいる。ちなみにこの学園を統括する理事長は俺の母の兄だ。ついでに言うと、人間である俺と妹がこの学園に通うことが出来たのは、母の兄のお陰でもある。
「はぁ、朝から散々な目にあったぜ」
「ホントお前の妹って可愛いのにおっかねえよな」
俺と京治は憂鬱な気分で外出用シューズから室内シューズに履き替え、廊下を歩いていると、壁一面に部活動勧誘ポスターや美術部の最優秀作品のポスター、学園生徒へのお知らせの紙などが一面と貼られているのが目に入った。
(ふーん、どれもこれも凝った作りしてんなぁ。 って、この絵って妹華のじゃん。 アイツ、ビッチの癖に美術部とか意味わかんねえ)
と、そんなどうでもいいことを呟きながら自身の教室がある二階の階段を登り、【2-4】と書かれた標識の扉を開けた。 そして足を踏み入れると、鼻先スレスレを何かが物凄い速さで通過していった。 俺は恐る恐る壁に突き刺さった何かの方に視線を移すと、そこには、消しゴムがめり込んでいた。 あの消すために使うあの消しゴムが壁にめり込んでいた。 常識を覆すことに成功したその消しゴムの持ち主の方へと視線を移すと、腹を抱えて大爆笑している男女がいた。
「プハハハハ!! だ、だっさぁ!!」
俺を指さして笑う金髪のチンチクリは俺のクラスメイトで理事長の娘で鬼と人間のハーフの、慈愛院 桜花だ。服装は妹華が着ている猫耳パーカーの兎バージョンだ。 下はチェックのスカートで、黒いニーソックスを履き、相変わらず足裏にローラーがついた特別性室内シューズを履いている。 性格は人をからかうことが大好き。 いわゆるドSだ。
そして--
「ご、ごめんね。ケータ君、面白すぎ・・・クフフ、あはははは!!」
口を押さえて笑いをこらえようと頑張っていたが結局大笑いしている茶髪(前髪にヘアピン)の長身イケメンは桜花の幼馴染みで超能力者、海堂院 新だ。 服装は白のワイシャツに紺色のダメージジーンズを履いている。靴は学院指定の室内シューズだ。 こいつは優しく時に厳しい世話好きな性格をしている優しい長身イケメンだ。 しかも頭もよく、運動神経もいい。 いわゆる完璧超人だ。 だが、凄く純粋だから下ネタに対する免疫は皆無、そして、簡単な嘘や冗談も真にに受けてしまうほどにピュアなイケメンだ。 ちなみに『ケータ』とは俺のあだ名で、本名を、久慈宮 兄太だ。
「桜花、消しゴムめり込ますとか馬鹿力すぎんだよ」
「は? また食らいたい?」
桜花が俺を睨み、コンパスを取り出し、投げるモーション姿勢のまま告げた。 俺は両手をあげ、降参の意を表した。 流石にコンパスは洒落にならない。消しゴムならまだしも、コンパスなんてもんが俺の体にぶつかれば必ず貫く。 それほどまでに桜花のパワーは危険なのだ。
「気を取り直して、おはよ。 ケータ君」
「あぁ、おはよう。 新、メスゴ・・・桜花」
メスゴリラと言いかけて、桜花のコンパスが投げられそうになったため、普通に名前を呼び挨拶を交わした。
「そうえば今日は朝から体育かぁ」
「そうだね、僕は運動あまり好きじゃないんだよね」
俺が至極めんどくさそうに告げると、それに同意するように新が頬をかいて答えた。 新は運動神経抜群のくせに運動が好きではない。 そのため、こいつは俺と京治と同じ『文芸部』に所属している。 因みに文芸部を選んだ理由は、幼馴染みの岸野院 雫に誘われて仕方なくの形で入部した。 ついでに言うと、京治は俺が無理矢理入部させた。『友は道連れ、たとえ地獄だとしても』by俺。
「あ、そうえば・・・メスゴリ、じゃなくて桜花」
「何? ゲンゴロ・・・ケータ君」
俺の言葉に苛立ちを顔を表しながら尋ねる桜花もといメスゴリラ。 俺は両膝をつき額を地面につけこう叫んだ。
「俺に朝ごはんを恵んで下さい! お願いしまぁあああす!!」
静かな教室内に響く俺の懇願の叫びに、全クラスメイトが驚いた顔でこちらを振り向いた。 だが、その程度のことでへこたれるほど俺は甘くない。 羞恥心を捨てなければならない時が誰にだってある。 それが俺にとっては今なのだ!
「おにぎりでも、ポテトでも、もしくはラーメンでもいいから!! 可哀想な私めにお恵みをォおおおおお!?」
「うるせぇッ!!」
突如、教室の扉が思い切り放たれ小学生ぐらいの女の子が桃髪の後頭部をボリボリと搔きながら、スカートのポケットに手を入れた状態で入ってきた。そして、その女の子は教卓(裏に隠れている踏み台の上)に立ち黒板を思い切り叩いた。
「おい、そこの阿呆」
「あ、あ、華薇先生・・・これはその」
「問答無用だ。 今なら半殺しで許してやっからこっちに来い」
教卓に立つ我がクラスの鬼畜教師--四ノ宮 華薇はスカートの中が見えることもお構い無しという感じに胡座をかきながら小さな手のひらでこっちに来いと手招きした。 俺は何も言わず逃走を図った。 扉を開け外に飛び出す瞬間、
「逃げたらお前、留年な」
「・・・」
華薇先生の脅迫に俺は無言で扉を閉めた。 どうやら最初から俺のような無能にはどうすることも出来ないようだ。 結局、無能な俺は権力のある者に従うしかない。 本当に理不尽な世界のルールだ。
「それじゃぁ、相談室に行くぞ。 兄太」
「・・・うっす」
俺は華薇先生の細い両腕でチョークスリーパーをくらわされ、完全に無力化されて足を引きずられながら教室を出ていった。 ちなみに、正直言ってチョークスリーパーする必要は無いと思いました。
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