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お薬の国の輝くん

作者: クレヨン

 一話 輝君とおくすりの国とヌイグルミ



 (あきら君は街で一番大きな病院に、お引っ越しして春夏が過ぎた。

 春、桜満開の公園で、お胸イタイイタイしてから、病院(おくすりの国)のベッドが輝君のお部屋で、お日様の笑顔が見える部屋がお家になった。

 優しいお母さんや、お父さん、面白いお兄ちゃん、お友達や、白い帽子に白い服で日替わりで来るおくすりの国のメイドさん、みんなが笑顔でお話をしてくれます。

 初めはおくすりの国と言って、はしゃいでいた輝君でしたがこの頃は、下を向いてばかりです。

 「あのね、いつまで僕、お家のお留守番するの?」

 輝君はほっぺを風船みたいにプクーっと、ふくらませながらお布団を触っていました。

 「まぁだだよ!輝君、強いからこのお部屋のお留守番してね。」

 おくすりの国のメイドさんは、今日もお留守番の仕事を、輝君に押し付けて来ます。

 輝君は、「もういいよ!」と言うと、お布団に潜り込んでしまいました。

 しばらく、もぞもぞしていましたが、「エーン、エーン」と勇者はお布団を濡らしました。

 「困ったわね……」

 メイドさんは声にしない声で、つぶやきました。


 その日の夜のこと。

 輝君はお部屋から出たくなり、メイドさんにはないしょで、病院の冒険をしようと思いました。

 僕は、強いんだ。

 だから、おくすりの国を、旅するんだ!輝君はそんなことを考えていました。

 みんなが夢みるころ、輝君はコッソリ部屋を出ます。

 少しお胸がへんですが僕は勇者だ!と、言い聞かせます。

 夜の病院は、静かです。

 そして、何だかさみしいです。

 輝君はキョロキョロとしながら、足をいつもよりゆっくりと、前に出します。

 ゆっくり、ゆっくり……。

 輝君は、お勉強するお部屋の前に来ました。

 お母さんやお父さんが使う魔法を教えてくれる所です。

 輝君もここで、お絵かきや字を教えてもらい、計算は勇気として大切な魔法だと、いっしょうけんめいおぼえています。

 だれもいない……。

 くらいお勉強部屋は、さびしいので輝君は立ち去ることにしました。

 僕はこわくないと、言い聞かせながら……。

 おくすりの国の道を、おそる歩いていくと、見たことのない所へ来ました。お部屋がいっぱいあって、お母さんやお父さんみたい人がお部屋を出入りしています。

 どうやら、おくすりの国の中にある、ちがう住人たちが暮らす所に来てしまったようです。

 輝君は、お部屋が恋しくなりました。

 帰ろう……。

 輝君は冒険して来た道を、帰ることにしました。

 ゆっくり、ゆっくり、僕は怖くない

 僕は勇者

 輝君は自分を励ましながら、ゆっくりゆっくり……。  

 そうやって、お勉強部屋まで戻ってきました。

 その時です。

 ガラガラガラ……

 扉が開く音がします。

 輝君は、何?周りを見ました。  

 すると!

 カサカサ……

 何かが、お部屋に入ったようです。

 何だろう?

 輝君は確かめたくて、仕方ありません。

 よし!

 歩くはやさを、ほんのちょっぴり上げるとお勉強部屋のまえに来ました。

 あっ!

 扉が少し……あいている。

 輝君はまたちょっぴりお胸が、イタくなってきました。

 輝君は、はーはーと息がつらいです。

 どうしよう?

 輝君は、少し考えました。

 そして、こたえは……

 僕は勇者だ!

 輝君は、扉をあけました。

 明かりのきえたお部屋に、お月様はやさしく光をとどけてくれます。

 輝君は、お部屋を見ます。

 …………

 …………

 ……あっ!

 窓のいちばん遠い所のおくすりの国のかたいかたい地面に、毛むくじゃらの「何」かが、眠っています。

 何だろう?

 輝君は、確かめて見ます。

 「何か」の前に来ると、しゃがみこんで寝てるかも知れない「何か」を、ジロジロと見ました。

 うーん、よくわかりません!

 よし!

 輝君は起きないように、ゆっくりと手をのばしました。

 そして、捕まえます。

 何だか、モフモフしています。

 輝君はお月様の明かりが、いっぱいふり注ぐ教室のまん中まで、連れてくるとそこでもう一度確かめて見ます。

 あっ……。

 それは、クマのヌイグルミでした。

 オシャレなお服と、おズボンを身に付けた、つぶらな瞳がかわいいクマさんです。  

 輝君は、ヌイグルミにきいてみます。 

 「キミは、どこから来たの?」

 ヌイグルミは、しゃべりません。

 やっぱりかぁ……。

 ヌイグルミをもとに戻そうと、しました。

 その時です。

 輝君のお胸が、とってもイタくなりました。

 このイタみはおくすりの国へ来るまえに、おそわれたイタみといっしょです。

 輝君はお部屋の冷たい地面に、うずくまりました。

 ドキドキ!

 ドキドキ!

 ドキドキドキドキ!!

 お胸の中にある太鼓が、輝君にたすけてと力いっぱいなり響きます。

 でも、輝君は動けません。

 「たすけて、くるし……ぃ、ぉかぁさ……ぉと……」

 輝君の冒険は、ここまででした。



 お日さまの光がやさしく、輝君のお家に入ってくる朝、輝君は「うーん」と言って目がさめました。

 輝君は、周りをキョロキョロ見ます。

 あれ?

 輝君はどうして?とビックリです。

 僕、どうして、お部屋でお留守番しているの?

 アタマをひねっていると、そこにおくすりの国のメイドさんが入って来ました。

 「輝君!」

 目のさめた輝君を見て、メイドのオバサンは目を潤ませながら近くにきました。

 「ダメでしょ!ちゃんとお留守番しなきゃ!」

 そう言うと、胸のポケットから、携帯電話を取り出し、

 「輝君、目がさめました!」

と、泣いているような声で叫んでいます。

 その叫びのあとに、お母さんとお父さんがお家に急いで来ました。

 「ダメでしょ!輝!」

 お母さんは、泣きながら輝君を叱ります。

 お父さんは、ホッと笑顔です。

 「お願い、輝君もう二度と、お留守番をサボらないで!」

 お母さんは、強く輝君を抱きしめると、約束よと強く言い聞かせてます。

 見たことないお母さんの怖い顔に、

 「ごめんなさい……」

と、言うと、 

 「お留守番、サボりません」

と、やくそくしました。

 お父さんはお母さんの肩を叩き、コクンとうなずきました。

 すると、お母さんは笑顔になり、やくそくよと小指と小指で握手をしました。

 輝君はしょんぼりしながら、「うん」と言いました。

 それを見たお母さんは、また輝君を抱きしめました。

 僕、助かったんだ……。

 輝君、不思議です。

 どうして?ここに戻ってこれたのかな? お家を見渡します。

 ……!

 あれ?

 お日様の見える窓のすみっこに、昨日見たモフモフを見つけました。

 そう、クマのヌイグルミです。

 「お母さん、あれは?」

と、輝君はヌイグルミを指差しました。

 お母さんは、そこを見ます。

 「これね!輝君がお勉強するお部屋で、イタいイタいしてた時に、しっかり両腕で抱いていたのよ。」

 お母さんは、言いました。

 そうなんだ。

 お父さんはヌイグルミを持ってきて、輝君に見せました。

 輝君はヌイグルミを手に取ると、顔をジッと見ます。

 不思議です。

 こんなの、お部屋に居たっけ? 

 頭をひねります。

 「クマちゃん、気にいった?輝君、あげるよ。」

 メイドのオバサンは、言います。

 輝君は少し考えて、コクンとうなずいて近くの机に、ヌイグルミを置きました。

 「絶対よ!お願いね!」

 お母さんは、何回もお願いしてきます。

 輝君は、お願いされるたびに、「うん」を言いました。

 クマのヌイグルミは、そのやりとりをただジッと見ていました。


 二話 お家に家族が増えたよ


 銀杏の葉っぱが、黄色く色付き、地面にいっぱい落ち着いてくる秋の終わりごろ。

 輝君は、今日もお留守番をしています。

 あのときから、一回もお外へは出ていません。

 たいくつな、いつものお留守番のはずでした。

 だけど、今日は何やら変です。

 お母さんとお父さんがいて、たくさんのメイドさん達が、輝君のベットをすみっこに移していました。

 そして、その後に知らない、おじさんとおばさんが、輝君のお父さんとお母さんに、何かお喋りをして四人でお辞儀をしています。

 なぁに?

 輝君が頭を傾げているとドア開き、ベットが部屋に入って来ました。

 輝君は、ビックリしました。

 それはベットがお部屋に、入って来たからではありません。

 ベットの上に輝君と同じ位の女の子が、膝を抱えて座っていたのです。

 女の子はピンク色のパジャマに、頭に包帯を巻いていました。

 「ママ!パパ!」

 女の子は、不安そうです。

 「大丈夫よ」

 声をかけたのは、ママです。

 パパも、ウンウンと頷いています。

 輝君はなんなの?と、目を丸くしています。

 「輝君のお父さん、よろしくお願いします」

 女の子のパパがお辞儀をすると、輝君のお父さんもいっしょに、お辞儀をしました。

 それを見たママと、お母さんはいっしょにお辞儀をします。 

 輝君はまだよく判らず目を丸くしながら、キョロキョロしています。

 「パパァ」

 今にも泣き出しそうな小さな声が、隣から聞こえて来また。

 その声を、輝君は聞き逃しませんでした。

 隣を見た輝君は、女の子を見ます。

 女の子の大きな瞳は、涙でウルウルとしていました。だけど、偉いのは女の子は、泣きません。

 輝君は、そんな女の子に、

 「キミは誰?」

と、声をかけました。

 少女は、輝君の声に顔を向けました。

 「!」

 輝君は顔を真っ赤にして、顔を下にしました。

 ……

 輝君は、顔を下に向けたままです。

 どうやら、お母さんやお父さんの他に、「好き」ができたようです。

 ほっぺがあついです。

 「輝、いい?これからは、真奈美ちゃんといっしょに、お留守番するのよ!」

 お母さんは、言いました。

 「輝君、今日から、このお部屋で、真奈美をお願いね。」

 ママと言う人からも、言われます。

 まなみちゃん?

 輝君は、女の子を見ます。

 赤いほっぺのまま見ます。

 「あっ、あの……、僕は輝

あきら

です。」

 輝君は、あいさつします。

 「アタシ、真奈美まなみ……よろしく」

 真奈美ちゃんも、あいさつをしました。

 よく見ると、真奈美ちゃんもお耳が真っ赤です。

 あら、お似合い!

 メイドさん達は、みんなわらっています。

 「あっ、そうだ!」

 輝君は、大きな声をあげました。

 真奈美ちゃんが、みんなが輝君を見ます。

 輝君は近くに置いてある机から、あのクマのヌイグルミを取ると、真奈美ちゃんに「はい」と見ました。

 真奈美ちゃんは、大きな瞳をキラキラさせて、「わぁー、かわいい、くれるの?」と、言いました。

 輝君は、力づよく「うん」と首をたてにふると、手をのばしヌイグルミをわたしました。

 抱えていた膝をはなした真奈美ちゃんは、輝君のベットまて来ると、クマのヌイグルミを受け取りました。

 ヌイグルミは、何故か笑ったようなかんじを輝君はうけました。

 そして、真奈美ちゃんも「このクマちゃん笑っている」と笑顔です。

 周りは、みんなが笑いました。

 何だか、ヌイグルミは、みんなを笑顔にしてくれます。

 「ねぇ、このクマちゃん、お名前は?」

 真奈美ちゃんは、輝君にききました。

 えっ!

 輝君は、ビックリしました。

 そう言えば……

 輝君は、ヌイグルミに名前を決めていませんでした。

 「ごめんないよ。良かったら、名前つけてくれる?」

 輝君はオドオドしながら、言いました。

 「いいの!」

 真奈美ちゃんは、うれしそうに瞳を輝かせました。

 「うんと、うんと、……。」

 真奈美ちゃんは、いっしょうけんめいに考えています。

 「うーん……思いつかないよ」

 真奈美ちゃんは、ヌイグルミに顔をスリスリしながら言いました。

 スリスリ……

 何だか、ヌイグルミは、くすぐったそうです。

 それを見ていた輝君は、プクーっとほっぺをふくらませています。

 スリスリされているヌイグルミに、くやしさを感じてならないのです。

 真奈美ちゃんは、ほっぺのふくらんだ輝君を笑いながら見ています。

 ふくらんだほっぺが、ふーせんみたい

 ……あっ!

 「フーちゃん!」

 真奈美ちゃんは、いきなり大きな声でヌイグルミを見ていた。

 お家の中のみんなは、その声にビックリです。

 そして、誰よりも、輝君がビックリでした。

 「フーちゃん、フーちゃん!」

 真奈美ちゃんは、うれしそうにフーちゃんをギューッとします。

 これを見ていた、ママとお母さん、パパとお父さん、それにメイドさん達は大丈夫そうだと笑っていました。

 「これから、お願いします。」

 輝君のお母さんが言うと、

 「こちらこそ、お願いします。」

と、真奈美ちゃんのママが頭を下げた。

 お家の空気が和んだ中、輝君だけは少しおもしろくなかったようでした。

 こうして、輝君のお家に、真奈美ちゃんとフーちゃんとの、生活が始まります。

 だけどそれは……ママやパパ、お母さんやお父さん達を苦しくさせる時間の始まりでもありました。



 三話 たたかう天使たちの笑顔


 クリスマスいつもは、家族みんなでケーキとご馳走を食べる輝君と真奈美ちゃんでしたが、今年は違います。

 おくすりの国の、お家で二人と一匹?がケーキを食べてます。

 メイドさんは、いっぱい二人の所へ来てくれて、「メリークリスマス!」と言って歌ったり踊ったりしてくれました。

 その後にまなみちゃんのママや、輝君のお母さん達がきて、みんなでホームパーティーもしました。

 みんな、笑っていました。


 二人は窓から落ちてくる、雪を見ています。

 見つけたのは、真奈美ちゃんでした。

 夕方、パーティーの終わった頃に、真奈美ちゃんが見つけました。

 いつもは、メイドさんがカーテンで目隠ししますが、この日だけは少しだけ、そのままにしてくれました。

 二人は、中庭に降り積もる雪を見ています。いつもなら、すぐにお庭のライトが消えるのですが、この日はサンタさんのプレゼントとしてしばらく明るく照らしてくれます。

 雪は、静かに舞い降ります。

 何だか、不思議です。

 「きれい!」

 真奈美ちゃんはフーちゃんを抱きしめながら言いました。

 「うん」

 輝君も、そう言いました。

 輝君は、いつしかフーちゃんに、ほっぺを膨らまさなくなりました。

 フーちゃんも、僕の家族なんだと考えるようになったからです。

 「真奈美ちゃん、雪は好き?」

 輝君は、聞きました。

 「うん、でも、寒いのはイヤ」

 フーちゃんを抱きしめながら、真奈美ちゃんはこたえます。 

 「どーして、あったかい所に、雪は降らないかな?」

 二人は、いっしょうけんめい、考えました。

 けっきょく、わかりません。

 「僕達、もっと、お勉強しないとダメみたい」

 輝君は、こたえを見つけました。

 「うん!」

 真奈美ちゃんも、元気にお返事をします。

 二人のながれる時間は、あたったかく、たのしく、そしてせつない……。

 フーちゃんは、何だか少しかなしい顔をしているみたいでした。


 お正月が過ぎて、一月もおわりになりました。

 二人は、お勉強部屋にいました。

 お部屋でお母さん達がつかう魔法の、お勉強をしています。

 ちなみにこの日は、さんすうという魔法のお勉強です。

 お部屋には二人とフーちゃん、そして魔法をおしえてくれる、メガネをかけた魔女がいました。

 じつはこの魔女、輝君にスゴくおこることがあり、輝君はあまり好きではありません。  

 「輝君、そこ違うわよ!」

 また、怒られました。

 「はい、ごめんなさい」

 なみだをいっぱいためながら、輝君は消しゴムでそこをけします。

 そして、また考えてこたえを、書きました。

 「輝君、それも、ちがうわよ」

 また、おこられます。

 輝君は、鼻水がでています。

 「輝君、こうだよ」

 真奈美ちゃんは、やさしくこたえを、おしえてくれました。

 真奈美ちゃんは、頭がよく魔法もいっぱい使えます。

 「さすが、真奈美ちゃん!スゴいわぁ」

 魔女は笑顔で、真奈美ちゃんを見ました。

 輝君は、ただくちびるをかんでいます。

 しかし、魔女はなぜだか、呪いの呪文を真奈美ちゃんに唱えてしまいます。

 「真奈美ちゃん、どーして頭の中にオデキなんか出来たのかしら?」っと!!!

 呪いをかけられた、真奈美ちゃんは、にぎってたエンピツを落としてしまい、フーちゃんの所まで転がっていきました。

 真奈美ちゃんの大きな瞳をから、たくさんの涙があふれてきます。

 それと同時に、大きな泣き声が教室に響きました。

 輝君は、「真奈美ちゃん泣かしたー!」と、きびしい顔で魔女をにらみます。

 魔女は「そ、そんな……あっ輝君がこんなカンタンな引き算出来ないからです。」と、なんと輝君がワルモノにされます。

 「ちがう!真奈美ちゃん泣かしたぁ!」

 輝君は、魔女に勇気をむかってたちむかいます。

 「何ですって!」

 スゴい顔の魔女は、輝君に近づいてきました。

 その時です。

 お部屋の外から、たくさんの足音が聞こえお部屋に入って来ました。

 「先生!」

 メイドさんは、みんなスゴい怒って魔女を見ています。

 「なっ何ですか?私が何かしたんですか?何があったかわからないのに、教室に入って来て!」

 魔女は、スゴい顔でみんなを睨みつけました。

 すると一人のメイドがある所を、指差しました。

 その先には、なんとお話する所がはずれた電話がありました。

 この電話は、おなしする所が外れるとすぐにメイドさんがたくさんいるお部屋に、つながるようになっています。

 つまり、メイドさん達は、魔女のした悪いことをみんな知っていたのでした。

 何かいいたげな魔女を、メイドさん達はみんなでかこみ、どこかへ連れて行ってしまいました。

 そして、一人お部屋に残ったメイドさんは、真奈美ちゃんを励ましています。

 輝君は、不思議でした。  

 なぜなら、いつお話するところが外れたのか?という不思議です。

 お勉強部屋にきたときは、外れてなかったのに……?

 輝君は、おはなしする所をもどそうと、電話にちかづきました。

 あっ!

 そして、

 あれ?

 輝君はビックリしました。

 さっきまで真奈美ちゃんの近くにいたフーちゃんが、今は電話の前で寝ていたからです。

 いつ、こんな所に? 

 輝君は、フーちゃんを手にとり、あちらこちらをジロジロと見ています。

 ……ジロジロ見ています。だけど、おかしな所はどこもありません!

 「輝君!」

 真奈美ちゃんの声に、輝君はふりむきました。

 「輝君、ありがとう」

 真奈美ちゃんは、耳とほっぺを真っ赤にしていいました。

 それを、見た輝君は、

 「うっ、うん」

と、こちらも真っ赤になっていました。

 「輝君、勇者になったね!」

 メイドさんは、目を細めて笑います。

 何だか、照れくさい輝君は、フーちゃんをつかむと、真奈美ちゃんにわたしました。

 「ありがとう」

 真奈美ちゃんは、フーちゃんを受けとると抱きしめます。

 けっきょく、今日は、お勉強はおしまいになり、二人とフーちゃんはお部屋でお留守番をすることになるのです。


 その夜、輝君と真奈美ちゃんは、なかなか眠れませでした。

 いつもはお家の明かりが消えたら、すぐに眠くなるのに、この日の夜はなかなか寝付けません。

 「輝君、おきてる」

 真奈美ちゃんは、小さな声で輝君を呼びます。

 「うん」

 輝君は、真奈美ちゃんに言いました。

 二人とも、お昼のことがあるようです。

 この日の夜空は、キラキラとお星さまがいっぱい輝いています。

 二人はカーテンを少し開けて、お星さまを見ていました。

 「キレイ!」

 真奈美ちゃんは、瞳をウルウルさせています。

 「あっ、流れ星だ!」

 輝君も、流れ星が見れてゴキゲンです。

 「輝君、ありがとう」

 真奈美ちゃんは、言いました。

 「えっ?」

 「お昼のことだよ」

 大きな瞳は、輝君の顔を見ています。  

 いつもより近くに、真奈美ちゃんがいるので、輝君はなんだかお顔があついです。

 「ううん、真奈美ちゃんが泣いたから、だからだよ。」

 輝君は、少しドキドキしながら言いました。

 真奈美ちゃんは、笑顔です。

 おくすりの国の、お家から見える夜空に、明るいお月さまは優しくお家に光をとどけてくれます。

 二人は、何もしゃべらないで、ただ見ていました。

 「あのね……」

 真奈美ちゃんは、輝君にしゃべり始まります。

 輝君は、真奈美ちゃんを見ました。

 「アタシ、輝君の所にお引っ越しする前にね、看護師さんとお医者さまにね、アタシの頭の中をみてもらったの」

 「かんごし……さん?」

 輝君は、頭をひねります。

 「おくすりの国のメイドさん、ほんとは看護師さんて言うって、パパが教えてくれたの」

 「へぇー」

 輝君は、真奈美ちゃんは何でも知っていると、感心しました。

 「アタシの頭の中にね、悪いバイキンがいるんだって、少し前にお医者さまと看……ううん、メイドさんがやっつけるために、頭を見てくれたの」

 真奈美ちゃんの瞳が、ウルウルしています。

 輝君は今まで見たことない真奈美ちゃんに、驚いています。

 「お医者さまが、見たあとね……ママやパパとにほめられたの『がんばったね』『えらかったね』って……でもね」

 真奈美ちゃんは、泣き出しました。 

 「どうしたの?真奈美ちゃん?」

 輝君は、ビックリしました。

 「真奈美ちゃん……真奈美ちゃん……どうしたの?」

 輝君は、真奈美ちゃんが心配です。 

 すると、真奈美ちゃんは、顔を上げて

 「アタシ、やっつけたの?って言ったら、ママが『大丈夫だよ』って、笑ってくれた!でも、でも!ママの、『おめめ』悲しそうだったの!

 アタシが、悪いことして、おこるママの『おめめ』といっしょだったの!アタシ、アタシ!」

 真奈美ちゃんは、大きな声で泣き出しました。 

 こんな真奈美ちゃんは、初めてです。

 大きな泣き声は、お家にひびき、輝君のお耳に入ります。

 輝君は、そんな真奈美ちゃんの両手を取ります。

 真奈美ちゃんは、輝君を見ました。

 あたたかいぬくもりのある輝君の両手に、真奈美ちゃんは泣くのをやめました。

 そして、輝君は真奈美ちゃんに、ビックリすることを言います。

 「真奈美ちゃん、僕ね、こころがないんだよ」

 「えっ?」

 真奈美ちゃんは、ビックリです。  

 ビックリに、真奈美ちゃんは涙が止まりました。

 「おちゃわん持つ方のお胸にね、心があるんだけど、僕ねそこに『あな』があるんだって。その『あな』から、心が落ちるんだ、だから、僕はみんなよりすぐ疲れるんだ」

 輝君は、かなしい顔をしています。

 だけど、輝君は泣きません!

 「やさしいメイドさん、お母さん、お友だちに、お兄ちゃん、みんな笑ってくれるの。

 僕に笑ってくれるんだ。

 だから……」

 「だから……」

 真奈美ちゃんは、聞きました。

 「だから、僕も笑うの。みんなが笑うから!」

 輝君は、笑顔で真奈美ちゃんに答えます。

 「真奈美ちゃん。どんなときでも、笑おうよ!二人で笑ったら、また遊べるようになるよ!」

 輝君の笑顔に、真奈美ちゃんはお耳とほっぺ……いいえ、お顔ぜんぶが真っ赤です。

 「輝君、ありがとう」

 真っ赤なお顔のまま、真奈美はお礼を言いました。

 「アタシ、みんなに笑ってほしい……だから、泣かないね!」

 真奈美ちゃんは涙を両手てふいて、笑顔になりました。

 「真奈美ちゃん、ありがとう」

 輝君はそういうと、笑顔で真奈美ちゃんを見ました。

 真奈美ちゃんのベットの隅っこで、フーちゃんは二人の会話を聞いていました。

 笑っているようです。

 そして、複雑そうにも、見えます。

 明るい夜空に、お月様はやさしい光をとどけてくれる夜でした。

 二人は、小さいながらも強く生きます。

 そう、強く……です。



 四話  お父さんとパパ


 三月の中頃、輝君にいいお話がありました。

 上の学年になれると、お母さんが笑顔で言っていました。

 だけど今日の輝君、顔が泣き出しそうです。

 なぜなら、輝君は今、変な機械でお胸を調べているからです。

 「輝君、大丈夫だよ!」

 お医者さまは、そう言いながら何かをしています。輝君に笑顔をくれません。

 「はい、よく頑張ったね」

 お医者さまは、言いました。  

 でも、やっぱり笑顔はありません。

 メガネ姿が、なんだかとてもコワいです。

 「少しは、笑えよ!」

 変な機械を使ってたお兄さんが、くちびるをとんがらせています。

 「輝君、今日もお仕事、ご苦労様!」

 お兄さんは、笑って頭をなでてくれました。

 コワいお顔のお兄さんですが、すっごくやさしいのを輝君は知っています。

 だから、輝君も笑顔であいさつしました。


 


 真奈美ちゃんは、ママとお医者さまと三人でお話をしています。

 「真奈美ちゃん、がんばれる?」

 お医者さまが、言いました。

 お医者さまは、笑顔がありません。

 「うん……」

 真奈美ちゃんは返事をしますが、なんだか怖そうにしています。

 やはり、お医者さまとは、笑わない人なのかも知れません。

 「真奈美ちゃん、これから真奈美ちゃんのママとお話があるから、もう、お部屋に帰ってもいいよ……」

 お医者さまはそう言うと、メイドさんが動くイスを持ってきます。その動くイスに、フーちゃんが座っていました。

 なんだか、いばっているみたいです。

 真奈美ちゃんはフーちゃんを抱きしめると、いすに座ります。

 そして、無言のままここを離れます。

 お部屋を出て、イスに乗った真奈美ちゃんは、エレベーターに乗った時、「アタシ、先生キライ!」

 真奈美ちゃんは、フーちゃんを強く抱きしめながら言いました。

 「真奈美ちゃん……」

 メイドさんは、なんだか困ってます。

 メイドさんは、真奈美ちゃんがお医者さまがキライなワケを、知っています。だからこそ、困っているのです。

 「大丈夫!」

 メイドさんは、笑って励まします。

 励ますしかないのです。

 「フーちゃん、アタシ、良くなるかな?」

 真奈美ちゃんは、フーちゃんのオメメを見ながら言いました。

 だけどフーちゃんは、何も答えてくれません。

 ただ真奈美ちゃんをジーッと、見つめているだけです。

 エレベーターを降りて、イスはしばらくメイドさんが、動かしてくれています。

 メイド達のお仕事するところをとおり、お家のドアがならぶところ、そこの一番端っこに真奈美ちゃんと輝君のお家のドアがありました。

 「さっ、お家につきました!」

 メイドさんは、言います。

 メイドさんが、ドアを開くとそこには、だれもいません。

 いつもなら、輝君がお迎えしてくれますが、今日は輝君より早く帰ってきました。

 「輝君、まだみたい。お留守番できる?」

 メイドさんは、真奈美ちゃんに聞きます。

 「うん!大丈夫!」

 ようやく、真奈美ちゃんは元気にお返事しました。

 お昼すぎ、真奈美ちゃんはフーちゃんとお留守番中です。輝君はまだ帰って来ません。

 フーちゃんとのお留守番は、たいくつです。

 どーしたのかな?

 コンコン……

 ドアをたたく音がします。

 輝君?なんか違う……

 「はあーい」

 真奈美ちゃんは、声をかけます。

 ドアが開き、そこには男の子と、小さな女の子そしてパパがいました。

 「パパ、お兄ちゃん、加奈美!」

 真奈美ちゃんは、よろこびました。

 うれしい、驚きです。

 フーちゃんをベットにおくと、みんなをおむかえします。

 「真奈美ちゃん、平気?元気かい?」

 声をかけたのは、パパでした。

 「うん、大丈夫だよ!」

 真奈美ちゃんは、元気にこたえます。

 真奈美ちゃんとパパ達は、楽しくお喋りを始めました。

 はやく、輝君こないかな……と、真奈美ちゃんは思いました。

 しばらく、真奈美ちゃんはお話を楽しんでいます。

 コンコン……

 ドアをたたく音がします。

 輝君?

 真奈美ちゃんは、体をのりだして確かめます。

 ドアが開き、真奈美ちゃんは、がっかりと、あれ?が、まじります。

 そこにいたのは、輝君のお父さんです。

 何だか、すこしお顔がかたいです。

 「パパさん、よろしいですか」

 輝君のお父さんは、言いました。

 「はい、わかりました」

 パパも、言います。

 二人とも、顔がこわばってます。

 「みんな、仲良くね」

 パパはお父さんと二人、お家をでます。

 真奈美ちゃんは少ししんぱいでしたが、兄妹のお見舞いに喜んでいました。


 

 動くイスに、輝君は乗っています。

 メイドさんと、楽しく輝君はお話中です。

 イスは、中庭に続く道を進みます。 

 お外へ行くためではありません、この道がお家に早く帰れる近道だからです。お外出る少し前で、輝君は道を変えました。

 ……あれ?

 「あっ!」

 輝君は、大きな声をあげます。

 その声に、メイドさんは、進むのをやめます。

 「どうしたの?輝君?」

 メイドさんは、輝君に聞きました。

 輝君は中庭から見えるあるものに、不思議なお顔をしています。

 輝君が見ているもの、それは……

 輝君のお父さんと、真奈美ちゃんのパパでした。

 輝君のお父さんが、真奈美ちゃんのパパに、すっごいお辞儀をしています。

 なんだか、すごく悲しそうです。

 真奈美ちゃんのパパは、おズボンを強く握りしめて、怒っている?いいえ、怒って見えるくらいのクシャクシャなお顔で、お父さんを見下ろします。

 「お父さん、どーたの?」

 輝君は、そこに行こうと立ち上がりました。

 でも、メイドさんが、行かせてくれません。

 「輝君、お外は寒いから、お家へ戻ろう。真奈美ちゃんも待ってるよ!」

と、慌てて言います。

 どうやら、輝君、見ては行けないものを、見てしまったのです。

 輝君が何か言いたげなのを、メイドさんは無理やりイスを動かしていきました。


 真奈美ちゃんは、嬉しい顔です。

 ひさしぶりに、妹とお兄ちゃんが遊びに来たからです。

 「お兄ちゃん、あのね……」

 真奈美ちゃんは、嬉しくて仕方ありません。

 「香奈美、もうすぐ学校だね」

 真奈美ちゃんの、お顔は本当に楽しそうです。

 後は、輝君が帰ってきたら、とってもとっても楽しいはずです。

 はやく、はやく帰ってきて!

 そこへ、輝君が帰って来ました。  

 真奈美ちゃんは、来たぁと瞳をキラキラさせました。

 「輝君、紹介するね! 

 お兄ちゃんと、香奈美、妹なの

 ……どうしたの?」

 真奈美ちゃんは、輝君の様子が変なのに気付きました。

 「何でもないよ、こんにちわ! 輝です。」

と、あいさつを輝君はします。

 輝君……

 真奈美ちゃんは、何だか輝君が気になりました。  

 夕方、おくすりの国のごはんを食べた二人は、何もしゃべらず静かにしています。  

 特に、輝君はもの静かです。

 やっぱり、おかしい……

 「輝君、どうしたの?」

  真奈美ちゃんは、言いました。

 「うん?」

 輝君は、おかしな返事をします。

 「今日、変だよ」

 真奈美ちゃんは、はっきり言いました。

 少し、オメメがコワいです。

 輝君はあの事を言うかどうかで、 迷ってます。

 ……よし!

 「真奈美ちゃん、よく聞いてね」

 輝君は、言うことにします。

 中庭での出来事を、お父さんが頭を下げてパパが

悲しそうな顔をしていたことを……。

 真奈美ちゃんの顔が、暗くなりました。

 何だか、泣きそうな顔です。

 「ゴメンね、輝君」

 真奈美ちゃんは言います。

 「ううん、僕の方こそ、ごめんなさい」

 輝君も、言いました。

 二人共、お喋りをしなくなりました。

 そして、この日はこのまま、おやすみなさいになりました。

 真奈美ちゃんは、フーちゃんを見ています。

 そして、声にならない声で

 「アタシ、大丈夫だよ!」

と、言いました。

 真奈美ちゃんの瞳には、大きな涙がこぼれていました。

 翌日、今日も晴れました。

 フーちゃんを抱きしめた真奈美ちゃんは、輝君を見ました。

 輝君は、ニコニコして寝ています。

 まだ、夢の国に遊びに出てるみたいでした。

 真奈美ちゃんは、フーちゃんの顔を見ます。

 モフモフのお顔に、真奈美ちゃんは笑顔になりました。

 「あのね、フーちゃん……」

 真奈美ちゃんは、フーちゃんに語りかけます。

 「輝君に、もし何かあったら、助けてあげてね」

 そう言うと、真奈美ちゃんはフーちゃんのお腹にほっぺをスリスリしました。

 フーちゃんのお服に、真奈美ちゃんの匂いがします。 

 いい匂い……

と、思ってるかどうかは、わかりませんが、フーちゃんは、うれしそうです。

 「うーん」

 輝君は、目を覚ましたみたいです。

 「おはよう」

 真奈美ちゃんは、声をかけます。

 「おは……よう」

 輝君は、まだ夢の世界から、抜けていません。

 「輝君」

 真奈美ちゃんは、輝君に声をかけます。

 「おはよう、真奈美ちゃん」

 こんどは、しっかりあいさつをする輝君。

 ようやく、夢の国から、お家へ帰ってきたようです。

 「今日も、がんばろう!」

 真奈美ちゃんは、言いました。

 「うん」

 輝君も、うなずきます。

 こんな普段の一日が今日も、続きますようにと、真奈美ちゃんは願いをこめます。

 その日が、とつぜん、やって来ることもしらずに!



 五話  あのね僕……


 三月の終わり頃、お外は雨が降っていました。

 少しずつですが、あったかくなってきますが、この雨は寒く冷たい……輝君は思いました。

 真奈美ちゃんを見ます。

 何だか、変です。

 実は、少し前から顔色が悪く、元気がありません。

 「大丈夫?真奈美ちゃん」

 輝君は、声をかけます。

 真奈美ちゃんは、うっすら目を明けて、『うん』とうなずきます。

 でも、しゃべりません。

 フーちゃんは、輝君のベットの上で見ています。

 元気がなくなってから、輝君のベットにおじゃまする時間がふえました。

 フーちゃんは、何だかジーッと真奈美ちゃんを見ているようでした。


 その日の午後です。

 真奈美ちゃんの息が苦しそうで、はげしくうなっています。

 ぜったい、変だ!!!

 輝君は、メイドを呼ぶブサーを力いっぱい鳴らします。

 「はい、輝君それとも……」

 メイドさんの声に、

 「真奈美ちゃんが……」

と、輝君は泣きそうな声で叫びます。

 「わかった!大丈夫!」

 メイドさんは、そう言いました。


 ブサーの後、たくさんのメイドさんとお医者さまが真奈美ちゃんを囲んでいます。みんな、すごくコワいお顔です。

 「真奈美ちゃん、どうしたの?」

 輝君はメイドさんに聞こうとしますが、誰も輝君にふりむいてくれません。

 「先生!用意できました!」

 そう言って、メイドさんがまた来ます。

 「みんな、行こう!」

 お医者さまの声に、メイドさんは真奈美ちゃんをベットごと、お家の外へ運んでいきました。

 輝君はただ、それを見ているだけでした。


 どれくらいの時間が、過ぎたでしょうか?

 一人ぼっちになり、輝君はうつむいています。

 真奈美ちゃん、大丈夫かな

 輝君は、この想いで頭の中がいっぱいです。

 大丈夫……だよね!

 大丈夫だよね!

 フーちゃん……

 あれ?

 輝君は、ビックリしました。

 フーちゃんが、いません。

 さっきまで、ベットの横で、いっしょにいたフーちゃんが、いないのです。

 輝君は、お家を見渡します。

 でも、フーちゃんはどこにもいません。

 どーして?

 お家の外が、なんだかうるさいです。

 たくさんのメイドさん達がお外にいました。

 そして、みんなでお家に入って来て、輝君のベットを動くように魔法をかけます。

 「輝君、行こう!」

 一人のメイドさんが、笑顔で力いっぱいに言いました。

 「えっ、どうしたの?」

 輝君はまだ、よくわかりません。

 わからないまま、エレベーターに乗せられ、三階でおります。

 そこには、凄い格好のメイドさん達とお医者達が輝君を待っていました。

 「輝君、来ました!」

 その声とともに、みんなは動き出します。

 輝君は、何がおこるのか、まだわかりません。

 「輝君!」

 聞いたことある声がします。

 お母さんです。そして、お父さんとお兄ちゃんもいます。

 「お母さん!」  

 輝君は、笑顔でこたえます。

 輝君の笑顔に、ホッとするお母さん達でしたが、顔がすぐにコワくなりました。

 そして、一言

 「がんばって!」

と、励まされます。

 「がんばって!」の呪文に、メイドさん達とお医者さま達は、手術室しゅじゅつしつへ輝君といっしょに入っていきます。

 輝君の記憶は、そこでなくなりました。 


 どーしたの? 

 どーなってるの? 

 真奈美ちゃんは?

 輝君は、うなされています。

 どーしたの?

 どーしたの?  

 「……君!」

 誰が、呼んでいます。

 「あ……ら君」

 聞いたことある声です。

 この声、真奈美ちゃん?

 輝君は、目を明けました。

 そこには、オシャレなお洋服を、着た真奈美ちゃんがいました。

 「真奈美ちゃん!」

 輝君は、ビックリしました。

 あんなに苦しそうにしていた真奈美ちゃんが、元気に笑っています。

 あれ?

 輝君は、自分もきれいなお洋服を着ていることに、気付きました。

 どうして?

 輝君は、頭をひねります。

 「どーしてかなぁ」

 あれ?誰かの声がします。

 聞いたことない声です。  

 輝君は、あたりを見ます。

 お天気のいい、草原に輝君と真奈美ちゃん、そして、フーちゃんがいました。

 フーちゃん……

 えっ、ウソだ!

 輝君は、フーちゃんを見ます。

 「どーしてでしょう!」

 やっぱり、この声はフーちゃんです。

 「フーちゃん、おしゃべりしてる」

 輝君は、ビックリです。

 「ピンポーン、そう、僕でーす。」

 フーちゃんは、身ぶり手ぶりで輝君とお話します。  

 「輝君、ビックリしたでしょ!アタシも、ビックリしたんだぁ」

 真奈美ちゃんは、笑いながら言いました。

 真奈美ちゃんの笑顔は、すごく可愛く輝君はほっぺが真っ赤になりました。

 「どうしたの?」

 真奈美ちゃんは、輝君に聞きます。

 「真奈美ちゃん、可愛いからさ」

 答えたのは、フーちゃんです。

 「こ、こら!」

 輝君は、フーちゃんに大きな声をかけます。

 ほっぺはまだ、赤いままです。

 「あはは……」

 フーちゃんは、にげました。

 輝君は追いかけます。

 真奈美ちゃんは、大声て笑っています。

 みどりの草原に、にぎやかな声が響き渡ります。 心地よい空気は、やさしく明るく、あたたかいです。

 輝君と真奈美ちゃんは、いっぱい笑いました。

 フーちゃんも、うれしそうです。

 「ねえ、輝君」

 「何?真奈美ちゃん」

 輝君は、真奈美ちゃんに応えます。

 真奈美ちゃんは、耳とほっぺを真っ赤にしています。

 「けっこんしき、しようよ」

 真奈美ちゃんは言いました。

 フーちゃんも、コクコクとうなづいてます。

 「けっこん……式?」

 いきなりの、言葉に輝君は、ビックリしました。

 「お父さんとお母さんになるの?」

 「そう、パパとママに!」

 「輝君! アタシのこと、好き?」

 真奈美ちゃんは、うつむきながら言いました。

 「うん、好きだよ! ……わかったしよう!」

 輝君は、真奈美ちゃんをみながら応えます。  

 輝君の瞳は、すごくやさしいです。 

 真奈美ちゃんは、顔をあげるとその瞳を見てうれしくて、笑顔であふれていました。

 「それじゃあ、お二方、しばらく、おまちあれ!」

 フーちゃんはそう言うと、草原に大きな教会をつくりました。

 「うわぁ!」

 真奈美ちゃんは、よろこんでます。

 「フーちゃん、君はだれ?」

 輝君は、ビックリしてます。

 「さあね、それじゃ、お二方、それー!」

 フーちゃんは、そう言うと、二人に光をふりかけます。 

 すると、今まで着ていたお洋服が、輝君は格好いいタキシードに、真奈美ちゃんはすごく真っ白なウエディングドレスを着ています。そして、手にはキレイなブーケを持っていました。

 「さっ、けっこんしき始めよ!」

 フーちゃんは、そういうと扉を開きます。

 「さっ、二人とも行こう!」

 フーちゃんは、二人を教会の中に案内しました。


 そこには、小さな祭壇がありました。

 そこに、フーちゃんが先回りして、神父様になって待っています。クマの神父様はどこか愛らしいです。

 二人は、赤い布がある道をゆっくり、歩き始めます。

 真奈美ちゃんは、うれしそうです。

 輝君は、周りを見ています。

 そして、真奈美ちゃんを見て笑います。

 二人が、祭壇に来ると、フーちゃんはしゃべり始めます。

 「汝、輝、真奈美をどんなときも守り、愛を誓うか」

 フーちゃんは、かんたんに言います。

 「うん! わかりました」

 輝君は、言いました。

 「汝、真奈美、どんなことがあっても輝を守り、心一つを誓うか」

 フーちゃんは、真奈美ちゃんに言います。

 「はい、誓います。」

 「よし、これで二人は心が一つになった。それではキスを……」

 フーちゃんは、言いました。

 神父様としては、変ですが変なりにこなしました。

 真奈美ちゃんと、輝君は向き合い、真奈美ちゃんは目を閉じて輝君のくちびるを待ちます。

 輝君は、恥ずかながらも、キスをするために顔を近づけました。

 そのときです!

 「輝……君」

 「輝君!」

 えっ何か聞こえます。

 とこからか、輝君を呼ぶ声がします。

 「輝君、がんばれ!」

 「お母さん、お父さん、兄ちゃん……みんなが、輝君を待ってるんだ!!!」

 「がんばれ」

 「負けないで!」

 「輝君!生きろーーー!」

 この声は、お母さんのこえでもあり、お父さんの声でもあり……

 み、みんなの声だ!

 みんなが、待っているんだ!

 そうだ、僕と真奈美ちゃんは!

 ……

 ……

 ……?

 変です。

 真奈美ちゃんは、目を開けます。

 !!!

 そこには、泣いている輝君がいました。

 「あ、輝君?」

 あっけに取られている真奈美ちゃんを、輝君は強く抱きしめます。

 そして、

 「やっぱり、ダメだよ、こんなさびしい『けっこんしき』はダメだよ、お母さんもお父さんも真奈美ちゃんのママやパパ、お兄ちゃんに妹にたくさんのお友達!

 みんなが、笑ってくれる『けっこんしき』じゃないとダメだ!

 真奈美ちゃん、戻ろう!

 みんなの所へ、戻ろうよ!」

 輝君の大きな声は、真奈美ちゃんの心にひびきました。

 真奈美ちゃんの瞳から、たくさんの涙が、こぼれてきました。

 輝君は、真奈美ちゃんの手をとると、教会から出ようとします。

 だけど、真奈美ちゃんはその手を捨てるように外すと、輝君を見ました。

 「輝君、ありがとう、愛してます」

 大粒の涙をこぼしながら、真奈美ちゃんはニッコリ笑っています。

 いい、笑顔です。

 真奈美ちゃん……

 輝君は、真奈美ちゃんに手をのばします。

 だけど、真奈美ちゃんにさわることが、出来ません!!!

 教会がくずれます。

 そして、みどりの草原が真っ暗な世界にかわり、そこに、真奈美ちゃんとフーちゃん、そして輝君がいました。

 「さようなら、輝君、今度会うときは、心一つだよ。」

 真奈美ちゃんは、そう言うと闇に消えいきます。

 笑いながら、消えいきます。

 輝君は、ただ見ています。

 なにが、おきているのかまだわかりません。

 だけど、真奈美ちゃんが、くらやみに食べられるのはわかりました。

真奈美ちゃんが、食べられる!

 だけど、声が出ません。

 そして、動けません。

 とうとう、あたり一面、真っ暗になりました。

 ようやく、輝君は動けるようになりました。 

 だけど、周りは真っ暗、真奈美ちゃんもいません。

 「真奈美ちゃん!」

 輝君の声が、くらい世界に響きます。

 輝君は、かなしくなりました。

 そして、泣き出しました。

 「輝君!」

 輝君の足元から、声がします。

 輝君は下を見ました。

 そこには、フーちゃんがいます!

 「フーちゃん!」

 輝君がフーちゃんを、抱きかかえようとします。

 だけどフーちゃんは、それから逃げました。

 「どうしたの?フーちゃん」

 輝君は、フーちゃんを見ます。

 「輝君、今までありがとう。実は僕、真奈美ちゃんをお迎えに来たんだ。」

 フーちゃんは、言いました。

 「真奈美ちゃんは、違う所で幸せに暮らすの!」

 フーちゃんは言い続けます。

 「そこには、真奈美ちゃんのママやパパはいるの?」

 輝君は、聞きました。

 「いないよ!でも、真奈美ちゃんは幸せになるよ!」

 「ならない、家族がいないなんて………ならないよ!」

 輝君は、叫びます。

 フーちゃんは、その叫びを体で受け止めました。

 「真奈美ちゃんは、良い子だ!間違いなく良い子だ、だから、輝君は生きろ!生き続けろ!それが、真奈美ちゃんの願いだから。」

 フーちゃんはそう言うと、向こうを差します。

 「あそこにむかって、歩きなよ。そこに、お母さんとお父さんが待っているから……」

 フーちゃんは、言いました。

 ん?

 何か聞こえます。

 「あ………ん」

 「あ……ら、く…」

 それは、声です。

 輝君の大好きな……

 「あきら……くん!」

 お母さんのそして、みんなの声です!

 「お、お母さん」

 輝君は、笑いました。

 心から笑いました。

 あっ!

 輝君は、左のお胸に心地よいぬくもりを感じます。

 どうやら、輝君の左胸にぬくもりが、付いたようです。

 「さっ、お母さんを悲しくさせないで!」

 フーちゃんは、そう言い声のほうを見ています。

 「うん、フーちゃん、帰るよ。みんなの所へ!」

 「さようなら、最後にいい?」

 フーちゃんは、輝君を見ます。 

 「僕ね、フーちゃんって名前じゃないんだよ」

 「えっ?」

 「僕、『死神しにがみ』って名前なんだ。」

 そう言うと、フーちゃん……いいえ、死神はまた声のほうを向き、輝君に「早く帰れ!」と命令しました。

 輝君も、命令にすなおに聞き声のところまで、走っていきました。



 最終 真奈美ちゃんは?


 輝君はなんだかいっぱい機械があるお部屋で、目が覚めました。

 ここはどこ?

 首を小さく横に動かしていると、メイドさんがそれに気が付きました。

 「輝君!」

 おどろきと、よろこびの声は、お部屋いっぱいに広がりました。

 みんなが、輝君に集まります。

 みんなが、よろこびます。

 そんなよろこびの中、輝君は一言

 「真奈美ちゃんは?」

と、言いました。

 みんな、静かになります。

 メイドさんの一人が、泣いています。

 そっか……

 真奈美ちゃんは、フーちゃんと違う所へ行ってしまったんだ……と、わかりました。

 すなおに、よろこべない輝君でした。

 その後に、お母さんとお父さんが泣きながら喜びながら、お部屋に入っていきました。

 お母さん、お父さんはみんなに、お辞儀をしています。

 あの日のお父さんが、真奈美ちゃんのパパにしていたように……

 「ごめんね、真奈美ちゃん」

 輝君の声に、お母さんとお父さんは、動かなくなりました。

 お父さんは、お母さんの肩をだきしめています。

 お母さんの泣き声が、お部屋いっぱいに聞きます。

 輝君は、心を真奈美ちゃんからもらったのです。

 そして、真奈美ちゃんは……

 お部屋の中の機械は、むなしく輝君のお胸の波を作っていました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優しい文章で語られる大人の童話。その独創的な世界に、驚きました。 “お薬の国”で、それぞれの役目を懸命に努めている登場人物たちに魅力を感じました。 [一言] 優しくあたたかみのある文章であ…
2016/06/13 17:32 退会済み
管理
[良い点] 二年ほど間を開けて改めて読んでも染みますね。寧ろ今の方が迫るものがあります。 お気に入りは流れ星の夜、二人が自身のことを話すシーン。輝君の強さと真奈美ちゃんの素直さに、はっとさせられます…
[一言] 臓器移植のお話だったのですね。 お父さん同士の話し合いをしているシーンで気がつきました。 実際、相手の親に頼み込んで自分の子供に移植をお願いするのは可能なことなのかしら? と童話にあるまじき…
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