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狂乱! 炎の怒りと氷のまなざし

「はぁぁあああ!!??」

ルミエラさまは水晶玉で、たぶん先ほど行ったメロンの街をみながら唸った。

「おのれルミエラとは生意気な……!! わたしは全知全能じゃないけど神なのよ!!

それにこなかった方がよかったですって? このクールでビューティフルなこのわたしが萎びたジジィと野郎共しかいないようなクソ田舎にに出向いてやったと言うのに……!!」

「ルミエラさま! は、羽根が少し黒くなってますよ!!」

「ふふふふ、あはははははははッ!」

怒りで堕天が進行しているようだ……禍々しいオーラが現れ始める。

「このわたしのぉ、光の剣でぇ、ククク……あのメロン畑のメロンを全て切り身にして食べてやるわ……ウフフッフウ〜〜!!」

ああ、なんてことだ……

あの清らかな長い金髪が冷たい銀色に……

あの美しい純白の羽根が邪悪な漆黒に……

あの艶やかな肌が魔の蒼紫に……

ルミエラさまが……堕ちていく……

ハッ! 僕は何を見とれているんだ! なんとかしなきゃ!

「リヒテル……このわたしを嘲るものどもを殲滅するわよ……

わたしは神なのよ……生意気な地上人どもめ……天界から丸ごと地上を滅ぼしてやるわ……わたしの究極奥義『断空剣』でね……アハハハッ!!」

「ちょ、ちょっと!?」

目は虚で口から涎を垂らし、フラフラとした足取りで歩く悪魔以上に悪魔な見た目になってしまったルミエラさま。

一体どうしてしまったんだ……ってそんなコト考えている場合じゃない、世界が聖なる色に染められてしまう!!

あげた右手は目がくらまんばかりの光を放っている……ヤバイ!!

「アハハハッ!! しんじゃえーーッ!!」

「うわああああああ!!」

すさまじい力に圧倒され、思わず叫んだその瞬間

「ちょっとどいて」

何者かの気配が突如現れ、僕の肩を引っ張り……

「銀界」

そいつが左手でパチン、と指を鳴らすやいなや、辺り一面が氷漬けになってしまった!!

「う、うわっ、何コレ!? 寒っ!!」

身体がブルブル震え出すほどの冷気。 窓の外も辺り一面銀世界で、雪まで降る始末。

ルミエラさまはおぞましい表情のまま氷漬けになっている。

その隣には、氷の翼をもつひとがいた。 こんなことができるなんて、間違いなく神だ。

燃えるような橙のメッシュが入った銀色のつややかな長い髪のきれいな女の人だ。

ただ、服は白と橙のストライプだったりチェックだったりと、なんかハデだった。

そんな氷漬けにしたのであろう張本人は氷のまなざしで僕を見つめた。


「あなたがリヒテル君ね……」

「あなたは一体……」

「私の名はケルスティン、熱を司る神よ……」

熱か、とても便利そうだなあ、空調に困らないし。

なんてのんきなことを考えてる場合じゃない!

「ルミエラさまは!」

冬眠(コールドスリープ)状態よ。 死んではいないわ……」

良かった。けど、あの堕天使みたいな感じになっちゃったのは……?

「最近の神は憎まれ慣れていないのが多いのよね……」

ケルスティンはコツコツと凍ったルミエラさまを拳で突く。

「ルミエラさまに何が起こったんですか!?」

「彼女は地上の瘴気に少しやられちゃったのよ。 地上に慣れていない神は邪悪に対する免疫がないから、ちょっとしたコトで必要以上に罪の意識が生じるの……」

「邪悪?」

「人々の負の感情よ。 怒りや妬み、欲望、怠けに奢り。 いずれも世の中の真や善・美を見失わせるものよ。 例えば……」

少し考えるように俯いあと、いたずらっぽく笑いながら続けた。

「そうねぇ、ふふ、闇堕ちしたルミエラ、艶やかだなぁ、とかヘンなことを考えてたりしちゃってた?」

「ッ!」

まるで大悪魔のような出で立ちであっても健在の、あの美しさに見惚れてしまった事が見透かされて、恥ずかしい……

「そんなやましい事を考えてたなんて……クスッ。 でもね、それは絶対にしてはいけないという意味ではないわ。 これらの感情は時に大きなチカラを生み出す原動力となることもあるしね……」

「そ、そうなんですか」

「むしろ、それを抑える理性を保てばいいの。 でもルミエラは出来なかった。

彼女が感じたあの街の人間の意外な感情と彼女自身の煽り耐性のなさが招いた結果ね。

しばらく氷漬けにして、アタマ冷やしてもらうしかないわ……」

氷漬けにすると頭が冷えるのか……なんか神たちっておおざっぱだなぁ。

「そんな事よりお腹減ったわ……ここには何かないのかしら。」

えーーっ!? いきなり飯を出せって言われても。

「天使である以上、ここで働いてるんでしょう? 君の料理、見てみたいな……」

「は、はぁ……」

冷たいまなざしが少し柔らかくなった気がした。 ま、まあ、少しぐらい作ってあげてもいいか。 材料費はルミエラさまもちだし……

さあ何を作ろうか。 冷蔵庫を覗いていると生クリームがなぜかたくさんあった。 これでパフェでもご馳走しようかな。

取り出してキッチンにもどった。

ケルスティンはガラスの戸棚を眺めているようだ。

「あっ、あれ、私のあげたコーヒーじゃない……」

ケルスティンは棚の瓶を指差した。

「そうね、そのコーヒーも一緒に淹れてもらおうかしら……」

ケルスティンが右手の指をパチンと鳴らすと、隣に置いてあったヤカンから蒸気が噴き出した。

「わっ……こ、これで淹れればいいんですね?」

「ええ、お願いね」

ケルスティンは水晶玉で何やら眺めている。 勝手に人ん家にきてくつろぐなんてなぁ……

はぁ、っとため息をついたその時だった。

ガタっ……サクッサクッ……

何やら物音が聞こえ、雪を踏みしめる音がかすかに聞こえる。

誰かここに来るのだろうか。 音のした方向にある窓から外を覗いてみるが誰もいない。

やれやれ、空耳か。 僕も年を取ったなぁ……

キッチンに戻り、チラッとリビングを覗った時だった。 そこにはなんと、悪魔が立っていたのだ!!

気配を全く感じさせず突然現れた……こいつはレベルが高そうだ……!!

それに、ケルスティンは気付いてないのか!

「貴様がルミエラか、覚悟ッ!!」

ナイフを腰にあて、ダッシュ突っ込んでくる! 人違いをしているが、ケルスティンを狙っているのは確かだ!

「あ、危ない!!」

僕はとっさにケルスティンを突き飛ばしていた。

「あらっ……!!」

悪魔はそのまま勢いあまって壁に激突、

ケルスティンはくるっと空中で宙返りをし、音もなく着地した。

「誰かしら…」

「あ、悪魔ですよ!! ここに攻めて来たようです!!」

「ふぅん、そうなの……」

「そうなのって……!!」

なんだかあまり気にしてない様だが、あの悪魔のさっきの動きはとても素早かった。

やはり、本当にレベルが高いようだ。 僕のかなう相手ではなさそうだ……

「二回目の覚悟ッ!!」

しかし、それでも戦わなければ!

「じゃまだ! どきなァ!」

悪魔はナイフを持っていない方の腕をぐるんと回して打ち付けてきた!

「うぐぅッ……」

あっさりと吹っ飛ばされてしまう。 見た目によらず馬鹿力だ。

悪魔はそのまま目にも留まらぬ駿足でケルスティンに駆け寄りナイフを突き刺してしまった!

「あ、あぁ……!」

なんてことだ……目の前で悪魔に、神を殺させてしまうなんて……!!

「く、くそ、クソッ!!」

天使の名折れだ……いかに知らない神とはいえ、こんな……

「ちょっと、どうしたの? テンペル君……」

「へ?」

ケルスティンの声が聞こえる。

おかしい、確かに刺されたのをこの目で見たのだが……

それに、彼女は涼しい顔をして微笑んでいる。 これは一体!?

「な、なんだと……!!」

刺客の悪魔も同じようなことを思ったようだが、もっと不思議なことが起きていた。

なんと、刺したと思っていたナイフは柄から先が跡形も無くなっている!

「バカな……(かす)れば即死の猛毒だぞ……!!」

「はぁ……ちゃんと聖書でお勉強したのかしらねぇ……」

「……お、お前は誰なんだ?」

「私? 私はケルスティン……」


「なっ……ま、まさかッ!!」

それを聞いた悪魔は顔を引き攣らせ、ズルズルと後ずさりしている。

一体どうしたというんだろう……

ケルスティンは立ち上がるとゆっくりと悪魔へと歩き出す。

「わ、やめろ……来るな……」

「真正面から挑むなら戦士として扱ってあげるけど、暗殺なんてはしたないヒトはちょっとねぇ……」

といい右手をあげる。

「た、たすけ……」

右手をパチンと鳴らすと、指先から眩い光が迸った!

そしてその瞬間、悪魔は姿も形も無かった。 音もなく消えてしまったのだ。


そうだ、ケルスティンは大丈夫だろうか……って大丈夫に決まってるか。

指を鳴らしただけで相手を消してしまう程の強さなのだからむしろ邪魔だったかもしれない、そう思っていたら意外な言葉が返ってきた。

「かばってくれて、ありがとう。 お礼をしなきゃなね……」

ケルスティンはゆっくりと顔を近づけてきた。

「ふふ。 目をつぶって……」

「え、ええ?」

「ほら、早く」

言われるままに目を瞑る。

視界は真っ暗になり何も見えず、凍りついたルミエラさまから来る冷たい空気だけが感じられた。

そして……

頬に柔らかくそして暖かい感じがした。

次に何かが流れ込んでくるような快感を覚え、頭がぼうっとしてきた……

「あうぅっ……ケルスティンさまぁ……!?」

ケルスティンはクスクスと笑いながら言った。

「……ルミエラにはナイショよ。 私の能力(ちから)を分けてあげるわ。 勇敢な天使に神様からのご褒美よ……うふふふ」

能力(ちから)?」

って、何?

ケルスティンは、意外そうな顔をして

「あら、継承(エクステンド)って教えてもらってないの?」

ケルスティンは目を少しつぶった後、ゆっくりと継承(エクステンド)についての話を始めた。



「それでね、あなたは今、私の法術(メソッド)をちょっとだけだけど使う事ができるわ。

おおざっぱに言うと物をあっためたり冷やしたりする事ができるけど、あなたの領域(フィールド)なら、

そうねぇ、家事が少し楽になる程度かもね……」

継承(エクステンド)とは、他者の法力を自分に宿し、その者の法術(メソッド)を扱えるようにする事だという。 これを使うと、その術の呪文(コード)を勉強しなくても、法術(メソッド)名が分かっていればそれを扱うことができるのだ。 また許可されていれば、その法術を変幻(オーバーライド)できるらしいが、それを教えるにはまだまだ時期が早いようだ。

「そうだ、これもあげちゃう」

差し出されたのは指輪だ。

「この指輪は私と念話ができるものよ。 何か困ったあったら、連絡ちょうだいね……」

蒼みがかった銀色のシンプルなデザインの指輪は僕の指にピッタリだった。 きっとこれは現象(インスタンス)だ。

「それじゃあ……ね」

ケルスティンは窓から飛び出すと、白く輝く氷の翼で飛んで行ってしまった。

「……ヘンな人だったなぁ〜〜」

ルミエラさまも大概変だが、あの人はもっと掴み所が無い……

と考えたところで思い出した。

「る、ルミエラさま!!」

やべぇ、氷漬けになったまんまだ。


そういえば温度を操れるようになったとか言っていたけど、どうやるんだろう……

ケルスティンがしていたように右手を鳴らせばいいんじゃね?

右手を掲げ、クールにパッチン! しようとしたが鳴らない。

そういや僕は指パッチンできないんだった。 同じように動かしても指を擦る音しかしない。

しょうがない、こういうのはイメージだ、イメージ! こう、温波的な何かを出している感じで手をかざしてみた。

すると、じわりじわりと氷が溶けてきた!

「うわ、これすごいなぁ」

氷はみるみるうちに溶け始め、ルミエラさまはそのまま地面に倒れ伏した。

「うっ……わたしは一体……はっ!!」

「ルミエラさま」

「何よ!! 確かにわたしの名はルミエラだってそんなこと知ってるわよ」

「えっと、ルミエラさま?」

「気なんか触れてないわあぁアアァァァァ……人間どもを丸焼きにして天使どもの飯のしてやるわあァァァァあ!!」

「共って、僕だけですよね……ってかヤですよ! 人間が飯だなんて……」

「我は救世主(メシア)。愚かな人類を抹殺する使徒なり」

まだ堕天が治ってなかったのかよ……。 もう僕も堕天してればよかったな。 疲れで。

怒りとか冷めたりしないかなー。 半ばヤケクソで指輪をはめた手をかざしてみる。 すると……

「はあ、でもわたしもあれは良くなかったかも知れないって思うわ……」

「え……!?」

ルミエラさまは頭を抱え座り込んだ。

「なんだかわけ分かんないほどムカついちゃってすごく熱かったけど、なんか『冷め』ちゃったわ」

見ると徐々に元の色に戻りつつあるルミエラさまが見えた。 感情にも効果あるのか、コレ……

「なんか色々迷惑かけてしまったようね。 ごめん……」

「いえ、気にしないでください」

ルミエラさまは座ったまま俯いてうなだれている。 もう暴れ出したりはしないだろう。

た、助かったのか。 ってオイ、た、助かったってなんだよ。 自分の主に殺されるとかおかしいだろ!

「ふう……ううっ……さぶっ……」

ホッとしたら、辺りが寒く鳥肌がたってしまった。

あったか~いコーヒーでも飲みたいなぁと、キッチンに向かったその時だ。


「う、うわっ……!!」

先ほどの悪魔の影があった! 死角に潜んで僕を串刺しにしようとでもいうのか!!

息を整え、戦いの構えをとる。

奴は意外と暗殺は素人かもしれない。 だって自分の影を見せてしまっているのだから。

さっきはビビってしまったが、いると分かれば怖くない……少しだけ。

「何、どうしたの?」

いぶかしげな顔で僕を見てくる。

「あの角に悪魔がいます……」

「あ、あれ?」

ルミエラさまは壁のシミを指して言った。

「ただのシミじゃない……」

「あれ?」

よく見れば壁にある灰色のただのシミだ。 料理の油が飛んでできたただのシミが偶然悪魔に見えただけか……

なんだ……ふっと肩の力が抜ける。

「あははは、壁のシミを悪魔と勘違いするとかないわ~~」

「な、からかわないでくださいよぉ!」

「なんなら、今度は悪魔のポスターでも貼っとこうかしら?」

「え、そんなのあるんですか?」

「アイドルのだけど……けっこうかっこいいわよ」

「そ、そうですか……」

まったく、他人事(ひとごと)だと思って……

「わたしはもう寝るわ。 おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


僕も寝よう。 しかし、あのシミが気になる。

「ホントに悪魔に見える。 こんな偶然あるのかなぁ……」

偶然の産物にしては少しできすぎな気がする。 それに、よく見ると襲ってきたあの悪魔に見えてくる……


いや、間違いない……あの悪魔だ!!


それが分かった時、背筋に寒気が突き抜けた。

あの悪魔はどこか別の場所に飛ばされたりとか、そういう術で消えたんじゃない……

あの時、悪魔はこの壁の『シミ』にされてしまったのだ……

ケルスティン、あいつは一体何者なのか……

この夜、その疑問が頭からこびりついて眠れなかった。


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