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メロンの街と炎の激突

「起きなさい……」

「うーん、あと5分、いや5時間……」

「何言ってるのよ!」

ジュッ……!! あづっ……!!

額の一点に深刻なダメージを受け、ガバッと僕は起き上がった。

「な、何するんですか!!」

「な、何するですかぁ〜、じゃないわよ」

「そ、そんな変な感じで言ってないですよ!」

「寝起きのアホ面で寝ボケた事をぬかすからよ」

外を見ると朝焼けのオレンジが空を染めている。 ずいぶんと早く起こされたようだ。 眠い目をこすりながら僕は渋々ベッドから降りる。

「ルミエラさま、一体何があったんですか?」

「見て! SOS信号を受信したのよ!」

「SOS?」

「ええ、哀れな民衆どもが手を合わせて『神様助けてぇー』って拝み倒しているわ」

「哀れなって……」

ルミエラさま、たまに辛辣な事を言うけど大丈夫なのかな……


「昔はねぇ、街に教会直属の天使がいるのが普通だったのだけど、今人手というか天使不足らしくてね〜〜

なんでも神にコキ使われたくないとか、なんで自ら進んで奴隷にならなきゃいけないのかとか言い始める不届き者が多いらしくて。 ホント、今のガキ天使どもはいい身分だわ。わたしのときなんか……」

「ソレ、話長いですか?」

「ほら、こういうナメた口利いてくるし、ほんっとゆとり世代は……」

「す、すいません……」

怒られてしまった。

「そんな事よりSOSはどうなったんですか?」

「あ、忘れてたわ、行きましょう、今すぐ!!」

「え、ちょっ!!」

ルミエラさまは僕の手を掴むと、そのまま空の島から飛び降りた、

「待ってまだ歯ァ磨いてなあああぁぁぁぃぃぃ!!!」



ドスン。

「痛たた……」

思いっきり尻餅をついてしまった。

あたりは低い草がぼうぼうと生えている草原で、向こうの方に街が見える。

もうここは地上だ。

天界で暮らしているときは未知の領域だったが、一度来てしまうと慣れたもんだな、なんて思いながら辺りを見ていると、突然ピカッと閃光が走った!


「うわっ、なんだ!?」

もうどこからか攻撃か!? 辺りをきっ、と見回す。

「ルミエラさま、どこからか狙われているようです!」

しかしルミエラさまは、なんかニヤニヤして不気味な余裕だ。

「うふふ、撮れた撮れた」

ルミエラさまは手に何か見慣れない黒い箱のような道具を持っている。

「な、何ですかそれ?」

「カメラっていう人間が作った道具で、これを使うと写真って言うね、今見える景色をそのまま紙に写した物が作れるのよ。 本当は露光に時間がかかってね、しばらくの間じっとしてなきゃいけないけど、わたしって光の女神でしょ? 強力な光を放って一瞬で露光を終わらせられるってわけ」

「つまり、さっきの光って……」

「わたし、わたし!」

はあ……

なんとも言えない状況に体の力が抜ける。

「何やってるんですか、全く!!」

「だってあんた、超ビビってるんだもの。 気楽にいきましょうよ」

確かにガチガチだったかもしれない。 立ち上がって、街へ向かって歩き始めた。


「ところで何をその写真とかっていうの、何が写ってるんです?」

「知りたい?」

「まあ気になりますが……」

あの何の変哲もない草原だが、ルミエラさまは何か物珍しい物でも見つけたのかもしれないと思ったのだ。

しかし、その回答は予想を越えていた。

「それはね……ズッコケた、あんたよ」

「ハァ……!? ぼ、僕ゥ???」

「そうそう、余りにも見事な、いい尻餅の突きっぷりだったからつい……」

なにいってだこの人……


「…………もう、真面目に仕事してくださいよ!!」

「何イキリ立ってるのよ、煽り耐性ゼロね。 固い心持ちだと心がポッキリ逝っちゃうわよ。 もっと柔軟な心を養いなさい」

「え、えーー……」


意味不明な理論で追い込まれてしまう。

僕何か悪いことしたかな……などと考えながら歩いていると、街の入り口のどでかい門の目の前に到着した。

「さあ、行くわよ!」

「ハイ!」

すこし緊張しながらも門をくぐり抜け、とりあえず教会を目指した。




街は大きかったが、教会は門に近くてすぐに見つかった。

石畳みの道が入り口の門から玄関へと続いており、結構大きくて立派な教会だ。

入り口の大きな木の扉は、押すとギイーッと音をたててゆっくりと開いた。

中に入ると随分と広く感じる。 辺りを見回していると、

「ああ、女神さまっ!!」

どこからともなく声が聞こえ、ひょこひょこと背の低い老人が現れた。


「ようこそおいでました、ルミエラさま。 さあさ、席にお掛けください。」

勧められるままに席に座ると、若い女の人がやって来た。

「お飲み物はなにに致しましょう?」

「えーっと……」

僕が悩んでいると、ルミエラさまは向かいの席に座っている男が飲んでいる、不気味な緑色の飲み物を指差した。

「あの緑のは何かしら?」

見るからにヤバそうな液体を男はおいしそうに飲んでいる。

「あれはメロンソーダと言いまして、この街の特産品なのですぢゃ。

見た目で嫌厭する人もおりますが、味は良いと評判ですぢゃ」

「へえ、じゃあそれ、お願いしようかしら」

「では、メロンソーダ、お持ちしますね」

女の人はとっとと行ってしまい、僕は頼み損ねてしまった……


しばらくすると、あの女の人があの緑の何かをもってやって来た。

「メロンソーダでございます」

「あら、ありがとう」

グラスには毒々しい緑色の液体が湛えてある……

ルミエラさまはそれを手に取ると、ゴクゴクと飲み始めた。

「甘くてピリピリしてる……おいしいわね、この飲み物」

「お褒めに預かりまして光栄ですぢゃ」

「じゃ、そろそろお話を聞かせてもらおうかしら。 一体何があってわたしを呼んだの?」

「実は……」

ルミエラさまが切り出すと、老人はやや伏せ目になった。

「実は……わしら自慢のメロン農園に、ドラゴンが現れたのですぢゃ」

「ど、ドラゴン!?」

「そいつは朝昼晩と農園に現れ、メロンを1日3個パクパクと平らげてしまうのですぢゃ…… 農園の人は追い払おうと武器を取ったらしいのぢゃが、頭からカジりつかれそうになった様でのう、命からがら逃げてきた様で、とても困っておるそうですぢゃ」

ドラゴン……誰もが知っている強力な魔物だ。

街に現れて暴れ出す前に退治しなければ!!

「ぼ、僕に任せてください!」

しかし、ルミエラさまが制止した。

「待って! 相手はドラゴンよ、それ分かってる!?

ノコノコでていって、自ら3時のおやつにでもなるつもり!?」

「そんな事いっても、困っている人を見捨てられないですよ。 おじいさん、僕に任せてください! なんとかしてみます!」

「本当ですか、ああ、ありがたい!!」

すると老人はふっと笑顔になった。

「ちょ、ちょっ……」

「では、早速メロン畑まで、ご足労願えますかな……」

そして、僕らは老人に連れられ、教会を後にしたのだった。




「うわー、広いですね〜〜」

「ホント、メロンがたくさんあるわね」

「ええ、この農園はこの街の自慢じゃからのう」

見渡す限りの緑、緑、緑……なんて広い農場なんだろう。

「ドラゴンはいつごろ現れるんですか?」

「もうそろそろ現れる時間なのじゃが……あっ! あそこじゃ!!」

遠くを見ると、何かゴソゴソ動いている!!

「そこかっ!!」

気づいたら僕の足は動いていた。

「ちょっと待って!!」

ルミエラさまの制止も耳に入らなかった。 ドラゴン……初めて戦う魔物が超有名な魔物。 どんな奴なんだろう、強いのだろうか……

気づいたら手が震えている……ドキドキとワクワクが入り混じるこの心境で自然と足取りが軽くなり、無意識にゴソゴソ動く怪しい物影のもとへと走って向かっていた。


もうそろそろだろうか、この辺りにいるはずだ!

耳をすますと、シャリシャリとメロンを食べる音が聞こえる。


「お前が畑を食い荒らすドラゴンかッ!!」

バッと敵の前に躍り出る! 目の前のその敵はッ!!

「うがッ?」

……小さい。

敵は小さな少女の様なシルエット。 しかし、体の表面は硬そうなウロコに覆われている。 こいつは……ドラゴン娘だ!

「な、なんだよぉオマエ。 ジロジロ見たって、これはアタシのだ、渡さないぞ!!」

ぐっとメロンを抱きかかえ、渡さんとしている。

何だか拍子抜けだ。 よく考えたら、そんな凶暴な奴だったらこんな所でのうのうとしてる訳ないか……

脱力してると、ふと、そのドラゴン娘が声を上げた!

「あ、その頭っ!! オマエ天使だなッ、 あ、アタシを……倒しに来たんだな!!」

「え、えーっと……」

そうだけど……そうじゃない……

なんと言えば良いのだろうと考えているとドラゴン娘は襲い掛かってきた!

「がおーっ!!」

素早い動きで、手の鋭い爪で引っ掻いてきた!

「うわっつ!」

身を翻して躱す。 するとドチャッっと音がした。

そばにあったメロンが真っ二つになっていたのだ!!

「うわっ……なんて切れ味だ!」

危なかった……ちっㄘゃくてもドラゴンはドラゴンというわけか。

「オマエ、やるじゃないかーーッ! こうなったら、これはどうだーーッ!」

ドラゴン娘はすううっと深呼吸した。ドラゴンと言えば……火だ!! まさかここで火を吐くつもりか!!

最大のピンチだ!! こんな所で火なんて吹かれたら大火事になってしまう!!

何とかこの弓で叩き伏せねばと弓を引く。しかし間に合わなかった!!

「くらえーー『ドラゴンふぁいやーー』ッ」

「うわ、アツッ!!」

ドラゴン娘の口から炎が吹きださ……れなかった。 しかしその吐息の熱は相当だ。

「ううっ、とうぶんが足りなくて炎が出ないよぉ……」

なんかヘコんでいるみたい。 チャンスだ!!

弓を引き絞りひょうと放つ!! バスっという音とともに光の矢が額に命中!!

ドラゴン娘は吹っ飛んで空中で一回転して地面に落っこちた。


「いたた、な、何するんだ、不意打ちなんてひきょうだぞっ!!」

「えっ!?」

なんと、プルプル震えながらも立ち上がった!!

クマを一撃で倒す謎威力を持つこの武器が通じないなんて……!!

「もう怒ったぞ!! お前なんか丸焦げにしてやる!!」

ドラゴン娘は怒り出し……そして

「シャリシャリ、むぐむぐ……」

メロンを急いで食べ始めた。

「……。」

弓を引き絞り……1発、2発、3発と、矢継ぎ早に撃ち込む!

「いたっ、あがっ、ぎゃああああっ!!」

なんとも悲痛な叫び声とともにドラゴン娘は倒れ伏した。 一発じゃダメでも何発もぶち込まれればタダでは済まないだろう。

「ふう……」

倒しても起き上がってきたドラゴン娘を連続攻撃でやっつけた。

とりあえず、ルミエラさまに報告しよう。 振り返ったその時だった

「くらえー! 不意打ち『ドラゴンふぁいやーー』!!」

なんと、倒したと思っていたドラゴン娘が今度はちゃんと炎を吐き出してきたのだ!!

突然の後ろからの攻撃で対応できなかった……身構える時間もなく炎が迫ってくるその時、カッと閃光が走った!

「ル、ルミエラさまっ!!」

ルミエラさまが、僕とドラゴン娘の間に、僕をかばうように割って入ってきたのだ!

しかしそれだけではなかった。 なんと、炎が消えてしまったのだ!

「何面食らっているのよ、まったく。 あんた、法術の勉強もサボっていたようね」

ルミエラさまはそう言うと、眩い光と共に一瞬でドラゴン娘に迫り、右手で正拳を浴びせた!

「……!!」

声も出せず空中に吹っ飛ぶドラゴン娘を瞬間移動で追いかけ、そのまま空中から蹴り落とす。

轟音とともに地面に叩きつけられたドラゴン娘の体が、沢山のメロンを吹っ飛ばした。

土煙の中、ドラゴン娘が地面に半分ほどめり込んでいる。 よく見ると頭から血を流しているのがわかった。 あの武器でも弾いてしまう硬い額が、である。

ルミエラさまはピクピクと動くドラゴン娘の首根っこを掴み上げ、

「あんたの方がちゃんと魔術(メソッド)を使えるとはね。 部下の方がダメだったという事が分かってしまって情けないわ……」

「え、法術(メソッド)?」

「まあなかなかにやるようだけど対策が甘いわね。 まあ、神クラスの法力を持つ相手と戦った事は無いでしょうからしょうがないでしょうけど」

そして、もがくドラゴン娘をいとも容易く押さえ込みながらルミエラさまは叫んだ!

「さあ喰らいなさい! 『ドラゴンふぁいやーー』!!」

「えっ!?」

ルミエラさまはなんと炎を吐き出した!!

「え、なんでルミエラさまが炎を!?」

継承(エクステンド)よ、基本なんだから勉強しときなさいよね!」

先ほど自分が放った以上の威力の炎を浴びさせられ、プスプスと黒焦げになってしまったドラゴン娘。あたりのメロン畑も一緒に焦土となってしまい、焦げ臭いにおいが漂う。

しかしルミエラさまは強いなぁ……そして容赦ない。

「ま、これくらいボッコボコにしてトラウマを植え付けてあげればもう悪さは出来ないでしょう」

「な、なるほど……」

前の晩の悪魔の女の子の時といい、容赦のなさの理由は分かったが、今日の戦いで一つわからない事があった。

「ルミエラさま、一体どうやってあの炎を消したんですか?」

「これは結構難しいんだけどね、硬直(デッドロック)を使ったのよ」

「デッドロック!?」

「光の術式(クラス)には温度によって放つ光が変わるという法術(メソッド)があるから、温度を抑える事なら出来るわ」

「温度を抑えるとどうなるんです?」

「えっとね、炎って周囲の温度に影響を及ぼすでしょ? でもね、その温度を変える瞬間は微小時間で確率的に揺らぎがあって、一度には変えられないの。 だから同じ空気の温度を変えるには順番待ちが必要なんだけど、そこで同じ所の温度を変えるようにすると互いに温度を変えるのを待ちあって何にも出来なくなる状況が出来上がる訳」

「でも、違う温度を変えようとしたら、温度は変わっちゃうんですよね?」

「そんなの、周りの温度を変える権力を独り占めしちゃえばいいじゃない。

制御されて無い温度の空気を僅かに残せばそいつを変えようと殺到するわ」

「うーん……」

言っている事が全く分からない。 頭の中がこんがらがってきた。

どうやら修練を積んだ後の話のようだ。

「今日は疲れたわね」

「そうですね」

「久しぶりに骨のある相手と戦えると思ったら……まさかこんなチビと……」

「ルミエラさまって戦いとか良くしていたんですか?」

「ええ、わたしは昔、天軍の副師団長だったんだから。 ヴァンパイアやサキュバス、ゴーレムなんかとも戦ったのよ」

「へえ、そんな経歴をお持ちだったなんて……凄いですね!!」

「ふふん、見直したかしら?」

「ハイ! 僕もそう言うヤツらと戦ってみたいです!」

「じゃあ、もっと勉強して強くなりなさいよね!

なんなら稽古でもつけてあげるけど?」

「え、お、お手柔らかにお願いします……」

天使と女神はやりきったというように意気揚々と天界へと帰って行ったのであった。




「終わったのならわしらに一声かけてくださればいいのに……」

老人が数名と共に静かになったメロン畑を歩いている。

「女神さま、お怪我はありませんか……うわっ、なんじゃこりゃ!!」

見ると、目の前に墨クズとなった『メロンだった何か』がたくさん転がっている。

そして、目の前にクレーター状のくぼみが出来ており、メロン畑は焦土とかしていた。

「わ、わしの農園が……何て事に!!」

「あのドラゴンが火を吹き回ったのか?」

「いや違う、見ろよ……」

若い男が指差した先には、黒コゲのドラゴン娘。

「これは酷い……まだ子供だろうに、ここまでするか?」

「おい、誰か手当をしてやれ!!」

頭から血を流して動けなくなっているドラゴン娘は、抱きかかえられて病院へと連れて行かれたようだ。

老人は深くため息をついた。

「わ、わしはちょっとコワいから説得を頼んだつもりじゃったのに……

これではメロンを食べさせた方が良かったではないか……

こんな事になるなら神なんぞに頼るのではなかった……

おのれ、ルミエラ! わしの畑を返せーっ!!」

老人の叫びは、天上に広がる夕暮れの空に吸われ、消えていった。


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