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ヒネクレネクロ  作者: Ctrl+C
プロローグ
2/12

叶 鳶郎 VS 犯罪性愛嗜好(ハイブリストフィリア)(1)

 最悪だ。僕は最悪の野郎を強請ってしまったのかもしれない。

 その男は僕がおととい撮った女子高生とのあらぬ情事の証拠写真を見せられ、言うことを聞かなければ警察へ突き出すと脅されてもなお笑っていた。不敵な笑みなんて生ぬるいものではなく、高らかに爆笑していたのだ。そして呆気にとられているうち、気がつけば僕はその男に言われるまま契約書にサインをし、「密約」を交わしていたのだった。狭くて蒸し暑い交番の外では、蝉がまるで危険を知らせるサイレンのようにやかましく鳴いていた。



 K県K市北区、周りをいくつもの寺社に囲まれた神聖なる土地に僕、かない 鳶郎とびろう が通う私立千年館大学はある。文学部に所属し日本文学を専攻しているが正直、高校生の時分に授業で夏目漱石の「こころ」を読んで以来、日本文学作品はまったく読んでいないし、そもそも興味もない。

 滑り止めで受けて運良く入学できたというだけでこの大学に在籍している僕にとっては何もかもがつまらない怠惰なだけの学生生活、3年目の今日この頃である。実家から毎月届く小さなダンボールいっぱいの食料と一緒に、「来年は就職活動ね」という手紙が入っていたがそれも見ないふりだ。

 そんな僕の唯一無二と言っていい趣味が「死体を見ること」であるがゆえに友達もいない。たまにふらりと授業へ出るため大学へ赴いたりするが、一週間のほとんどを僕の城である狭いアパートの一室で死体の写真コレクションを眺めて過ごす。

 コレクション、と言っても僕が実際に撮影したものではなく死体愛好家が集うインターネット掲示板でもらった写真などネットを通じて収集したものばかりである。常駐の掲示板にはたまにニュースで見たことがある事件の被害者の写真など珍しいものが上がってくるため、警察関係者がいるのではというのがもっぱらの噂である。

 しかしこうして新しい写真の提供が絶えないとは言っても同じような死体の写真が多く、このところ少々刺激がなくなってきていた。なるべく考えないようにしていたのだがやはり本物の死体をこの目で直に見てみたい、という気持ちは日を追うごとに大きくなっていった。


 ところで、僕の住んでいるアパートは隣に文化遺産、道路を挟んで目の前には交番というなんとも面白い立地であり、外へ出るときも帰宅するときも必ずその交番の前を通らなければならない。

 ある日の夕方17時過ぎのこと、たまたま出席した授業で行われた抜き打ち小テストに撃沈し、肩を落として帰路につく僕は一人の女子高生が警官ともめている所を目撃した。非行少女がお巡りさんに抵抗しているのだろう、と道をゆく誰もが特に注目していなかった。

 しかしなぜか僕は妙に胸がざわつき始めるのを感じた。なんだろう、あの警官少し笑っているように見える。僕はアパートの前の歩道に立ち止まりしばらくその様子に見入ってしまうほど、彼らが気になってしょうがなかった。道路を走る自動車の騒音や横断歩道をはしゃいで渡る小学生の声で二人が何を言い争っているのかはほとんど聞こえなかった。


 それでもその日から不思議と何をしようにもその光景が頭をちらつき、気づけば外出するたびあの交番を気にかけるようになった。もしかしたらあの女子高生が僕の好みだったからかもしれない、つり上がった目に大きな黒い瞳、染めているのだろう艶のある栗色のウェーブのかかった髪、その姿をもう一度見たいが為にこんなにも気にしているのだろうと思った。

 いや、そう思いたかったのだろう。本当はなんとなく気が付いていた。僕が惹かれて目を離すことができないのは女子高生ではなく警官の方であることに。僕自身、いわゆる「変人」の類であるためか、自分にはなぜか変わった人を周りに集める体質があることは分かっていた。その体質ゆえに自分と似たような人のもつ独特の「におい」を嗅ぎ分けることに関して第六感ともいえる鋭い嗅覚が備わっていることも。

 その直感があの警官は僕以上にヤバいやつだ、と教えていた。同時に僕のこの堂々巡りのような日々に刺激を与え、行き場のない欲求を満たしてくれるかもしれないと耳元で小さく囁いていた。




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