別の話を書いていたら出来上がってしまった話
暗いです、注意
ある日、ある国の国王は王妃と共に暗殺され、その他有能だった大臣たちもついでとばかりに惨殺された。国王夫妻には娘が1人いるのみで、世継ぎとなる男児は未だ王妃の腹の中だった。ただ一人残された姫君は偶々その日滅多に行わない遠い街の孤児院への慰問をしていて、生き残ることができた。知らせを聞き、飛んで帰ってきた彼女は悲嘆に暮れ、唯々涙を流す。けれども、大臣も死に、王ももういない国で公務が出来るのは残された娘のみ。残された人材は金と権力に塗れた大臣数名と、その部下、それにまだ年若い文官たちだけだった。少女の気持ちを慮る余裕もなく、家臣たちは娘に公務の雨を降らせる。14年、王妃は子宝に恵まれず少女は世継ぎとしての教育を受けていたために何とかそれらを熟すことが出来たが、仕事は増えていくばかり。家族の死を嘆く暇もないほどに不眠不休で執務に励む少女はある日限界を見た。仕事を放り出し逃げ出した彼女は逃げ込んだ庭園にて掃除に励む使用人達の噂話を耳にする。
ーー王様達を殺したのは、姫様らしいわよ
ーーお世継ぎが産まれればお払い箱、必死に良き王女の振りをしていらしたけれど
ーー顔も頭も、王様達の子だとは思えませんものね
愕然とした。確かに、弟が生まれれば少女は次期国王の地位を失うだろう。事実、王妃の懐妊を知らされた時に産まれたのが男であれば王位継承権はその子が一位となると父王に聞かされていたのだ。けれど、けれども。王妃の腹に宿ったのが男児であるとそう決定付ける根拠はどこにもないのである。国民や大臣や貴族たちが言っているだけのこと。それがまるで真実であるかのように囁かれただけのことなのだ。そんな不確かな理由で己の両親を殺める子がどこにいようか。そもそも、少女は嬉しかったのだ。己に兄弟が出来ることが。少女は喜び、名をつけるときは共にと両親に請い願い、孤児院を積極的に訪問し、子供が好む遊びや物を直接聞いていたのだ。それなのに、何故そんな謂れのない罪を囁かれねばならない。確かに頭は賢王と名高い父ほど良くはなかった。造形も、絶世のと謳われる母ほど良くはなかった。けれど、だからなんだと言うのだ。顔がよくなければ頭が良くなければ家族を愛してはいけないのか、大好きだった両親と愛そうと誓った弟か妹を殺さなければいけないのか。
怒りは限度を超え、寧ろ少女に悲しみを与える。己の無能さを突きつけられたかのようなその噂、己がもし、もう少し頼り甲斐のある王になれたなら。嘆いていても始まらない、逃げ出した公務を、余り良いとは言えない頭だけれど精一杯に熟すことこそが己が民に出来る唯一のことだと、少女は来た道をとぼとぼと戻っていった。皆自分のことで精一杯で、執務室は無人だった。逃げ出したことに気付いたものさえいないだろう。これを機に、少女を傀儡にして国を自由にしたいと企むものや、上官を失って職務に支障の出る部署もある。それらを抑え、導くものたちもいる。そこに人員を割きすぎて少女を支えてくれるものはいないのだ。そして、少女を気にかけてくれるものもまた。
その日からまた不眠不休で執務室に缶詰になった少女が外の様子を知ることはなかった。知ったのは、全てが手遅れになったその時だった。
ーー国王夫妻及び大臣各位暗殺の犯人として貴方を処刑する
突然執務室に飛び込んできた軍部の長に少女は不眠によって赤くなった目を丸くした。真っ黒なクマに、真っ赤な目、ガサガサの肌の少女はとても見れたものではなかった。ゴミを見る目を向けられて少女が己の惨状に気付くより早く、軍部の男たちに取り押さえられ床に叩きつけられる。喉から絞るように漏れた声は、何日も出さなかったことでくぐもって聞こえ辛い有様だった。
ーー国民たちの目の前で、斬首となることが裁判にて決している
嘲笑う男の目に少女は呆然とあの日の使用人達の会話を思い出す。犯人探しをしている暇は、なかったのだ。それを頼む伝手も少女にはなかったのだ。これは、仕方のないこと。裁判なんてきっと行われていないのだろう。きっと、これは国の総意なのだ。
全てを受け入れた少女は口を醜く歪め、ポツリ呟いた。
ーーああ、やっと眠れるわ
親の死を嘆く必要はない。己はもうすぐ、そこに行くのだから。
その後、この国は静かに歴史から姿を消したという