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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第五話・引越し当日・後編


 夕方六時に、モナカたちは松元の家に徒歩で行った。日が暮れかけていたが坂道を下っていくのでラクだ。帰りは貸与される軽トラに乗って帰宅するのでもっとラクなはずだ。

 松元家の庭は六台の軽トラでいっぱいだった。軽トラは道にもあふれて縦列駐車をしている。それだけの人がモナカたちの歓迎に集まってくれている。

 軽トラにはすべて、七十歳以上の運転者である四つ葉シールが貼られている。肥料の大袋やクワ、電動機などを積んでいるものがほとんどで、さすが農業地の集まりだと感心させる光景だ。

 喪井家からの挨拶(あいさつ)として布巾セットを二十軒分あらかじめ用意していたのでこの歓迎会で配るつもりだ。


 集まったのは十数人ほど、喪井家の周囲で身体がうごく老人たちが全員来てくれたようだ。

 最初に松元さんの和室に通された部屋のふすまが全部あけられて二十畳ほどの大広間になっていた。みんな笑顔でモナカたちを歓迎した。

 全員がそれぞれお酒や漬物を持ち寄っての宴会だったが、楽しかったことはいうまでもない。

 モナカたちは歓迎されて素直にうれしかった。彼らから見たらモナカはまだ若い。二歳児のアンキチのやんちゃぶりを見て喜んでいる。アンキチはその場で彼らのヒーローになった。このあたりで幼児はいないらしく、抱っこさせて、と口々に頼まれる。アンキチはようかんやタクワンなどを持たされ両手でかじっていた。

 アンキチは実はオムツはまだ取れてない。まだ言葉も拙い。

「おじーちゃん、これ、あーげる」 と自分の嫌いなキュウリを食べさせる。

「これおいちいね」 と口のまわりをあんこだらけにしてオハギをほおばる。その様子に作ってくれたおばあちゃんを涙ぐませたりしていた。

 アンキチが何気なく何か言うたびに、おばあちゃんがどっと笑ったりしていた。

 ダイフクは酒の強いおじいちゃんたちに次々と酒杯を飲ませられて早くも顔を赤くさせている。モナカは下戸なのでお酒は飲まず、田舎料理をいただく。油ものは山菜のテンプラぐらいであとは保存のきく醤油辛い煮物がほとんどだ。

 田舎料理……すべてこの土地で取れたものだ。肉類と魚とお酒以外は無料で生えているものだ。

 山菜はふきやうど、ぜんまいが多かった。はじめて知った山菜の名前もあった。それと畑でとれた大根の漬物、このあたりは秋にはきのこ類がたくさん取れるようでそれを干したものも多い。じゃがいもと玉ねぎは定番。そのほか茗荷(みょうが)が沢山出た。

 お金のかからないつつましい宴会だった。

 松元の奥さんが近所の人たちを紹介してくださった。モナカと同年代の家族はゼロ。だが国道沿いにある郵便局やJA,役場沿いに紙耐中央公民館と福祉センターがあり、そこの広場に行けばいつでもアンキチのような小さい子供をもった人たちが集まっていると教えてくれた。過疎地なりに、子供会がありアンキチの入会を心待ちにしているようだ。

 老人たちの話は長く紙耐は昔から隠れ里として有名だという話から始まって、昔お殿様が島流しにあったとき、途中の紙耐の神社にお参りされた話、特産物のトウガラシやホウレンソウの話などに長時間費やされた。それなりに楽しかったのだが、アンキチはすぐに飽きて寝てしまいモナカも疲れた。そして老人たちの顔が皆どことなく似通っていて自己紹介を受けても誰がどこの誰だがよくわからなくなった。

確かこの人は松元さんの裏の家の人だったかな、だけどこっちの人もそんな感じだったけど、違うかも。という体たらくで本人が知ったらがっかりするような感覚だ。

 その上、誰がどこの出身で誰と誰が姉妹で、親戚で友達でという話ばかり。モナカは愛想よく相槌はうったものの、内容を忘れてしまった。

 歓迎会が終わったのは夜の十時ぐらいだっただろうか、ダイフクはお酒を飲んでしまったので、モナカがダイフクのポケットからキーを出して運転した。ペーパードライバーなので心配だったが家がすぐ目の上の距離だったので助かった。

 ダイフクはこの超短時間のドライブでも寝てしまったが、着いたよ、起きて! と起こすとがばっと起きた。ダイフクのひざの上で寝ていたアンキチも起きた。

 軽トラを玄関の前に止めモナカは車から降り立った。山の冷気にダイフクは酔いがさめたようだ。急にしゃんと立って上を見上げる。

「モナカ、みてごらん。星空だよ、東京では見かけることのないすばらしい星空だよ!」

 モナカも空を眺めて驚く。降るような星空だ。こんな美しい星空を見たのは初めてだ。

 東京で見るようなぼんやりとした星が一つか二つ瞬いているのとは違う。紙耐の星空は一つ一つが大きく強い光を発する。それはまぶしいものではなく、神々しさを感じさせる光だ。

「すごい……」

 アンキチも大きく口を開けて無言で見上げている。首から下の身体を回転させている。気が付けばモナカたちもアンキチと同じように星空を見上げながら身体をまわしていた。こうすると星空がもっと輝いてみえる。星空を横切るように光の線がすっと横切った。それはなだらかで巨大な放物線を描いてコンマ以下の速さで瞬時に下に落ちていく。

「流れ星だ」

「あれが流れ星……初めて見たわ」

「幸先いいぞ、あ、ほらまた流れ星。流れ星が流れているときに願い事をするとかなえられるというぞ、知っていたか」

「もちろん。でも流れていく時間が短すぎるわ」

 モナカたちは星空を無言で見上げて今度は流れ星を探した。無言で願い事をする。一つ大きな流れ星が出て心の中で願い事が言えたのだ。それは二人同時だったのだろう。同時に顔を見合わせて笑いあった。

「モナカ、何を願った?」

「ダイフク、あなたは?」

「もちろんこの移住がうまく行くように、そして君と一生涯仲良く暮らせるように」

「まああの短い時間にそれだけ願えたのね? 皆幸せになれるようにと願ったらもう星は流れてしまったわ」

「願い事はかなうだろう」

「そうね、私は今、幸せよ」

「ぼくもだよ」

 ダイフクはモナカの頬を両手でそっとさわり、キスをした。そのまわりをアンキチが星空におもちゃのトラックを捧げるようにして跳ね回る。

 

「夜もふけたし家に入ろう。まだ片付いてないが明日の朝からしよう。これから毎晩夜空ショーが無料で見られるぞ」

「ぜいたくな話ねえ」

 モナカたちは笑いながら家の中に入ろうとして、足をとめた。眼下に見える藤期さんの家に明かりが灯っている。藤期さんの二階の窓から人影が三つ浮かんでいた。影絵のようだ。

 モナカはそっとダイフクに言った。

「ねえ、あの人たち……」

「藤期さんだ、キスしてるところ見られちゃったな、まあいいや」

「……今日の歓迎会の時に藤期さんはいなかったよね?」

「来ていなかったな」

「じゃあまだ引っ越し祝いの布巾セットがまだ少し残っているから明日あいさつに行きましょう」

 人影はまだ動かない。こちらをじっと見ている。ダイフクは酔っているので気持ちよさそうに家の中に入っていった。

 モナカは玄関の戸を閉める前にもう一度眼下の藤期の家を見下ろす。人影は一つに減っていたが、微動だにしない。モナカは薄気味悪く感じ、戸をそっと閉め鍵をかけた。




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