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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第四十四話・撤退を考える



 ダイフクは家につくと、玄関に腰かけたまま頭を抱えた。

「どうしたらいいんだ……」

「昨日の放火の件もあわせて警察に連絡しましょう」

「証拠がないよ。君が言うだけでは不十分だ」

「でも犯罪よ。早く何の粉を巻いたか調べてもらわないと。健康を害するものが入っていたとしたら大変なことよ」

「相手は元警察官だよ、彼は警察の手の内も全部わかっている。証拠がないと開き直られたら捜査も時間がかかる。白い粉の正体が判明したとしても、それが何になる? そしてこういうことが、今日が初めてでないとしたら……」

 モナカはそれを聞いて身震いをした。

 池田がもっと以前から薬品を撒いていたとしたら……稲はお米になる。そのお米は収穫後、モナカたちや消費者が口に入れる。

 モナカは力が抜けて玄関にしゃがんだ。

「初めての収穫を楽しみしていたのに。私たちの存在が憎まれるなんて。私たちは死ねばよいとまで思われていることじゃないの」

「彼らは、ぼくらには理解できない世界にいる。ここまでされるのはもう理解してあげる段階ではない。ほうれん草のことだってそうだろう。吊レさんの思考も根っこがつながっている。警察に連絡して何になる? 警察に連絡したらあの夫婦が反省するか? 吊レさんとの感情のこじれも治っていない今、これまで以上に第三区の人たちと仲良く暮らせるか」

 ダイフクは顔をあげない。身体は泥だらけだが顔を覆った手の指のあいだから水が流れてきた。それはダイフクの涙だった。

 モナカは、はっとした。

「大事な話があるわ。こんな時にいうのもなんだけど……妊娠してしまったの。妊娠判定薬をつかったので確実よ。

あなたの子どもを安心して産みたい。そして育てたいわ。それなのに田んぼに何かを撒かれるなんて。そのお米を安心して口に入れられるかしら。そして胸張ってお米を売ることができるかしら」

 ダイフクはモナカを横に座らせ、肩を抱いた。ダイフクの目は真っ赤だ。

「妊娠したのか……身体を大事にしないと。こんな雨の中外に出ちゃだめじゃないか……」

 ダイフクは泣いていた。

「ぼくらは子どもたちの将来や老後を考えて撤退すべきだろう。残念だが命には代えられない」

 ダイフクは言い終わるとモナカを抱いたまま、悲鳴なような声をあげた。モナカもダイフクの背中に手をまわして泣いた。

 

 どのくらいそうしていたのだろう……外が明るくなってきた。雨音も少しずつ弱まってきている。


 

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