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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第三十八話・婦人会・後編



 何でも屋は、モナカの話を黙って聞いてくれた。中央公民館前の駐車場はダイフクから借りた軽トラと何でも屋のバンだけだ。

「憎まれる理由が思い当たりません。できるなら我が家の田んぼと池田さんの畑は隣接しているので仲良くなりたいです」

 何でも屋がため息をつく。

「そうねえ……ヨンさんが頼ってきた広木ちゃんはまともなのに困ったものね。でもあの人、最初からおかしかったわよ。お姉さんはヨンさんの実の姉妹なのに土地は貸さなかったし、家の敷地も提供しなかった。それであんな崖の下に家を建てたけど、田んぼや畑の提供もしなかったから三区のはずれのテルさんの畑を借りた。テルさんは高校の時に一緒だったらしいから断れなかったようね。皆トラブルを起こすのを想定していたとしか思えない。最初から飛ばしていたわ」

「飛ばすってどういう……」

「婦人会の会計は昔から私が担当しているけど、お金の使い方がおかしいと、何でも屋の店頭まできて騒がれたわ」

「……」

「当時、ヨンさんは紙耐に引っ越してきたばかりよ。来たばかりなのにお金のことでクレームをつける。紙耐では食品や農機具を売っているのは我が家だけで、あとは桃園温泉か、町で購入するしかない。よって昔の習慣で婦人会や老人会の集まりではお茶やお菓子、お弁当は全部私が手配する。過疎の土地では大量に品物を裁くことはないので、定価販売よ。安く買いたいなら町に行ってスーパーで買えばいい。それを高いと文句をつけるなんて驚いたわ、わかるでしょ」

「わかります」

「でもヨンさんは納得しないの。町のスーパーを見習えって。そんなこと面前でいうから私も怒ったわよ。二度とあなたには売りませんって。広木ちゃんにもクレームをつけた」

「まあ」

「モナカさんの家まで悪口を言いに来たと聞かされても驚かない。ヨンさんはそういう人ですから。ご主人が警察官ということで妙に威張るし妙に法律に詳しいし、どこまでのラインまで嫌がらせができるかわかっているから余計に腹が立つ。ヨンさんの家を知っているかしら。あれも問題だったのよ」

「ご主人が警察官をやめてから紙耐に移住されたのですね。紙耐の土地を買ったのですね」

「紙耐にくる以前は駐在として転々としていたらしいわ。終の棲家に姉一家を頼って紙耐に決めたけど、あんな崖に近いところを買うから。でもヨンさんとご主人は土地の水はけが悪すぎる。山崩れを起こしたら紙耐の行政のせいだっていうのよ。家を建てたのは桃園温泉の大工さんだったけど、揉めた。

なんとご主人は県民課にかけあって、家のためだけの専用のダムを作らせた。あんな山裾の一軒のために皆の税金で数百万円を使ったわけよ。紙耐の人はこの話を知っているのでかかわらないわ」

「私はどうしたらいいですか」

「ヨンさんが、私の主人は元警察官じゃと威張っているうちは何をしてもいいと思っている。どうしようもないわ。  

エコばあちゃんはじめ年老いた人を馬鹿にするし、人の嫌がる話を延々とするし本当に困ったものね」

モナカは蚊掻の大ばあちゃんの葬式で一人ぽつんと座って酒を飲んでいた池田を思い出した。一方ヨンの方が社交的で鼻歌まで歌っていた。そしてモナカには攻撃的だった。

「あの夫婦に一番困っているのは広木ちゃんよ。あちこちからヨンさんの姪なら何とかしろとクレームをつけられているから。彼女はそれに辟易してノータッチを決め込んでいるから相談しても無駄よ」

「……」

「気持ちはわかる。前の入植者さんたちと揉めて松元さんも元気な時は池田さん夫婦を自宅に招いて仲良くするようにと何度も話し合いをしたけど、治らない。そういうご家系といっては悪いけど、そういう人なのじゃないかしら」

「同じく頼って紙耐に来ていた弟さんも変な人だったようですね」

 何でも屋は驚いたようだ。

「弟の話はどこで聞きなすった?」

モナカは矢駄の名は出したくなかった。何でも屋は早合点して蚊掻たちから聞いたと思い込んだ。

「みんなおしゃべりねえ。でも仕方がないか。あらこんな時間だわ、帰りましょう」 

 時計を見ると九時半だ。早く帰らないとダイフクが心配する。モナカは何でも屋にお礼を言った。


 軽トラに戻り、エンジンをかける。中央公民館は国道沿いだったが三区の集落につながる道を曲がると、前方に小さな光がちらちらして見える。人が歩いていると思い、減速する。光はどうやら懐中電灯のようで大小ある。やはりダイフクとアンキチだった。

「遅いので迎えにきたよ」

「ごめんなさい。総会は九時に終わったけど話をしていたの」

 ダイフクはアンキチを膝の上にやり助手席に座った。モナカはゆっくりと車を発進させた。アンキチはモナカの顔を見て大きなあくびをした。

「ここまで来るのには距離があったでしょう」

「街頭はないから懐中電灯が必須だね。途中の家の番犬から吠えられたよ。遠吠えも聞こえてくるし紙耐は民話の世界だよ。アンキチは珍しくてきょろきょろしていたな。あれ、もう寝ている」

 山は真っ暗だ。蚊掻たちの家を通り過ぎたらすぐ上が急な坂道になる。上がると我が家だ。今日は星が出ていない。家は黒い空の下で踏ん張っているようだ。台所の灯りがあるが家周りが真っ暗で頼りなげだ。この大自然の中をモナカたちはこれからも生きていきたい。




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