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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第三十一話・公民館の掃除・前編



モナカは起床して朝食を取り、七時前には家を出た。第三区公民館の掃除のために。ダイフクは心配そうだ。

「昨日は農薬散布を妨害されたから、今日はあの奥さんがどう出てくるか。モナカ、なにか言ってきても取り合うなよ」

掃除をするだけで揉めるはずはないと思うが、モナカも心配だった。

 佐枝は松元の付き添いのために欠席。美奈子もパートなので、エコばあちゃんを寄越す。もし池田が嫌味やクレームを言っても血縁者である広木も無視をする。要はみんな池田に関わりたくない。それでますますやりたい放題をされる。モナカとてそういう人に太刀打ちできるほどの気性ではない。


 山に囲まれた紙耐は、八月でも涼しい。モナカはセミの鳴き声を聞きながら徒歩で第三区公民館を目指す。七時集合だったので十分前には到着したが、皆すでに来ていた。公民館の玄関も窓も開け放されていて、流し台の水の流れる音、掃除機の音が聞こえる。モナカは小走りになった。

「おはようございます、遅くなってすみません」

 テルが玄関をホウキで掃いていたが手を止めた。

「あんた、もう身体の方はいいのかあ」

 モナカはテルの笑顔を見てほっとした。

「大丈夫です。ご心配かけました」

 テルは背中をまっすぐにした。

「掃除は当番で役割も回す。今月は、私は玄関、広間はヨンさんと広木ちゃん。蚊掻さんたち三人は台所、佐枝さんは休みなので喪井さんは窓ふきとトイレをお願いできるか」

「わかりました」

「もうすぐエコばあさんも連れられてくる。まあ座るだけでも参加したことになるけえ」

 事実当人が美奈子に送られてきた。

「仕事が休めないけん。代役のばあちゃんをお願いね。モナカさん、無理しないでね」

 モナカは皆が流産を知っているので複雑な気分だが田舎では情報が筒抜けになるのだろう。エコばあちゃんを誘導していると美奈子は言った。

「あなた婦人会の方はどうしていますか」

「まだ入会はしてないです」

「婦人会は六十歳までなの。この常会で会員資格があるのは、私とあなた、そして広木ちゃん。来週あたり総会があるけど、夜だから私も出ます。またよろしくね」

 美奈子は急いでおり、すぐに去った。モナカはエコばあちゃんの手をひいて台所に座れるように誘導する。

「あんた誰じゃったかの」

「隣の喪井モナカです」

 やっぱりエコばあちゃんは呆けている。ここの掃除が終わったら田中のご主人が迎えに来るのだろうか。

 蚊掻たち三人が両手に雑巾を持って出てきた。

 靴を脱いだエコばあちゃんの身体が斜めにかしぐ。モナカはあわてて支えてやる。ケガでもされたら大変だ。台所からみえる大広間には掃除機の音をたてている大きな背中が見えた。池田ヨンだ。広木がエコばあちゃんにあいさつしてきた。

「ばあちゃん、おはよう。トイレットペーパーと消臭剤がもうないのじゃ、田中さんのところが今年の会計担当じゃ、買ってこんと」

 そこへヨンが掃除機をとめ、エコばあちゃんの代わりに返答した。

「広木ちゃん、直接田中の家に電話せにゃ、この人はボケてるから」 

 それからヨンは必要以上の大声でエコばあちゃんに話しかける。

「おうい、嫁さんは金儲けに行ったか。ボケ老人の世話をこっちに押し付けていい気なもんじゃのう」

 だがエコばあちゃんは怒らない。エコばあちゃんは、目をしょぼしょぼさせつつ、ヨンに頭を下げた。

「すまんのう」

 ヨンはせせら笑う。

「ふん、呆けもここまですすんじゃしようがねえのう」

 広木もテルもあきれたように言う。

「さっさと掃除をすませて解散しよう」

「そうよ、これが終わったら町に買い物に出るし」

 裏蚊掻も言葉を継いだ。

「じゃあやってしまいましょうか」

 するとヨンが鋭い声で叫んだ。

「なあみんな、ちょっと待ちんしゃい」





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