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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第二十七話・病院へ行ってそのまま入院に・前編




 夫婦で話しているとアンキチが妙に静かだ。ダイフクがアンキチの額に手を寄せると「熱があるよ」 と言う。温度計で測ると三十八度ある。咳も出だした。モナカは車の出入りに雨に濡れたことを思い出して後悔した。


 こんこん、こんこん

 

 やがてゼーゼーという喘息の呼吸音になった。発作を止める薬を吸入させると、一時的に鎮まるがまた発作が出る。あまり使うと心臓によくないと言われているので困った。

「ここに引越ししてからは発作がでなかったのに、油断してしまった」

 熱も四十度になった。モナカたちは町まで行って小児科を受診することに決めた。

「町まで行くのに一時間かかる。そしてこの時刻では受け付けは終わっている。遠くなるが中央病院の救急に行こう」

「救急車を呼んだほうが早いのではないかしら」

「桃園温泉から来てはくれるが、小児科の専門医は温泉にも町にもない。自家用車で行った方が時間のロスもないはず。今から行こう」

 都内にいたときの主治医から紹介状をもらっている。発作もなく薬もまだあったので、そのうちにと受診させていない。もっと早く行くべきだった。

 雨があがり、霧がわいていた。モナカはアンキチを毛布でくるみ、しっかりと抱っこして助手席に乗る。ダイフクは車のライトをつけてハンドルを両手で握る。

「国道に出たら飛ばすから」

「わかった」

 マンマエの家に人影が見える。テルだ。今は構うどころではない。できるだけ早く救急病院に行こう。

 国道は町に出るまでは制限速度内で飛ばせた。しかし町から市内の救急病院へ向かうと渋滞してきた。どうやら事故のため一部通行止めになっているようだ。

ようやく病院の駐車場にたどりつき、裏口の救急外来まで走っていく。モナカのお腹もまた痛み出したがそれどころではない。生理痛ぐらいなら大丈夫だろう。

アンキチはぐったりしていてモナカは涙が止まらない。忠告と称したつまらぬ悪口を聞いた自分のせいだ。

高熱があると訴え、紹介状を渡すと診察室と別の部屋に待機させられ、やがて呼ばれた。

 紹介状でもって過去の病歴と薬歴がわかり判断も容易だったようだ。ステロイドを点滴されると、アンキチの発作は鎮まり、穏やかな寝息になった。救急の簡易ベッドの脇でモナカはほっとした。念のため一泊の入院を告げられ了承する。ダイフクは一泊とはいえ、入院とは思わず着替えとおむつがないという。

「こういう時は病院と家が遠いのは困るな。病院には売店があるはずだから買ってこよう」

「私が行くわ、ちょうどお手洗いにも行きたいし」

 腹痛が強くなった。モナカはダイフクの返事を待たずに財布が入ったポーチを持って立ち上がる。

 救急待合を通り抜けるとトイレがあったので入る。モナカは下着から足首にかけて細い血の筋があるのを見た。

「やだ、汚してしまった」

 腹痛が強くなった。同時にめまいがしてモナカはトイレの壁にもたれる。立てない。トイレから出られない。声も出ない。かべも天井も便器も何もかもがモナカの周囲でぐるぐる回る。お腹がちぎれそうに痛む。

 倒れる直前に赤いヒモが見えた。とっさにモナカはそれをつかむ。同時に記憶が途絶えた。





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