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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第二十六話・去りゆく者からの忠告・後編



 矢駄の話は忠告とはいうが、ただ聞いてほしかったようだ。

 最初はゴミ出しの袋の結び方がおかしいという指摘で素直に謝ったことで舐められたという。

 そのうち、ゴミ出しの日でもないのに、家に訪問して説教をくらった。ジェリナがおむつをしていたころの話で、おむつを出す量が多いというクレームだった。矢駄は反論できなかった。ヨンはおむつは外側から見えぬよう、新聞紙で包み、できるだけ小さく丸めるようにと指導する。近頃の若い母親は損なことも知らぬと嫌味付きで腹がたったが、その時も素直に謝った。

「クソババアは年の割にすごく肥っていて妙に堂々としている。古くからの住民で偉い人だと思って下手に出たのも悪かった。この並び四軒の上の位置に立っている家からゴミステーションが見下ろせるので、監視役のつもりらしい。そのうち、子どもがそこで遊んでいてもうるさいから公園に行けと言う」


 矢駄と同じ目にあった人は早々に引っ越したらしい。隣の人もそうで、現在は北本が入居中だ。

 池田の家の前から奥は水道局の水質管理用の建物しかなく、車もほぼ通らない。安全だと思って散歩すると、ここは私道だから通行禁止だという。

その上、この並び四軒とも森林組合職員用のはずなのに、池田の弟がいつの間にか住んでいた。池田のあの広い家に夫婦二人なら、弟と住めばいいのに、なぜかそこに住まわせた。その弟は、いつも酒を飲んでいた。そしてゴミステーションの前で寝る。近くに中学生の女の子がいて、その子がお気に入りらしくて声をかける。しかし、若い女の子にとって、酔っぱらいから声をかけられたらどんなに怖いかわかるでしょ。

しかもこんにちは、じゃなくて、ぼくのことをどう思う、今度一緒にご飯でもどうかなって聞く。

広木さんを頼っても効果なし。池田は元警察官だと威張るだけで知らん顔。あの夫婦もその弟も前の土地では一体何をやらかして紙耐に来たのやら。

弟はちょっと前の冬に、家から出てこないからクソババアが見に行ったら死んでいたらしい。孤独死だね。

 常会ね。確かにクソババアの弟が生きていた時は池田もその弟もこちらの常会にいた。でも生前の言動が災いして誰も葬式の手伝いに行かないし、お悔やみもしない。少なくともこの並びの家のものはヘンタイが死んだと喜んだよ。

 クソババアは怒ってみんな礼儀を知らないとか言って、姪がいる三区へ異動するって。誰も止めないし、三区も無理に入るのだろうなって言いあった。

 クソババアと元警察官と威張るジジイとは夫婦仲は良い。畑でも買い物でもいつも一緒。でもそれ以外の友だちは見たことない。

 元々私と一緒で紙耐の住民でないのに、親戚がいるというだけで家を建てて住んで監視人ずらしていたら、そりゃ嫌われるって。

 クソババアは歴代の入植者ともうまくいかなかった。農業でなく単に畑を借りているだけなのに、「うちら農業者じゃ、先にこちらで農業をしているものほど偉いんじゃ」 という理屈は通らないでしょ。クソババアは入植者をいじめて出て行かせたよ。なにが楽しくて生きているんだろうね。人の嫌がる話ばかりしてさ。

 喪井さんの前に移住してきた奥さんはすごく内気な人だった。上の子は小学生で、下の子は幼稚園の年長さん。ジェリナと年が違うから一緒に遊ぶことはなかったけど、まじめだったと思う。クソババアの餌食になったね。この六区から三区の常会に移るなり嫌がらせをして夫婦仲まで割いたらしい。

 クソババアが頼る姪の藤期広木は悪い人ではないが、クソババアのやることに、ほったらかしで何もしない。

 とりあえず私は紙耐を出るから。後に残った北本さんは大丈夫、あの人にはなぜかクソババアは近寄らないよ。

 子供会の会長、そして婦人会の副会長の波瀬さんは、八方美人でクソババアに何も言わない。私たちが困って何度も訴えているのに、広木ちゃんの叔母さんだし、悪気はないようだから我慢して、でおしまい。紙耐では誰も駆除できないね。


 モナカは矢駄の話に疲れを感じた。冷えたせいか腹痛が少しある。

「そろそろ帰るわね。元気でいてね」 

 そういって無理に帰った。帰りも大雨だ。少しの距離でも濡れてしまった。そのためアンキチは何度もくしゃみをする。

  矢駄の最後の締めくくりはこのセリフだった。

「こんな田舎に暮らす人間はおかしくなる。染まらぬよう気を付けて」

 


 帰宅するともうお昼過ぎでダイフクは素麵をゆでてくれていた。そしてモナカに良い話があると言った。

「葬式のお礼参りにきた蚊掻さんが松元さんに声をかけてくれたようだ。さっき、電話が来たよ、アスファルト工事をしますって」

「よかったわね。玄関前の水たまりがないと助かるわ」

「蚊掻さんも松元さんも良い人だよ。日程はまだ決まっていないけど早めにしてくれるって」

 モナカは素麺を食べながら矢駄の話を伝えた。なぜなら今後も池田夫婦がモナカたちにいじわるをする可能性が大きいからだ。

 ダイフクは冷静だった。そして矢駄の忠告に良い感情を持たなかった。

「トラブルメーカーは紙耐に限らずどこにでもいるだろう。六区から三区に移ったのも訳があるだろう。そもそもゴミの分別の注意だって、間違ってはいない。葬式の時にエプロンの色とデザインで注意も受けたが同じことだろ。本来は黒が基本だからね。そういうことを口に出せる池田さんは貴重かもしれないよ。

 矢駄さんは人から注意を受けたことがなく、最初から紙耐に腰を据えて住む意思もないから好きなように言える」


 モナカも一理あると感じた。裏の田中も池田をあいつらと呼んではばからぬが、それでもこの紙耐で生きている。どこかで折り合いをつけたらいいのではないか。




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