第二十四話・去りゆく者からの忠告・前編
葬式が終わると、公民館周辺は元の過疎に戻った。
モナカとダイフクは手伝った感想を伝え合う。まずダイフク。
「ぼくの場合、受付や車の整理といっても、松元さんと田中さんがやってくれた。空いた時間に通夜の名簿を見ながら親戚などのつながりを教えてもらった。そして手伝いの中では、ぼくが一番若かった」
次にモナカ。
「私も常会メンバーで一番若かった。仕事を休んでまで手伝うべきという雰囲気に驚いた。でも人数がないから仕方ないわね。池田さん以外は良い人ばかりでよかった」
「田中さんから、池田さんとの喧嘩の理由を教えてもらった」
「喧嘩ねえ。ヨンさんがうちの主人は元警察官だと威張っていたけど」
池田のご主人は葬式の手伝いには不参加だった。その分ダイフクはいろいろな話を聞けた。田中が池田をあいつというのは、やはり水路で揉めてからのようだ。
「水路は皆のものなのに、上流が優先的に使うべきだというのが池田夫妻の理論らしい。そりゃあ、皆に嫌われるわけだ。あれで元警察官とは驚くな。きっと現役時代も職場で浮いていたと思う」
モナカは池田の主人が公民館で食事をしていたのを思い出した。彼は人の輪に加わらず、ぽつんと一人座って食べていた。
葬式の翌日以降雨が続く。梅雨の時期に入った。雨でも田んぼの苗はしっかりと根が張って流れることはない。しかし玄関前が問題になった。
引越ししてきた当初から、雨が降ると玄関前に大きな水たまりができる。そこだけ地面にへこみがあるためだ。一度ダイフクが畑の土をとって埋めてくれたが、まだ不足のようだ。
「やはりアスファルトにした方がいいのかも」
「よし、自分でやるか。セメントを買ってきて埋めよう」
そこへ上蚊掻が大雨の中、息子と一緒に葬式の手伝いのお礼を述べに来た。息子はこれから県外の自宅に帰るという。上蚊掻は姑を失くして一人暮らしになる。
親子は水たまりの話を聞いていたらしく、松元さんに頼みなさいという。
「無料で住まわせてもらっているので厚かましいかと」
ダイフクが遠慮がちにいうと、上蚊掻は微笑む。
「これは家主の仕事じゃろ。言いにくいなら私が頼んであげる」
それから長居はせず、アンキチに「また遊ぼう」 と声をかけて去った。裏道をいったので次に田中の家に挨拶に行くのだろう。
ダイフクは天気が悪いのと葬式の疲れをとるために、在宅するという。それだとモナカは軽トラを使えるので、アンキチを連れて中央公民館のキッズスペースに遊びに行くことにした。雨だし館内で誰かに会えるだろう。
行くと果たして波瀬も矢駄もいた。アンキチは見知ったミイナやジェリナと一緒にボールプールに飛び込んでいった。
波瀬たちに挨拶する前に「喪井さん」 と声がかかったので振り返ると、書類を抱えた広木がいた。
「通夜、葬式はお疲れ様でした。初めてなのによくやってくださったと思う」
広木はモナカをねぎらった。例の池田ヨンと広木は叔母、姪の関係らしいが性格が全然違うようだ。ただ池田の振る舞いには一切触れない。モナカも口に出してクレームをつけられる性格ではない。広木は次いで言う。
「来月の第一日曜日から常会の掃除にも来てくれるそうで助かります」
そこへ波瀬が広木に声をかけた。
「広木ちゃん、婦人会の件で話があるけどいいかな」
「花いっぱい運動と今年の敬老会の催しじゃな、そろそろ話を決めなきゃね」
波瀬と広木は込み入った話をすべく、デスクのあるスペースへ行った。モナカは広木が婦人会の会長で波瀬が副会長だったことを思い出した。過疎とはいえ、決めることは多くて大変そうだ。
モナカはボールプールのところに戻ると、待っていたように矢駄が近寄る。
「喪井さん、葬式の手伝いは大変でしたね。もうここの人たちに慣れたかな」
「まあ何とか。紙耐に来てよかったです」
「そう、私は最後まで慣れなかったけどね」
モナカは矢駄が引越すると言ったことを思い出す。
「引越はいつでしたっけ」
「予定を早めて明日にした。だから会うのも今日で最後よ」
「あらまあ」
矢駄はモナカの顔をじっと見る。大きな目をぱちぱちとして、モナカにもっと近寄り声をかけた。
「波瀬さんがいないうちに新入りのあなたに教えておきたいことがあるけど、いいかな」
矢駄は波瀬と広木が座っている方角を見ながらいう。ということは、二人に聞かれたくない話か。聞いておくべきだろうと思った。矢駄はここでは話しにくいので家に来てほしいという。車で五分ほどの場所にあるというので、承知した。
矢駄はジェリナの手をひき、波瀬に「帰るね、元気でね」 と声をかけた。広木は矢駄に「引越だってね、あなたもお元気で」 と声かけをしたが、矢駄は広木の声かけを無視した。
波瀬はモナカにも「あなたも帰るの」 と聞いたが、無難に会釈を返すだけにした。
中央公民館の出口を出ると、一番手前に駐車していた軽自動車のパッシングがあった。矢駄が乗っていた。雨がざあざあ降っている。駐車場には屋根がなかった。モナカはアンキチを抱っこして、軽トラめがけて走っていった。座席につくと、アンキチの濡れた髪をタオルで拭いてやり、シートベルトをかける。
矢駄は、ゆっくりと車を出す。モナカは、ワイパーを強めにかけ、矢駄の車についていった。




