第二十三話・通夜・葬式の手伝い・後編
午後からの手伝いは午前中よりも簡単だった。町のスーパーからオードブルが配達されてきた。それらを受けとり、公民館で炊いたごはんをおにぎりにするだけであとは通夜に来た人の配膳と接待で終わった。ただし、夜はお酒を頼む人が増えた。
亡くなった蚊掻のばあちゃんは百歳越えの大往生でお祭りに近い感覚なようだ。泣いている人は誰もいない。故人と同居していた上蚊掻だけが泣いていた。モナカは常会の手伝いをもって「通夜振る舞い」 という言葉を覚えた。通夜や葬式に来た人は食べ飲み放題ができる。夜の八時前後が弔問客のピークで四十人は確実に来た。玄関も靴の置場がないくらいで紙耐の住民は全員来たのではないか。しかもみんな帰らない。夕方になってエコばあちゃんのお嫁さんの美奈子、テルの娘の明美なども手伝いに来たがそれでも人出不足だった。
弔問客に紙コップとおはしと紙皿を渡して好きな席に座ってもらう。あとは大皿から自由に取ってもらう。冷たいオードブルより、昼にも出した、からあげの方が好評で追加で何度も揚げた。お酒を飲む人は漬物だけで延々と飲む。ビールの空き瓶がたくさん出た。
最後の方には何でも屋と波瀬も手伝いにきた。汚れた食器類を洗っていく。
通夜前にダイフクがアンキチをこちらに連れてきたが、放っておいても大丈夫だった。波瀬の娘、ミイナと遊んでいた。部屋の隅に積んでいる座布団にあがっては、山を崩すのが気に入ったらしい。ミイナの弟のツヨシはまだ赤ちゃんなので波瀬の母親に抱かれていた。この辺りでは赤ちゃんは珍しいので人気だ。小さいのう、かわいいのう、の合唱だった。通夜の席とは思えないぐらいににぎやかだった。
片づけの合間に広間にいる人々の会話が聞こえる。
「あの人はまあ、苦しまんと死んでよかった」
「ほんまじゃ。いつもの昼寝をしてそのまま死んだ。うらやましい」
「家族に迷惑かけんと寝たまま死ぬのは理想じゃけえ」
高齢者では「あの人はどういう死に方をしたのか」 が話題になるようだ。
モナカは「新しく来た人」 という位置づけで覚えてもらえたと思う。
人の出入りが少なくなったことを見計らい、トイレに行く。男女兼用で和式の個室が二つある。モナカは用を足した後、手を洗っているとヨンが入ってきた。朝のわだかまりはあったが、それでもモナカはあいさつをした。
「池田さん、お疲れ様です」
するとヨンはモナカをにらみつける。
「喪井さんは、ダメじゃな」
「どういうことでしょうか」
この時点で相手にせずさっさとトイレから出ていくべきだった。もう遅い。
「そのエプロン。黒じゃない。子連れだと思って昼休みも一時間たっぷり家でとって、厚かましい」
「エプロンは黒いのが持っていないので近い色を選びました。茶色のエプロンの人もいたでしょう。それに昼休みは」
「人の話は最後まで聞きなさい。茶色のエプロンはテルさんじゃが無地じゃ。あんたのそれは、クマがついて子どもっぽい」
そこへ呆レの藤期が入ってきた。完全に酔っぱらっており、よろけながらズボンの前チャックを開けようとしている。
入れ替わりにモナカはトイレから出て、佐枝の近くに行く。佐枝のエプロンは無地の黒だがすそがフリルだ。そういうのはいいのか。
「佐枝さん、エプロンですけど。黒でないとダメですか、注意されたのですけど」
「えっ、誰に」
「池田さんです。トイレで」
「まあ」
佐枝はお盆を近くのテーブルに置いた。それから広間のすみに誘導された。佐枝は小声で言う。
「相手にしてはダメよ」
「手洗いで一緒になったのであいさつをしただけです」
佐枝はため息をついた。
「黒色がいいのは確かだけど、その色でも十分よ」
「あの人はどうして意地悪なのですか。エコばあちゃんにもからんでいましたよ」
「とにかく、あなたは私のそばにいて。あの人は私のいるところでは何もしない。それか美奈子さんのそばでもいい」
「美奈子さんはエコばあちゃんのお嫁さんですね」
「そう、それと何でも屋さん。この三人の誰かがいると大丈夫だから。さあ片づけしてしまいましょう」
ある程度片付くと波瀬たちもみんな帰った。アンキチは疲れて寝ている。
ヨンだけが座布団の飛び散った様子に「しつけがなってない」 と怒っていたが誰も相手をしない。広木でさえもスルーだ。
やっと片づけが終わると皆で朝にしたようにテーブル周りに集まった。佐枝が言う。
「明日はお赤飯を炊くので朝の五時半に集まってください」
モナカは驚く。
「葬式でお赤飯ですか。それも朝の五時半に」
美奈子が説明してくれた。
「紙耐では、葬式のときにはお赤飯を炊くの。明日の朝も早いけど明日は出棺したらおしまいだから午前中で終わる」
それから皆でお疲れさまといいあってその日は終わった。
次の日も朝はつらかったが、出棺後は掃除して解散した。目まぐるしい二日間、正確には一日半だったが紙耐の新入りにとっては有意義な日だった。
解散時、モナカは月に一度第一日曜日の九時からこの公民館の掃除にくるように言われた。




