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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第二十一話・通夜・葬式の手伝い・前編


 

玄関横の窓が開いて、松元佐枝が笑顔を見せた。

「おはようございます。どうぞあがって。すぐ横が台所じゃ」

奥からは掃除機の稼働音がする。手前からは食器の音も。

みんな、六時より前に来ていたようだ。モナカは急いでサンダルを脱いだ。スリッパがすでに二列になって並んでいる。その横には玉ねぎやじゃがいも、小ぶりのきゃべつ、白菜などが置かれている。掃除機の音が止まり、小柄な人が出てきた。それはマンマエのテルだった。モナカが先にあいさつをした。テルも会釈を返す。それからテルは背中を見せて、奥に引っ込んだ。また掃除機の音が始まった。

 中は結構広い。あがってすぐ左手が台所。右側がトイレのようだ。玄関正面には短い廊下があってその奥に二十畳ぐらいの広間があった。テルはそこで掃除機をかけていた。


「モナカさん、こっち」

 佐枝が手招きをした。台所には佐枝ともう一人いた。その人はガスコンロの前にいて背中を向けている。大きな鍋にはもう火がかけられている。

佐枝が手をエプロンで拭きつつモナカに近寄った。

「今日はよろしく」 

「遅くなりましてすみません」

「いいえ、私らが早く来ただけじゃけえ」

「何からしましょう」

「みんなが揃ってからモナカさんを紹介して段取りを説明する。それまで広間の整理をしてください」

「わかりました」

 鍋の前にいる人はこちらを見ない。肥っていて髪は白髪で団子に結っている。モナカはこの人が池田の奥さんだと思った。コンロに近寄り、煮えたぎっている鍋をそっと覗き込んだが、なにも煮込んでいない。モナカは何かを言うべきか悩んだが黙っていることにした。

テルはまだ掃除機をかけており、窓も誰かが拭き掃除をしている。横顔で広木だとわかった。

佐枝が押し入れを指さし、座布団はここにあると教えてくれた。

「広間はテルさんと広木ちゃんにまかせる。こちらは皆が揃うまで私とヨンさんがやる。あ、ヨンさんは池田さんのことよ。さあ、座布団を並べてくれるかしら」 

 押し入れを開けると座布団が大量に入っていた。広木がそばにきて、指示してくれた。折り畳み式の細長いつくえが八脚あり、それを並べてから座布団を出す。


 つくえは、茶色であまりきれいとはいいがたい。タバコの火を押し付けたあとがあったりする。つくえの四隅の支えが折り畳み式になっていて伸ばすと畳に垂直に置ける。折り畳み部分のバネはサビだらけだ。畳も古く、毛羽立って茶色になっている。へりも昔は緑色の模様だったらしいが色味が抜けて白っぽい。しかも水平でなくぼこぼこしている。

 広木がモナカに冗談を飛ばした。

「あちこちに歴史を感じるでしょ」 

 モナカは苦笑して首を振る。

「じゃあ、私はあっち側の支えを広げるから、あなたはそっち。それでこれを四つでワンセットにしてくっつける。四つのテーブルで二つのオードブルとお酒や漬物が置けるように。これが終わってから座布団ね」

「わかりました」

 車の音がした。佐枝の声も聞こえた。

「田中さんが、やっと来た。いや、違った。あれはご主人の車じゃ」

 モナカや広木が玄関口をのぞくと、田中が助手席のエコばあちゃんを下ろしているところだった。田中は平服で、黒い服を着たエコばあちゃんを抱えている。

「皆さん、遅刻してすみません。家内は休みを取れなかったので、ばあちゃんの方を連れてきた。家内の仕事が終わり次第、バトンタッチしますので、それまでよろしく」

 佐枝が、足元が定かでないエコばあちゃんを誘導する。

 モナカはびっくりした。エコばあちゃんは、ボケているし、足も目も耳も悪そうなのに手伝えるのか。

田中はさっさと車に戻った。モナカは口元をもごもごと動かしているエコばあちゃんを見て思わず佐枝に言う。

「お手伝いをしていただくのは危ないのでは」

 佐枝は困ったような笑顔を見せた。

「紙耐の常会では一つの家に一人誰かが手伝いに来ないといけないの。奥さんが来るまで台所で座ってもらいましょう」

 母子家庭や女手のない家はどうするのだろう。そういった存在はここでは想定外だろうか。

 エコばあちゃんは、台所のあるイスに座ると、置物のように動かなくなった。佐枝は声を張り上げた。

「じゃあこれで全員集合しましたので、こちらに集まってください」




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