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私はこうして田舎が嫌いになりました。  作者: ふじたごうらこ
私はこうして田舎が嫌いになりました。
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第十九話・常会・前編



 田植え終了後、モナカは起床したら北側のカーテンをあけて田んぼを眺めるのが日課になった。苗は日々育っていると思いたい。マンマエの家がある南側はあけない。

畑にじゃがいもや玉ねぎを植えた。じゃがいもは種を()くのではなく、種いもを埋める。その前に切断面を乾燥させるために灰を塗り付ける。玉ねぎも種ではなく、ねぎそのものが苗になってそれを植える。松元や蚊掻から分けて、スコップの扱いから教えてもらう。日々が勉強だ。

また植えっぱなしも良くない。水をやるだけでは美味しく育たない。肥料を使う。じゃがいもやニンジン等、根菜専用の肥料があり、畑の土の中に混ぜ込むようにして入れる。

モナカは蚊掻たちからもらった青ネギを塩焼きにしたが、白い部分が甘くてびっくりした。こういうものを作れるようになりたいと思う。

 

 そんなある日、蚊掻たちで一番若い裏蚊掻が、暗い表情でモナカのところに来た。

「こんにちは。葬式があるのじゃが」 

「まあ、どなたが亡くなられたのですか」

「上蚊掻の大きいばあちゃんが、昨日遅くに死んだ。私の妹の姑さんにあたるので、今は二人とも家に詰めている。それで通夜が明日であさってが葬式……手伝ってくれるか」

「もちろんです。上蚊掻の大きいばあちゃんは、ビニールハウスの組み立ての時に来られていましたね。亡くなられたのですね」

「そうじゃ、百歳超えての大往生じゃ」

「残念でしたね。裏蚊掻きさんはこうして歩いて回っておられるのですか」

「歩くと悲しみがまぎれるから」

モナカは励ましたかったが、故人をよく知らないのでどうしてよいかわからぬ。

「手伝いはどこで何時から行けばいいですか」

「葬式は上蚊掻の家でやる。料理は公民館で食べてもらうので、お茶などの用意を頼む。やり方は佐枝さんたちが教えてくれる」

「佐枝さんは松元さんの奥さんですね」

「じょうかいの会長が佐枝さんじゃ。仲間で手伝いあう」

「じょうかいとは、なんですか」

「じょうかいは常の会と書いて常会。昔でいう隣組(となりぐみ)じゃ。冠婚葬祭で手伝いあう。うちの集落は喪中さんところも含めて十世帯ある」

「そうでしたか」

「月に一度は公民館の掃除や草むしりもある。喪井さんは、引っ越ししてきたばかりだし、小さい子がいるので遠慮していたが、この際常会に入ってくれるかな。葬式には村の人も多く来るのでちょうど良い顔合わせになる。こっちも若い人が手伝ってくれたら助かる」

 裏蚊掻は同じ話を何度も繰り返すくせがある。モナカは端折った。

「入りますので、よろしくお願いします」

 常会は田舎ならではの助け合いから来ているのだろう。

「こっちの常会は、みんな古くからいるベテランじゃけえ、安心してください」

「十世帯とおっしゃいましたね。我が家とマンマエさん、裏の田中さん、それとすぐ下の松元さんと蚊掻さん三世帯。あれ、これでは七世帯ですね」

「藤期の広木ちゃんで八世帯。広木ちゃんは知ってなさるじゃろ。振興センターにいる人で紙耐で一番の有名人じゃ。あとは、オキヨばあちゃんだが、去年施設に入ったので常会は抜けた」

「それで九世帯。残りの一世帯は」

 急に裏蚊掻は言葉に詰まった。

「ああ……池田さんじゃ」

 その名を聞いてモナカは、どきっとした。池田の軽トラは朝夕に見かける。しかし、会話をしたことが未だにない。奥さんとも。

 いつの間にかダイフクがモナカたちの会話に入ってきた。

「池田さんの畑は確かにこの近くですが、家は国道向こうと聞いています。常会は家の近いものどうしで作るものではないのですか」

「じゃけど、広木ちゃんが言うので」

「そういうのが通るのですか」

「仕方ねえわ。叔母と姪の関係でな」

「広木さんってそんなに権力があるのですか」

 裏蚊掻はそれには答えず「明日の朝六時に来てください」 と告げて、田中の家にも知らせてくると言って去った。

 ダイフクは見送るとモナカに言う。

「池田さんに対しては、みんな微妙な態度をとるね。なぜだろう。まあ、いい。常会については松元さんから農作業に慣れてからで良いと聞いていた。よい機会になるかもね」

「常会がご飯を全部作るのかしら」

「どうだろう。モナカ、行ってくれるか」

「もちろんよ」

「アンキチはぼくが見る。通夜と葬式で二日つぶれるが、頼むよ」

「ええ。黒い服がいるわ。それと数珠も探さなきゃ」


 通夜や葬式を常会の一員として手伝うことには異存はない。田中があいつらと呼ぶ池田夫妻……その奥さんと一緒に葬式の手伝いをすることは気がすすまない。

でも田中の奥さんも来るだろうし、松元の奥さん、佐枝さんもいる。多分大丈夫だろう。




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