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ショウブ?

眠気と空腹が襲う4時限目。

それもチャイムが鳴れば過ぎゆく時間だ。

さぁ、弁当と水筒を持ち、沙希のもとへ…


そう昼休み。もう昼休みなのである。

「あっれー?なんでこんなことになったのでしょうか」

なぜ自分は現実逃避ぎみに呟き、首を傾げなければいけないのか。

突き刺さる視線、視線、視線。チキンハートな持ち主の華恋のHPは赤ゲージである。


いつもの場所へ向かうため、弁当を持って廊下を歩く華恋に、冷たい視線が突き刺さる。

教室の中で、廊下の端の方で、男女関係なくヒソヒソと何かを囁かれている。


それは決して、心地良いモノではなかった。


華恋は今まで、あからさまに人に嫌われたことは無かった。あるとするならば陰口を言われ、何度か傷ついたことぐらいだ。しかし、こんなあからさまな負の感情を向けられるのは初めてだ。


本来、彼女は他人にとって薬にも毒にもならぬ存在だ。ビビりな性格――いや、日本人の貞淑な考え方によるモノだと思っている。

『嫌われたくない』

例えそれが、馬の合わない人であってもだ。


その思いと行動ゆえ、今まで彼女が苛められることはなかった。



…だけど、今日は本当に厄日だ。



『あの碇晶に嫌われた』

この事実だけで、きっと華恋を嫌う人が多数現れるだろう。なんと言っても、イカリは男女ともに信頼が厚い。華恋は根も葉もない噂が流れて、苛められるかもしれない。そんなことを思うと、これからの学園生活は華恋にとって毒としかならないだろう。


「……」


静かに隣をみる。

いま、華恋の隣には誰もいない。

沙希が、いない。


もしかしたら、噂が流れてて、沙希が信じたかも。…嫌われた、かもしれない。



「……嫌、です」

こんなネガティブな思考回路をするのは自分ではない。

無表情を貫いている自分では、今更だろう、と。

沙希が華恋を嫌う。そんな考えを振りはらうように、華恋は頭を小さく振った。そして足早にいつもの場所へと向かった。



* * * 

いつもの場所。


そこは木陰にあるベンチだった。

眼の前には華恋の植えた花や草。横には温室が。

華恋はいつもここで昼食をとっている。

今日も一人でそこに座り、小さく「いただきます」と呟いてからモソモソと食べ始める。


世の中には「便所飯」なるモノがあるらしいが、華恋にとっては関係なかった。

一人で寂しい、と思うがここなら部活動である水やりもできるのだ。美しい花々を見ることができるし、いちいち教室から移動しなくても水やりできる。


この場所は、きっと誰も知らない。


華恋はそれが残念でならなかった。

この美しい場所を独り占めできる。それも魅力的ではある。

だけど、この空間をたくさんの人に見て欲しいと思う。


華恋は今日、ここを沙希に見て欲しかった。


「…どうして、イカリは睨んだのでしょうか」

自分は心穏やかに、ティーンエイジャーのときを過ごしたいだけなのに。

苛められるなんて冗談ではない。苛められたいなんてアブノーマルな思考を華恋は持っていない。


「やはり花咲さんに何かしてしまったのでは」

だが理由が思い当たらない。

不条理なことをすんなりと認めることなどが出来るほど出来た人間でもない。

いくら考えても回答は出てこない。

……思い違いか?

そう思っても、あんな憎々しげに。それも殺したいとでも言うくらいに睨まれたのだ。

あれを見間違いというのなら華恋は自らの眼と防衛本能を疑うところである。


ハァ、と息を吐いて空を見上げる。


青い。憎らしいほどの晴天だ。

太陽も眩しく、頭に触るともの凄く熱い。

どうして日本人の髪は黒いのか。黒は熱を集めるのか。



何故だかイライラしてきた。

そして華恋は思い始めた。


(私、何もしてないですよね?イカリが勝手に睨んできてるだけですもんね。

 謝ってほしいのならば何に怒っているのか言うべきなのですよ。

 えぇ、えぇ。沙希に嫌われるのは嫌ですが、イカリに嫌われるとかどうでもいいですもん。

 私は悪くないんですよ)

華恋は立ち上がり、食べ終わった弁当を置いてジョウロを手にとる。

ちなみに赤いゾウさんジョウロだ。顔に愛嬌があり、華恋は気に入っている。



一人、無表情ながらどす黒いオーラを醸し出して色彩豊かな花に水をやる華恋。

キラキラとした花と、魔界から借り出されたようなどす黒いオーラ。

ミスマッチ。果てしなくミスマッチだ。

これがまだふわふわとした笑顔の少女なら良いが、無表情な華恋では傍から見れば異様な光景だ。


「あ、蝶ですね。良い香りにつられたのでしょうか」


……、乙女心とは本当に移りやすいものである。

後ろにあったオーラは魔界に即座に返却し、花を愛でる。

「沙希も何かあったんでしょうね」

うんうん、とジョウロを持ちながらうなずく少女。

基本、可愛いモノ好きなのだ。

可愛らしいモノをみると、思考回路が低下する。

それが雪柳華恋という少女だ。


* * *

「ごっめん!!!約束すっぽかしちゃって!」


5時限目の3分前。沙希が頭を下げて謝ってきた。

どうやら苦手な人物が教室に来たらしく、ダッシュで逃げていたらしい。

嫌いな人物とは誰なのか、華恋は気になったが追及はしないことにした。

「いえいえ、別に良いですよ。沙希も大変ですねぇ」

ここは一つ、大人になるのが得策だ。

「埋め合わせは今度するよ、ごめんね。…碇君についてだったんでしょ?」

最後の台詞は声を潜める沙希。どうやら察しはついていたようだ。

「正解ですよ、沙希」

最後に32(サーティトゥ)アイス、久しぶりに食べたいです、と呟くと苦笑いされた。

いや、それはちょっとお財布と体重が…と呟かれているのは無視して席に戻る。


席に座ると同時に軽快なチャイムがスピーカーから流れる。

次の授業は数学らしい。何とも眠たくなりそうな響きだ。

どんよりとした気持ちで数学教師を待っていると、5分遅れて扉ががらりと開く。

ガラの悪い男子生徒が「おっせーよ」と大声で呟く。

気弱そうな中年の数学教師は少し笑って謝る。


早くも華恋は夢うつつだった。



後日。

これは皐月高校で後に語り継がれる事件であった。

一人の少年は見た。校舎裏から伸びる黒い巨大な影を。

ファンタジー風にいえば瘴気があふれ、魔王が出現するようなシーンがそこにあった。

思春期によくある病気にかかっている少年は、つい

「現れたな、魔王ヴィルフリート!!」

と叫び、学校中の生徒の腹筋という腹筋を破壊させたらしい。


一人の少女は見た。校舎裏から伸びる黒い巨大な影を。

それはどんな悪霊であろうか。新聞部に所属する噂好きの少女は思う。

この学校には七不思議などがない。

今までスクープを探し七不思議を追い求めた少女に、天のお告げが聞こえた。

〔これはスクープだろう?〕


新聞部によって発行される校内新聞。

『スクープ!呪われた校舎裏!?』

一面を飾るのは、校舎裏の幽霊事件である。


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