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セキチク?

朝。今日も早すぎず遅すぎず、ちょうどいいと思われる時間帯に華恋は登校した。決して投降はしてない。断じて。



本というものは面白いと思う。

紙に文字が書いてあって、それを理解することによって無限の世界が広がるのだから。


けれど今、華恋の見ていた無限の世界が閉ざされてしまった。



これだけでは意味が分からないだろう。

つまり、学校で本を読んでいたら、いきなり本を奪われた、ということだ。

私の世界を閉ざしたのは誰でしょう、と思い顔をあげると、


「ねぇ、たしか華恋は碇君の幼馴染なんだよね?」


明るい茶色の髪に、日本人らしい黒っぽい茶色の目。

日本人の目は『黒』と言われているが、よく見れば茶色の人が多いと思う。


本を奪ったその人は、数少ない友人の園山沙希だった。


(イカリと幼馴染ということは隠しているわけではありませんが、

公表しているわけでもありません。一体、誰から聞いたのでしょうか)


なんて、ね。

彼女は小学校から一緒だ。小学校のときはほとんどイカリと一緒だったのだから。

知ってて当然である。




「そうですよ。それが何か?」

それはきっと、昨日の事に関係しているのだろう、と薄々感じている。


「碇君がさぁ、花咲さんと付き合ったんだって。

 華恋、知ってた?」


「それは…初耳です」

やっぱり、だった。予想的中だ。

けれど彼女は、本来あの場にいなかったのだ。

イカリにとっても恥ずかしいはずだ、あんな場面見られていたら。

ということで、本当に見なかったことにするつもりだ。


「美男美女同士、お似合いなのでは?」

「…あんなに仲良かったのに、それだけ?」


沙希は何故か華恋を咎めるように言うが、ただ幼馴染みで、昔から一緒にいただけである。沙希は文芸部ということもあり、少々他人の恋バナに関して夢を持つ。しかし、現実の幼馴染なんて年を追うごとに話さなくなるものである。


ただその想いを伝えようと思ったら、思ったよりもイカリに対して冷たい言葉が口から飛び出した。


「イカリが誰と付き合おうが、私には関係ありませんよ」


そう言った瞬間、冷たい殺気のようなものを感じた。



一応、言っておく。華恋は厨二病ではない。


でも普通の女子高生が感じられるものではないと思うから、殺気というか、冷たい視線だ。


思わず振り向くと、華恋を睨んでくるイカリがいた。

違うクラスのイカリが、彼女の花咲嬢のクラスに

いることはおかしいとは思わない。


けれど、なぜ彼は華恋を睨んでくるのだろうか。


「里香、俺そろそろ教室に戻るよ」

「うん、晶。またお昼に、ね」

花咲嬢には優しい微笑みをうかべて、教室を出るときに、また華恋を一睨みしてから出た。

(えーと、異常事態発生ですかね?)


「……アンタ、碇君に何したのよ」

「……身に覚えが、ありませんね」

頬をポリポリと掻いて、頭を捻って考えてみても、思い当たることが見つかることはなかった。



* * *


それからの授業は、(といっても現在2時限目だが)ノートはとっていたけれど集中はできなかった。


本当に、どうして彼は華恋を睨んだのか。


彼に何かしてしまった?

花咲嬢に何かしてしまった?


「……嘘をついたことでしょうか……」


《それは…初耳ですね》

でもそれを言ったことは、間違いではないと思っている。

それにあの3人を思って言ったことだ。


思ったよりも冷たい言葉が出てしまったこと?

《イカリが誰と付き合おうが、私には関係ありませんよ》


だけどそれも本当のこと。いや、もしかしたら彼はラブコメのような展開を望んでいたのかもしれない。なんて戯言を思いついてみる。




「はぁ、よく分かりませんね」

「おい、それはアタシの授業に対しての不満かい?」

華恋の呟きに、不機嫌そうな声色が返ってきた。


「え?」

顔をあげると、ノートと同じことが書かれている黒板。

顔をこちらに向けているクラスメイトの皆さん。

極めつけは華恋の目の前で仁王立ちしている担任兼歴史の飯島先生。


――どうやら今は授業中で、彼女の独り言は大きかったようだ。


「あぁぁぁ、ご、ごめんなさい!」

(恥ずかしいっ、とても恥ずかしいですっ)


クスクス、と笑いの声まで聞こえてくる。


(恨みますよ、イカリぃぃ…)

完全なる逆恨みではあるが。


「まぁ雪柳、なんか悩み事があるならアタシに言えよ。

 言いにくいなら、仲が良い園山に言え。

 一人で悩むのはよくないからな」


飯島先生はポン、と頭を撫でてくださいました。

(…そうですね、沙希には話しておきましょうか)


沙希は頼れる女子で、口も堅い。

相談するには、彼女は本当に適任だったりするのだ。



* * *



キーンコーンカーンコーン…


スピーカーから、2時限目の終了したチャイムが鳴る。


「お、終わったな。

 じゃあこの辺は次の中間テストに出すつもりだからな、覚えとけ。

 おい、学級委員。号令」


飯島先生がそう言うと、まさにスポーツ少年。といったような男子が立ち上がる。


「きりーつ」

彼が言うと、クラスの全員がガララっと音を立てて立ち上がる。


「礼、ありがとーございましたー」

「「ありがとうございましたー」」


言い終えると同時に、皆が思い思いの方向に行く。

ある女の子は制服のスカートを揺らしながら、友達とおしゃべりを始めたり。

ある男の子は先ほどやっていた地理の教科書やノートを鞄に入れていたり。


華恋も例外になく、すぐに沙希の方へ行ったとも。


「さーきぃー」

「はいはい、無表情で甘えてくるのは気味が悪いから止めなさいな」


華恋達は昼休み、一緒に昼食を食べることにした。

相談事はそのときにするつもりだ。


(はやく昼休みになりませんかね)



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