そして・・・・
そう、決めた私は、楓さんにそのことを話した。
楓さんは、ただただ満面の笑みを浮かべながら、うなずいて聞いていた。
そして、その後の事をあまり覚えていない。
でも私は、なぜか最初にいた御神木の下にいた。
そして、私の横には、見覚えのある年期が入った金のスプーンが私のそばに置いてあった。
立ち上がると時は夕方で日が沈みかけていて、肌寒かった。
心配した、亮さんが私を迎えに来てくれていた。そして、山を降りてふと後ろを振り返ると
あの時と同じ、この世のものとは思えないくらい輝いた黄金の小さい鈴を着けた黒い猫が、
“サーっ”っと走っていくのを見た気がした。
そして、ついに東京に帰る日。
亮さんが、田舎でよく見かけるような2人乗りのトラックに乗っけてもらいフェリー乗り場まで行った。
別れ際に、亮さんに引き寄せられ
「あんだの、ごとが、好きになってしまった。どうしてくれるん?」と告白された。
私は、また会いにここまで来るから。待っていて。と返し、強く抱きしめられ別れのキス。
いや、始まりのキスをした。
お互い、顔が真っ赤だった事とか亮さんの告白の言葉をフェリーの中で思い出すと、
とても恥ずかしかったけど、最高に嬉しかった。
~2年後~
あの後、この体験は記事にしなかった。でも、私の中の忘れていた思いや、心の中のわだかまりを取ってくれた大切な出来事。そうして、雑誌記者として1か月働き、ケーキ屋さんで1年修行を積み、
パティシエールに戻った私の手元にある宝物の年期の入った金色のスプーンは、「楓」という小さな女の子が黒猫と一緒に運んできた幸せの1つに過ぎない。
亮さんと結婚し、亮さんの地元で、レストラン兼ロッジを経営している。亮さんの釣った魚と私の作るスイ―ツが評判になり今は、県外からも来るほどになっている。
人生は、短い。
しかも1度しかない。
だからこそ、自分の思うままに生きてみるのもいいのかな。