卑怯者の詩
夜行バスの揺れから港町の冷たい朝靄へと移ろう風景の中で、逃避行の切なさと自分自身からは決して逃げ出せない諦念を鮮やかに切り取った一篇です。
静かな夜の旅路とともに、心に滲む言葉の音色をどうぞご堪能ください。
「卑怯者の詩」
引き返すための理由ばかりを
ポケットに詰めて乗った夜行バス
街明かりがひとつ、またひとつと
暗い車窓の底へ沈んでいく
本当は立ち向かうべきだった
あの時、ただ微笑んで背を向けた僕の
指先には、まだ冷たい逃避行の風が吹き抜けている
途中下車した小さな港町
潮騒ばかりが夜を深め
灯台の光が定期的に
隠しておきたかった影を暴いていく
「やり直すための旅」だと
自分に優しい嘘をつきながら
見知らぬ食堂の隅で啜るスープの
ぬくもりさえ、どこか申し訳なくて
去っていった人の面影が
波間にはじけては消えていく
逃げ出してきた僕を
世界の果てだけが静かに受け入れていた
朝靄のなか、始発列車が汽笛を鳴らす
どこへ行っても自分からは逃げられないと
知っていながら、僕はまた
次の切符を買ってしまう
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
人は誰しも、時として立ち向かえない現実から背を向け、逃げ出したくなる瞬間があるのではないでしょうか。夜行バスの揺れ、冷たい潮風、そして見知らぬ街で啜る温かいスープ。逃走の果てに感じる切なさと同時に、どんなに遠くへ逃げても自分自身からは逃れられないという諦念の景色を描きました。
行先のない旅路のどこかで、この言葉たちがあなたの心に静かに寄り添うことができたなら幸いです。




