面接
夕方
新幹線は ゆっくりと滑り込んだ
扉が開く
人の流れに押されるように 外に出る
東京だった
見上げる
建物が高い
空が少し遠い 来たんやな
あゆみは小さく息を吐く
バックを持ち直す
改札を抜ける
人の流れが速い
ぶつからないように歩く
足が少しだけ硬い
スマホで何度も確認する 電車を乗り換える
駅を出る
目の前に 街が広がる
車の音 信号の音 人の声
全部が 重なっている
凄い 圧倒される
思わず立ち止まりそうになる
でも 動く
スマホを見る
ホテルの場所を 確認する
矢印に従って歩く 少し迷う
もう一度見る 方向を治す
建物の間を抜ける
看板が見える ホテルだった
中に入る 空気が変わる
静かになる
「すいません チェックインお願いします」
声を出す 少しだけ緊張している
鍵を受け取る
エレベーターに乗る 上がる
部屋に入る ドアを閉める
音が 少しだけ消える
バックを置く ベットに座る
少しだけ 沈む
静かだった
窓の方を見る
カーテンを開ける
町が見える
灯りが 増えている
車が動いている
止まらない
ここでやるんやな
明日のことを思う
面接
大学
そこに立つ自分
少しだけ 胸が高くなる
同時に 少しだけ重くなる
いけるやろうか
答えはない
でも ここまで来ている
それだけは確かだった
バックを開ける
資料を見る
もう一度 目を通す
声に出さずに 言葉をなぞる
止まる
深く息を吸う 吐く
窓の外を見る
光が 少しにじむ
やるしかないな
小さく思う
ベッドに横になる
天丼をみる
静かだった
でも眠りはすぐには来ない
明日が そこにあった
朝の空気は 島とは少し違っていた
冷たいというより 乾いている感じだった
あゆみは駅から歩いていた
周りには知らない建物ばかりが並んでいる
人の数も多い
同じ方向に歩いている人の流れに
何となくついていく
大学の門が見えてくる
広かった
それだけで 少し足が止まりそうになる
中に入る
案内に従って 会場へ向かう
廊下に出ると
同じような格好の人が何人もいた
ジャージ
スポーツバック
カヌーの話をしている声が聞こえる
「去年のタイムがさ」
「全国で何位くらい?」
あゆみは その横を通り過ぎる
ちらりと見る
雑誌で見た事のある選手がいた
みんなそれなりに既に知り合いの様だった
体つきが違う
雰囲気も違う
言葉にしなくても分かる
自分より 上だと
席に座る
手が少しだけ冷たかった
順番を待つ
名前が呼ばれる
「水谷さん」
立ち上がる 足が少しだけ重い
面接室に入る
椅子に座る
目の前に 数人の面接官がいる
「よろしくお願いします」
声が少しだけ固くなる
幾つか質問が続く
競技歴 練習環境 大会の事
あゆみは それに答えていく
途中で 一人が資料を見ながら言う
「今回の件なんですが」
少しだけ空気が変わる
「水谷さんの競技については
評価しています」
あゆみは頷く
「ただ 現時点での選手枠としては
難しい判断になります」
一瞬 言葉が入ってこなかった
「……はい?」
それでも 返事だけはする
「その代わりといっては何ですが」
別の面接官が続ける
「マネジメントやサポートの形で
関わってもらう事は可能です」
あゆみは 顔を上げる
「チームを支える側として
力を発揮できると思います」
言葉は丁寧だった
でも 意味ははっきりしていた
『選手ではない』
その事実だけが残る
あゆみは 少しだけ口を開く
何かを言おうとする
でも 言葉にならない
「……分かりました」
やっと それだけ出た
面接は そのまま終わった
部屋を出る
廊下に戻る
さっきと同じ場所のはずなのに
少し違って見えた
声が遠くに聞こえる
誰かが笑っている
誰かが話している
あゆみは そのまま歩く
外に出る
空は高かった
見上げても 何も変わらない
少しだけ歩く
人の流れから外れる
建物の端の方に
人気の少ない場所があった
そこで立ち止まる
手を握る
何も考えられない
ただ さっきの言葉だけが残っている
選手ではない
それだけが何度も繰り返される
あゆみは その場にしゃがみ込む
声は出さない
でも 涙は止まらなかった
どうしていいのか分からないまま
ただそのまま動けなかった
あゆみは その場にしゃがみ込む
声は出さない
でも 涙は止まらなかった
どうしていいのか分からないまま
ただそのまま動けなかった
新幹線には予定より
早く乗ってしまった…
その場にいたくなかった
ビルの群れが流れていくように見えた街が
少しずつ低く 遠くなっていく
あゆみは座席に深く体を沈めた
隣の席には誰もいない
テーブルの上には
開けていないペットボトル
買いはしたが
手をつける気にもなれなかった
「選手としては難しいですね」
面接官の言葉が 何度も繰り返される
解っていた
けど入賞はしていたから…望みはあった
「ただ 支える側であれば……」
そこで 記憶は曖昧になる
頷いたのか 何を言ったのか
自分でもよく覚えていない
窓の外がトンネルに入る
一瞬 景色が消える
暗いガラスに自分の顔が映った
思っていたより 普通の顔だった
泣いてるわけでも無く
怒ているわけでも無い
ただ 何もない
頭の中で 様々な言葉が静かに落ちる
悔しい とは少し違う
負けた でもない
ただ 届かなかった
それだけだった
トンネルを抜けると 光が戻る
大きな大きな山が見える
あの偉大な景色が
スマホにメールが届いた
母からだった
「どうだった?」
それだけ
短い いつもの文面
あゆみは画面をみたまま
指を動かさなかった
返事を考えようとして止めた
何を書いても違う気がする
夕陽が沈む前に
瀬戸内の戸倉島に戻って来ていた
「ただいま…」
ちょうど母が夕食の準備をしていた
父がテーブルに座っていた
半分泣き顔のあゆみに気づいた
「どうした あゆみ」
あゆみは震える声で切り出した
「推薦の結果が カヌー部の…」
「……?」
「選手枠でなかった
サポートスタッフ扱いだった」
母は包丁を置いて
あゆみの手をそっと握った
「そっか…よく頑張ったね」
「辛かったな 無理しなくていいからな」
翌朝 担任の教師に報告した
「水谷 どうした? なにかあったか?」
「推薦は 選手枠ではありませんでした
サポートスタッフ扱いでした」
担任は目を見開き 思わず息を飲んだ
「そんな…はずは…
総体で入賞してる選手だぞ」
「…すいません…」
それしか言葉が出ない
「俺の確認不足だ 本当にごめん
もう一度確認する」
担任はあゆみの肩に触れ 深く詫び始めた
「俺が馬鹿だった 本当に申し訳ない」
「…私のせいです…」
「違う 君を信じて推薦状も書いた
本当に俺が悪い」
あゆみは声にならない声でうなずいていた
「まだ終わりじゃない
俺が大学に確認してみる 待っていてくれ」
あゆみは小さく頷いた
昼休み
面談室に入ると
二人は机を挟んで向かい合っていた
「本当に申し訳ない 直ぐに手を打つ」
「先生…私 自信が無くなりました」
担任は誠実な表情で答えた
「君は一人じゃない
俺が大学に連絡して何とかする」
あゆみは涙をぬぐい 弱弱しく頷いた




