8.卒業~旅立ちの歌~
新年―――
一月二日。
高校受験に合格しますように。
あきちゃんとずっと一緒にいられますように。
「おまえ何願ったの?」
「な、内緒だよ。」
「ふーん。」
新年明けて初詣。
今日はあきちゃんと初詣に来ています。
「もえっ、お好み焼き食う?たこ焼きがいい?」
「にの、並んでこよーぜ。」
「俺はじゃがバタにしよ。」
「ボクも行くー。」
初詣は当然ながらあきちゃんと二人・・・
ではなく、にのにタケやん、関くんにちゃん、北山くん、健太くんにいっちゃんとお馴染みのメンバーです。
まぁ、こうして皆で来れるだけでも良かった事なのだけどね。
長い冬休み、受験生に正月はなく、大晦日まで塾の冬期講習。
そして新年三日からは再び模試試験が控えているスケジュールの中で、あきちゃんに会える確立はまさに低かった。
でも、皆が誘ってくれた。
あきちゃんに会える。
これほど嬉しいことはなかった。
「あきちゃんは?」
「ん?」
「何お願いしたの?」
「受験合格だろ。」
「そ、そうだよね。そっかぁ。」
思わず苦笑いをしてしまった。
高校受験合格、受験生なら誰もが願うだろう。
でも、私は素直に願えない。
なぜならあきちゃんは合格したら・・・
東京へ行ってしまう。
別々の進路。
別々の生活。
嫌な子だよね、私。
「暗い顔してる。」
「えっ?」
「どうした?」
「なんでもないよ。」
あきちゃんは、どう思っているのだろう。
私はあきちゃんの進路を知ってから、考えているようで考えていなかった。
よくわからなかったのだと思う。
あきちゃんがいなくなるということが。
あきちゃんのいない学校生活が。
でも、冬休みに入って、学校へ行かない日々。
塾へ行って、家に帰って、食事をして、お風呂に入って、寝る。そしてまた朝が来る。
あきちゃんに会わない生活。
急に不安になったよ。
寂しくなったよ。
でも・・・
冬休みは期間限定だから。
休みが明ければまた学校で会える。
だから・・・
やっぱり実感は持ちにくいよ。
あと二ヶ月したら卒業。
あと二ヶ月しか一緒にいられないなんて。
そう。
私の二つ目の願いは・・
「どうした?」
「あ、寒いからね、下向いていただけだよ。」
気持ちを知られたくなくて誤魔化した。
「冷たいな。」
私の手に触れたあきちゃんが言った。
お参りするため、手袋を外したままだった。
そしてそのまま、
あきちゃんが手をつないで歩いてくれた。
細長い指、きれいな手。
温かい、あきちゃんの手。
嬉しいな。
こころまで温まる。
ふと見るあきちゃんの横顔。
あ。
髪伸びたね。
背もまた伸びたかな。
冬休み、会えなかっただけでも変わるのだね。
あきちゃん。
「が、願書とかもう出すの?」
「ああ、今週な。」
「東京まで?」
「まさか。郵送。」
「そ、そっか。」
東京。
その言葉を口にするのが怖かった。
でも、受け入れなければならない現実。
今は隣にいるあきちゃん。
手をつないでいるあきちゃん。
手を伸ばせば触れられる距離にいる。
「おまえはT校にしたのか?」
「うん。」
「試験日いつ?」
「27日。」
「早いんだな。」
「あきちゃんは・・・」
「ん?」
「じ、地元の高校は受けないの?」
「ああ、滑り止めで一校だけ。」
「そっかぁ。」
「まぁ、こっちじゃ出来ないことだからな。」
「あきちゃんのする勉強って?」
「映像。映画関係の仕事に就きたいんだよ。だからその学校に。」
「ひ、一人暮らしするの?」
「いや。親戚の家があるから下宿させてもらう。」
「そうなんだ・・・」
「受かればの話だけどな。」
「受かるよ!あきちゃんなら大丈夫だよ。」
それきり、あきちゃんは何も言わなかった。
あきちゃんが自分の事話してくれるのは嬉しい。
あきちゃんのやりたい事、将来の事。
すごいな、自分の事をしっかり考えている人。
私は?
とりあえず地元の高校に進学して、その先は・・・
何も考えていない。
ずっとつないでいることは出来なかった手。
当たり前のことなのだけど。
つないでしまったから放す時が来る。
知ってしまったから終る時が来る。
出会ってしまったから・・・離れる時が来る。
じゃあ、出会わなければ良かったの?
知らなければよかったの?
手をつながなければよかったの?
答えはもう出ているよね。
そう。
わかっている。
それは物でもない、形でもない、大切な想いだから。
2
新学期が始まった。
久しぶりの学校、久しぶりの友人。
でも、模擬試験が待っていた。
新学期早々、午後は国・数・英の三科目の試験が行われた。
「きっつぅ~」
「はぁ。終わったね。」
「何か食べて帰りたいね~。」
「そんなわけにもいかないっしょ。」
「明日、理・社が残ってるものね。」
「はぁ、嫌だ嫌だ。」
「あれ?めぐは?」
「職員室行ったよ。」
「用事あるから先に帰っててって言ってたよ。」
「あら、そう。」
「せっかく想い人が来ているのにね~。」
そう言って廊下にいる晃を見る恵子。
「よう、穂高。」
「あんた東京の高校行くんだってね。」
「・・・・・・」
「めぐから聞いたよ。」
「・・・・・・」
「まぁ、私が言える程偉い立場でもないけどさ、めぐの事あんまり泣かさないでよ。」
「あいつ泣いたのか?」
それまで何も言わなかった晃が口を開いた。
「ううん。最近はないよ。」
「あいつよく泣くのか?」
「さあね。普通の女の子だからね。」
「その普通感覚がいまいちわかんねー。」
「ははは。穂高、あんた変わったね~。うん、なんかいい感じになったよ。男らしくなった。」
「は?」
「いやいや。気にしないで。何でもないから。ふふふ。」
「そうだ、穂高、一つ良い事を教えよう。めぐはね、名前で呼ばれると嬉しいんだぞ。名前で。
それだけ。じゃあね。」
楽しそうに立ち去る恵子。
「失礼しました。」
担任との話が終わり職員室を後にする。
と、偶然、祐也とバッタリ会ってしまった。
「萌ちゃん。」
い、い、い・・・
ど、どうしよう。
気まずい。
「明けましておめでとう。」
「お、おめでとう。」
「今年もよろしくな。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
そんな新年の挨拶をしてしまった。
とりあえず教室まで一緒に歩くことになって。
き、緊張するけど。
ちゃんと話さなきゃね。
逃げずに。
「萌ちゃんはT校?」
「う、うん。」
「ゆ、祐也は?」
「俺はH校の推薦。」
「推薦?」
「そう。受けてみないかって担任に言われた。」
「そっか、そうだよね。祐也生徒会やっていたし、部長もやったし、学級委員も。そっかぁ、推薦かぁ~。わぁー、すごいねー。」
祐也らしいなと思い、納得して話していると、緊張もあってか饒舌になっていた。
そんな萌の表情を、祐也は黙って見つめている。
「あ、ごめんね、私一人で喋って・・・」
祐也の視線に気づき、自分の置かれている状況を悟った。
「今日の試験は出来た?」
「う、どうかな・・」
「萌ちゃんなら大丈夫だね。」
「そんなことないよ。」
「そうだよ。だってまた綺麗になったから。」
「えっ?」
「うそうそ。ごめんね。困らせた?」
「う、ううん。大丈夫。」
内心、驚いて言葉にならなかったよ。
綺麗になっただなんて、何を見て言ったのだろう、この人は。
「そだ。手紙、ありがとうね。」
「あ、ううん。」
「返事、書こうと思ったのだけど、冬休み入っちゃったしね。」
「へ、平気だよ。」
「ま、受験もあるしさ。高校もお互い別々だけど、ちゃんとはずっと一緒にいられたらと思っているよ。友達としてでもね。」
「う、うん。」
「明日も試験頑張ろうな。」
「うん。」
「じゃあ。」
「うん。あ、祐也。」
「ん?」
「あ、ありがとう。」
自然と言葉が出た。
祐也も笑顔で応えてくれた。
先月、祐也に充てた手紙。
私の気持ちを正直に書いた。
返事をもらえるだなんて全く思っていなかった。
こうしてまた話してもらえるだなんて。
私は幸せ者だね。
一つの恋が終わったけれど、祐也からはたくさんのことを学んだ。
人を想う気持ち、人に優しくする気持ち。
思うようにはいかないのが人の気持ち。
大切なもの。
そしてそれを誰かに伝えたくて、誰かを想いたくて、優しくしてあげたくて。
そんな温かい気持ちを教えてくれたのが・・・
「あきちゃん。」
祐也と別れ教室へ戻ると晃がいた。
「まだ帰らなかったの?」
「ああ。」
「あ、タケやん待っているの?」
「ああ。」
あれ?
なんだか硬い表情をしているな。
「あきちゃん、疲れているの?なんだか顔が・・・」
そう言うと晃の手が髪に触れた。
髪の毛の先まで緊張が走る。
「痛っ!」
「あきちゃん、ひっぱんないでよ。痛いよ。」
触っていたかのようだった手が急に髪の束を引っ張った。
「おまえは嬉しそうな顔してるな。」
「そう?」
「なんか良い事でもあったか?」
「ないよ~。」
教室に戻ってきたらあきちゃんがいたから嬉しくて。とはさすがに恥ずかしくて言えない。
「楽しかったのか?」
「なにが?」
「話して。」
「だれと?」
「祐也と。」
えっ。
見ていたの?
「み、見てたの?」
「見えたの。渡り廊下。」
「あ、そっか。」
教室の窓から、渡り廊下は丸見えだった。
あきちゃん、
もしかして、私が祐也と話して嬉しそうな顔していたと思ったの?
まさかね。
そんな嬉しい勘違いはないよね。
「大丈夫なのか?」
「あ、うん。もう大丈夫だよ。ありがと。」
心配はしてくれているのかな。
そう思ってもいい?
なんだか嬉しくなってきてしまい、ついつい顔がにやけてしまう。
「なんで笑ってる?」
「え?」
「笑ってる。」
「あきちゃんと話しているからだよ。」
今度は素直に言ってみた。
特別に反応はない。
それがあきちゃんなのだけれどね。
「晃、お待たせ。」
竹田が戻ってきた。
「お、椎名、いたのか。おまえも帰るか?」
「うん。」
「じゃあ行くか。」
「あれ?あきちゃんは?」
「俺んち。」
「え?タケやんちに行くの?」
「そう。」
「べ、勉強?」
「まさか。ゲームだよ。」
「うっそぉ。明日も試験・・・」
思わず二人の顔を交互に見てしまった。
あきちゃんがタケやんの家に行くということは、近所に住む私にとっては一緒に帰れるので嬉しい。
こういう時間もいいなと思うのだ。
ただ、後ろから付いて歩いているだけでもね。
二人は並んでゲームの話をしている。
結局私が会話に入れることはなく、タケやんの家に着いてしまった。
「じゃあ・・・」
挨拶をしようとしたのだが二人が気づくはずもなく。
ばいばい位言わせてくれてもいいのにな。
下を向いていると思いがけない言葉をかけてくれた晃。
「帰るのか?」
慌てて顔を上げる。竹田と目が合った。
なぜが笑っている竹田。
「寄ってけば。」
「い、いいの?」
「どーぞ。」
既に自分の家に帰ったかのように玄関に上がっている晃。
突然の事だが、一緒に居れる時間が増えた事に感謝したい。
「おじゃまします。」
男の子の家だなんて緊張してしまう。
あ、でもタケやんの家は小学生の頃一度来たことがあったな。
鞄を置くと早速ゲームに向かう二人。
何だかわからぬままとりあえず私も画面を見続けた。
「よっしゃっ!」
「おいおい、今のはなしだろ~」
「強えーよ。」
どうやら二人は対戦物のゲームをやっているらしいが、私にはどちらが強いとかどちらが勝っているのかさえもわからなかった。
でも、
あきちゃんのゲームに向かう真剣な表情、タケやんに勝って嬉しそうな表情、押されていて困った表情、負けそうになって悔しそうな表情、ここにいるだけであきちゃんの喜怒哀楽が見られる。
こんなにもくるくる変わるあきちゃんの表情を眺めていられるだけで幸せな気分になる。
男友達にしか見せないあきちゃんの表情をこんなにも真時下に感じることが出来るなんて。
今までは考えられなかったこと。
あきちゃんと出会って、もうすぐ一年か。
といってもあきちゃんの存在を知ってからなのだけどね。
あきちゃんを好きになってからは半年位かな。
長いようで短い期間。
不思議だね。
あきちゃんを知る機会がなければ、このまま話すことも、こうして一緒に過ごすこともなく過ぎていった時間。
ただ、同じ学校に通うだけの同級生として。
そしたら私は別の人を好きになっていたのかな。
別の恋をして、別の学校生活を送っていたのかな。
ううん。
私には、あきちゃんのいる学校生活が良い。
あきちゃんと過ごす時間が良い。
付き合うとか、恋愛とかまだよくわからないけれど、今はこうして一緒に過ごしていられることが幸せに感じている。
卒業までの期間をどう過ごすか、ずっと悩んでいた。
もう一度気持ちをぶつけて、私の気持ちをわかってもらって、あきちゃんの気持ちを確かめることもできるかもしれない。
つきあって、一緒に帰ったり休日はデートをしたりするのも憧れる。
でもね、
でも・・・
これ以上あきちゃんに気持ちをぶつけて何になるのかな。
自分の気持ちを押し付けるだけで、相手の事を考えていない。そんな女の子にはなりたくない。
付き合うことがゴールでもない。
デートで悩ませたいわけでもない。
だから私は・・・
こうしてあきちゃんのそばにいることを選ぶ。
私はあきちゃんの事が好きで、それをあきちゃんにも伝えて。
それであきちゃんと一緒にいられる。
卒業して、離れることが決まっていても、それでも今を大切にして、この想いを大切にしていく。
それで良いじゃない。
離れることになるのは悲しいけれど、涙がでそうになる位淋しいけれど。
でも、私が泣くとあきちゃんの表情が変わるの。
困ったような顔をするの。
だから泣かないよ。
あきちゃんの優しい顔が好きだから。
あきちゃんの笑った顔が好きだから。
“ピンポーン”
「誰だよ、いいとこなのに・・・」
ゲームを止め、訪問者の対応をする竹田。
部屋に残された二人。
「楽しいか?」
「えっ?」
「楽しそうな顔してる。」
「そう?」
じっと顔を見つめてくる晃。
そんなまっすぐ見つめられると緊張で息が止まりそうだよ。
苦しくなって視線を外してしまう。
「あ、あきちゃんはよく来るの?タケやんち。」
「たまにな。」
「そうなんだ。」
ほんとはね、あきちゃんに「帰るのか」って聞かれたの、嬉しかったんだ。
まだ一緒にいてもいいと言ってくれているような気がしてね。
「タケんちが一番広いからな。」
「あきちゃんのお部屋は?」
「六畳。」
「一人部屋?」
「一応な。」
「ふーん。」
「でも部屋にゲームはないぞ。」
「そうなんだ。」
「見に来るか?」
「えっ?」
「うそ。」
「あきちゃんちに?」
「うそだよ。」
「行っていいの?」
「うそだって。」
「えーいついつ?」
「うそ。」
「おじゃましま――ひゃあああー@※@※@」
「だから嘘だって言ってんだろ。」
「きゃーやめてってば、くすぐったいーー」
「おまえが素直に話を聞かないからだろ。」
そう言って首をくすぐってくるあきちゃんの顔は、今までで見たことのない位笑っていた。
顔をくしゃくしゃにして、無邪気な笑顔だった。
「だってあきちゃん嘘って言って前も騙されたもん。もう騙されないよ~だ―――」
えっ?
あ、あれれれ?
う、うそぉぉぉぉぉぉお。
首をくすぐっていた晃の手が・・・
片方肩に、片方頭に・・・・
まるで後ろから抱きしめられているかのように。
こ、これは夢?
これは夢?
これは夢?
「やっぱおまえ小さいな。」
そういうと、おでこにあきちゃんの口がそっと触れた。
ゆ、夢じゃなーいっ。
えっ、
ちょ、
ええー―!!
ど、ど、どしたらいいの?!
あ、頭が。
か、体が。
固まる・・・
う、動けない。
た、タケやーん。
階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
ほっとしたのはなぜだろうか。
「飲むか?」
「おっ、サンキュー。」
コーラとウーロン茶が運ばれてきた。
「ほれ、椎名は炭酸飲めねーもんな。」
「あ、ありがと。」
竹田から受け取った飲み物で、緊張で乾いた喉を潤した。
晃は一体どんな様子なのかと思い、ちらっと視線を向けた。
すると、とんでもない言葉が返ってきた。
「顔赤いぞ。」
「!!」
なっっ!
言葉にならなかった。
何を言うのかと思ったらこの人は。
「熱あんのか?」
そう言うとの額に手を当てる晃。
「なっ!」
「ないよ~。」
そう言うので精一杯だった。
こいつは一体何を考えているのだ。
あんたのせいで顔が赤くなっているというのに。さらに赤くなるようなことしないでよーっ。
しかも、タケやんが見てるのに。
何てことを。
「だいじょうぶだよ。げ、ゲームの続きやって。ねっ?」
「あ、私はそろそろ帰ろうかな。明日試験だし。」
必死に火照った顔を隠そうとその場を繕おった。
不自然な態度に、竹田は首を傾げていた。
あ・・・
バレバレかな、こりゃ。
「今更試験勉強してもなぁ。」
そう言う竹田の意味深な様子には全く気づいていない様子の晃は、さっさとゲームに向かっていた。
「ははは。じゃーね。」
もう笑って誤魔化すしかなかった。
今度は帰ると言っても晃は何も言わずにゲームに夢中になっていた。
竹田にだけ手を振り、玄関を後にした。
竹田の家を出ると大きく息を吐いた。
はあ~。
な、なんだったのだろうか。
あきちゃん、あんな事しておいて、
ドキドキしたのは私だけ?!
恥ずかしくて、まともにタケやんの顔が見れなかったよ。
気づいただろうな、タケやん。
それに比べてあきちゃんは・・・
普通に普通に、見事な位いつも通りに戻っていたな。
お、男の子ってよくわかんない。
思い出しただけで恥ずかしくなるよ。
でも・・・
今思い出すとすごい事だったのだな。
あきちゃんに・・・
触れられて。
実感というか、嬉しさとかそんなの感じている余裕がなかったよ。
突然でびっくりして・・・
けれど・・・
少しだけ残っているあきちゃんの温もり。
あきちゃんの大きな手。
いつもよりずっと近くで聞こえた声。
今日の事は忘れないよ・・・
3
先週行われた模試の結果が発表された。
上位三十名の名前が掲示板に張り出された。
「ひゃー一位496点だって。一体どんな頭してんのよ。」
「すごいね、松岡くん。」
「五教科のうち、何科目かは満点取ってるってことでしょ?ありえないよ~。」
一緒に掲示板を見に来た恵子が叫んでいる。
この一年間、首位をキープし続けた松岡くんは、最後の模試でも一位を獲った。
その後を見ていく。
「なんだかんだめぐも十位だし。」
「あ、でもあきちゃん七位だ。」
「あ?ほんとだー。穂高みたいな奴がなんで頭いいんだろうね~。」
「けいちゃん、それは・・・」
ほんと。
あきちゃんいつ勉強してるのだろう。
この前もゲームしてたのに。
あ、
思い出しちゃった。
この前の事・・・
「ていうか、やっぱ松岡は人間じゃないんだよ。きっと。うん。そう思えば納得がいく。」
「誰が人間じゃないって?」
「げっ、松岡!」
恵子の後ろに現れたのは松岡だった。
「いやさ、松岡君はすごいな~頭も良いし、優しいし、お素晴らしいわ~。ってねっ、めぐっ。」
「えっ、私?」
「そう、そう言ってたのよね、めぐっ。」
「う、うん。」
恵子の勢いに押されて話を合わせることにした。
「なるほどね。椎名さんはどこ受けるの?」
「T校です。」
「そっか。僕はM校だから最寄り駅が一緒だね。高校生になっても駅とかで会えるかな。」
「あ、そっか、一緒の駅だ。私が受かればの話だけど。」
「大丈夫だよ、椎名さんなら。」
「はいはい、どうせ私は電車に乗らないI校ですよーだ。」
「斉藤さん、ずいぶんと僕と椎名さんとで態度が違うのは気のせいかな?」
「あたしはあんたの誰にでも優しいその性格が苦手なだけよ。じゃあね。」
そう言うと先に教室へ戻ってしまう恵子。
残されたはなんとか笑顔を作り、
「ま、松岡くん、ごめんね。」
「なんで椎名さんが謝るの?」
「けいちゃん、悪気があってあんな事言う子じゃ・・・」
「知ってるよ。」
「え?」
「あの時ね、斉藤さんの事はよくわかったから。」
「?」
不思議そうな顔をしていると松岡は微笑んで話してくれた。
「前に椎名さんに変な噂が立った時、彼女身を張って椎名さんのこと守ろうとしていた。皆の前で堂々とね。ああ、女の子って強いんだな。って思った。守ってあげるだけじゃダメだったと斉藤さんから教えられたよ。」
「松岡くん、それって・・・もしかして、けいちゃんのこと・・・」
そこまで言いかけると松岡くんの表情が変わった。
さらに穏やかな表情で笑っていた。
それ以上は言っては駄目だよ。
まるでそう言っているかのように。
恋をして
人を好きになる気持ちを知って
誰かを想って
その想いが大切で
そんな想いは誰もが持っているものだとわかった。
だから・・・
もしかしたら松岡くんが持っているものが見えたのかもしれない。
自分にはないものを持つ人に魅かれる。
成績優秀で運動能力にも優れ、性格も穏やか。
そんな完璧な人に見えた松岡くんも、同じ想いを持っていたのかもしれない。
人を想う気持ち。
それは大切なものだから。
大事にしていきたいね。
昼休み。
なんだかボーっとしていたくて、皆と離れて教室にいた。
「おい。」
「おいっ。」
「おい、そこの。」
呼ばれているのに気がついて廊下を見ると晃がいた。
「わたし?」
「おまえしかいないだろ。」
周りを見渡すと確かに教室に一人だった。
「だって、誰呼んでいるのかわからなかったよ。」
「めぐみ。」
「えっ?」
「だろ。」
「ええっ?」
思わず聞き返してしまった。
あきちゃんが、私を名前で呼んでいる?!
最近の私は驚いてばっかりだな。
驚かせている当の本人は何も感じてはいないのだろうけれど。
相変わらず無表情な晃を横目に見る。
教室に入ってきて、前に座ると、
「顔赤いぞ。」
そう言って額に手を当てた。
うっ・・・
うそ。
こ、これは・・・
この間の事を思い出しちゃうよ。
「熱いな。」
「だ、大丈夫だよ。なんでもないよ。」
「いいから保健室行けよ。」
「平気だよ。」
「行けよ。」
あまりにも晃の顔と声が真剣だったので、この場は逆らえなかった。
「わ、わかった。後で行く。」
返事を聞くと晃は行ってしまった。
あれ?
あきちゃん何しに来たのだろう。
何か用事があったのかな?
タケやん?
誰もいないの見ればわかるのにね。
五時間目は家庭科だった。
次の調理実習に向けて、班毎にメニューを考えていた。
「めぐはあげるの?」
「え?」
「穂高に。」
「え、何を?」
「チョコよチョコ。来月バレンタインデーでしょ。」
「あ。そういえば。」
「あんたまさか忘れてたの?」
「もうそんな時期なのか。早いね。」
「けいちゃんは?あげる人いるの?」
「いるわよ~。義理も本命もね。」
楽しそうな笑みを浮かべている恵子。
バレンタインデーか。
そういえば今まで本命チョコあげたことないな。
なんだかんだ毎年義理チョコもあげたことないな。
ホワイトデーのお返しとかもなんだか悪いような気がしてね。
今年は作ってみようかな。
中学最後だし、にのやヒロアキ、タケやんにもお世話になっているしね。
ついつい、お菓子の本を開いてしまう。
パラパラめくっていると、
「じゃあ、うちの班はチョコで決まりね。」
満足そうに恵子が言った。
班の女子は誰も反対しなかった。
バレンタインか。
あきちゃんに・・・あげてもいいのかな。
迷惑じゃないかな?
前に、あきちゃんの誕生日にクッキーを焼いた。
あの時はもらってくれたね。
渡してみようかな。
授業が終わって教室へ戻る途中、保健室の前を通った。
そういえばあきちゃんに行けと言われていたのを思い出す。
「めぐちゃん、どうかした?」
「あ、先に行ってて。ちょっと寄ってく。」
「わかった。」
友達と別行動をとり、保健室のドアを開けた。
「あら、珍しいわね。どうしたの?」
「ちょっと、熱測らせてください。」
「どうぞ、そこ座ってね。」
「はい。」
健康がとりえな私はここ何年も保健室にお世話になることはなかった。
もうすぐ卒業するのにね。
保健室を使ったことがないなんて。
やがて検温が終わったことを知らせる音が鳴った。
「37度7分。」
「よく今まで授業してたわね。違和感なかったの?」
「うーん、そういえばお昼休みは少しだるかったです。」
「どうする?今すぐ帰ってもいい状態よ。早退で良いかしら?」
「いえ。ここまで来たらあと1時限ですから大丈夫です。」
「受験生なのだから無理せず帰ったら?」
心配そうに見つめる保健師に、なんだか温かみを感じた。
「受験生だから・・・」
「え?」
「もうすぐ卒業だから、もう少し学校にいたいです。」
そう答えると、保健師は笑った。
「そう。じゃあ、あなたに任せるわ。でも気分悪くなったらすぐに言うのよ。」
「はい。ありがとうございました。」
保健室を後にすると、先まで熱かった体がなんだか軽くなった気がした。
もしかして早退できるのは嬉しいことなのかもしれない。
でも、今の私は例え一時間でも早く帰りたくはなかったのだ。
卒業までの時間を、皆と過ごす時間を、あきちゃんのいるこの時間を、少しでも失いたくはなかったから。
廊下までやってくると四組の前に晃がいた。
続いて五組から恵子が出てきた。
「何度?」
「さ、37度・・・」
会ってすぐさま晃に聞かれ、下を向きながら答えた。
「37度?」
「なに?めぐ熱あったの?」
「7ぶ。」
「7度7分か。」
「なになに?穂高あんた知ってたの?」
「見ればわかるだろ。」
「は?わかんないわよ。めぐ大丈夫なの?」
「うん、もう平気。」
「もうってあんた早退する?」
「しないよ。大丈夫だから。」
「そうなの?」
「うん、次英語だよね。準備しなきゃ。」
「あ、待ってめぐ。」
後を追って教室に戻る恵子。
二人の後姿を見つめる晃。
「なんだ、しーな熱あんのか?」
様子を見ていたヒロアキが話しかけた。
「晃君知ってた?」
「ああ。」
「ふーん。」
「あいつでも風邪ひくんだな。」
「そだな。でもしーなっていつも肝心な事言わないんだよな。本当は平気じゃないのに無理してたりさ。」
「おまえには言うだろ?」
晃が不思議そうな顔をしてヒロアキに言う。
「へ?しーなはオレには言わないよ。」
「そうなのか?」
「おう。」
「ヒロアキには何でも話すのかと思った。」
「そんなことないぞ。」
「泣くのは?」
「え?」
「あいつおまえの前で泣くのか?」
「おお、よく泣いてたな~、昔は。最近は強くなったけどな。」
「強くなった?」
「そっ。誰かさんのお陰でね。おっと、チャイム鳴った。授業授業っと。」
教室へ戻るヒロアキ。
難しそうな顔をしている晃だった。
翌朝。
「おはよう。」
四組に入ると晃、ヒロアキ、千夏が来ていた。
「めぐちゃんおはよん。」
「おーっす。」
「体調は?大丈夫?」
「もうすっかり。」
笑顔でピースをして見せた。
鞄を持ったままで晃の席へ駆け寄る。
「あきちゃん、おはよう。」
「下がったのか。」
「うん。もう元気だよ。」
「タフだな。」
「昨日はありがとう。」
「休むかと思った。」
「え?」
「今日。」
そう言うと、読んでいた小説を閉じて萌を見つめてくる。
あきちゃんの目。
あきちゃんと目が合う。
あきちゃんが私を見てくれている。
「休まなくて残念?」
「べつに。」
「あ、もしかして私いない方がうるさくなくて良かったって思ってる?」
「べつに。」
「あ、図星なんだ~。」
「うるさいぞ。」
「どうせ私はうるさいですよ~―――ひゃあああー@※@※@きゃーやめて~。」
からかわれるのは嫌な晃は、反撃をしてきた。
「ずるいよあきちゃん、首はくすぐったいって。」
「もぉ。あきちゃん、やめてよ。あきちゃんてばー。」
続く晃の攻撃にくすぐったいけれど自然と笑顔になる。
二人を見ていたヒロアキと千夏が言う。
「めぐちゃん良かったね。」
「ああ・・・そうだな。」
「ヒロアキったら強がっちゃってぇ。」
「悪かったな~。」
「ふふふ。」
「あのさ、北川。」
「なによん?」
「オレ昨日晃君と話してさ。」
「うんうん。」
「しーなが好きになった男が晃君でよかったと思った。」
「あらあら。何があったのかしら?」
「まぁ~いろいろとなっ。」
「ふーん。でも、良かったね。偉いぞ。そんな風に言えるなんてヒロアキもいい恋愛したのねん。」
「おまえに誉められても嬉かないがな。」
「もぉ、素直じゃないんだから。」
そう言うと思いっきりヒロアキの肩を叩いた。
「い、痛って~。」
「ヒロアキとは高校でも仲良くできそうねん。」
「マジかよ。オレだけこいつと一緒の高校かよ。」
「嬉しいと言いなさい。嬉しいと。」
「はいはい。」
4
そしてやってきたバレンタインデー当日。
つ、ついにやってきた。
今週調理実習で作ったチョコレートマフィン。
昨日家で作ったトリュフチョコレート。
さて、どうやって渡そう。
朝?
休み時間?
放課後?
み、皆のいる前で渡すのかなぁ。
緊張してきた。
とりあえず、四組の前に差し掛かると、教室の扉は閉まったままだった。
そのまま通過することにした。
まずは五組。自分の教室から入ることにした。
「おはよん、めぐちゃん。」
「お、おはよう。」
「おっす。」
「椎名さんおはよう。」
千夏、ヒロアキ、芳沢くんが来ていた。
いつもより一つ多い鞄を持っているだけでなんだか恥ずかしくなってしまった。
「はい、めぐちゃん。」
「え?」
「バレンタインチョコ。」
「え?私に?」
「そうだよん。」
「ちなっちゃん、ありがとう。」
「大好きなめぐちゃんにあげるのは当然ねん。」
「おまえらアホか。」
そう言っているヒロアキも同じものを持っていた。
千夏からもらったのだろう。
「今日はバレンタインデーだね。女の子は楽しそうでいいね。」
芳沢くんが微笑みながら言った。
「は、はい。」
「え?」
「よ、良かったら食べてください。」
「自分に?」
「う、うん。はい、ヒロアキ。」
芳沢くんとヒロアキへチョコマフィンの入った包みを渡す。
「おっ、しーながくれるだんて初だな。大丈夫か?これ食えんのか?」
「し、失礼ね。大丈夫よ。た、たぶん・・・」
「多分ってしーな十分怪しいぞ。」
千夏のお陰で渡すきっかけが出来、二人にはすんなり渡すことができたのだった。
「うわー、椎名さんからもらえるだなんて嬉しいな。」
「あの、そんな大した物じゃないし、ほんと少しだから気にしないでね。」
「いやいや、ありがとう。嬉しいよ。」
素直に喜びを表現する芳沢。
「あ、食える。」
既に袋から出して食べているヒロアキ。
「しーなちゃん、俺の分は~?」
そこへ北山と関が登校してきた。
「あ、おはよう。」
「おはよう。」
「よっちゃんもらったんだ。いいな~。」
「す、少しだけど食べる?」
北山と関に勧めてみる。
「マジで?いいの?やったー。」
チョコマフィンに手を伸ばす二人。
「しーなちゃん、あきちゃんの分もあるの?」
「えっ?」
「当たり前だよねー。いつ渡すの?俺呼んできてやろうか?」
「えっと・・・」
「いーね、ラブラブで。」
「北山君、言い過ぎだよ。めぐちゃん困ってるでショ。」
千夏が北山を睨む。
「まあまあ。それ位うまくいっててもらわないとね。俺が諦めた意味がないじゃん。」
「え?」
「それ、何のこと?」
「ああ、夏にさ~おれ、ほっへへははひ―――」
「あ?何言ってるかわかんないわよ。」
千夏の鋭い言葉が入る。
「ほら、キタ、食べるか喋るかどっちかにして。北川さんも落ち着いてね。」
二人の雰囲気を見かねた芳沢が間に入る。
食べ終えた北山が話し始める。
「あ~うまかった。しーなちゃんサンキュー。」
無言のまま鋭い視線を送っている千夏に気づくと慌てて話を始めた。
「あ、夏の話ね。あれね、俺さ、しーなちゃんの事いいなって思ってたんだよね。でも夏の終わりにあきちゃんから言われてさ。ついつい話にのっちまったってわけ。」
「なによ、その話って。」
「しーなちゃんの事はやめとけって。諦めたらゲームの攻略本くれるって言うしさ。俺だってしーなちゃんが誰を好きかは薄々気づいていたし、まぁ、いっかなって。」
「よくないわよ。あんたさっきから聞いてればなにがゲームの攻略本よ!交換?!めぐちゃんは物じゃないわよっ。」
「北川、落ち着けって。」
暴れだす千夏を止めるヒロアキ。
「まぁ、それだけじゃないさ。俺が諦める代わりに、あきちゃんにはちゃんとしーなちゃんと付き合うようにって約束させたしね。」
「なっ!!」
「あ~あ、しゃべっちゃった。あきちゃんに怒られるな、こりゃ。ま。いっか。それはそれでおもしろそう。」
「あんたなに一人で楽しんでるのよ。」
「おっと。邪魔者はそろそろ退散しようかな。しーなちゃん、上手かったよ。ありがと~じゃーな。」
「あームカツク!何なのよ。」
「北川もういいだろ。」
「だいたい何でゲームの攻略本なのよ。」
「行き詰った時は喉から手が出るほど欲しくなる物だな。」
いつの間にか登校してきた竹田が言った。
「だな。」
関くんまで共感していた。
「もう。これだからゲームオタクは嫌いよっ。」
千夏はぷんぷんに怒っているのがわかる。
そしてなだめようとしているヒロアキ。
この状況でもどうにか穏便にと微笑んでいる芳沢。
ゲームの話を続けている竹田と関。
バレンタインデーの朝のはじまりはなんだかすごかったけれど、でもこういうのも良いなって思う。
皆と過ごす時間。
笑ったり、時には怒ったりもする。
こうして皆が集まってくるこの空間は好き。
卒業したら皆バラバラになってしまうけれど、今は皆で楽しく過ごす時間が嬉しいね。
そして、昼休みになってしまった。
朝のうちに皆には無事渡すことが出来たのだけれど。
本命の・・・
あきちゃんにはまだ渡せていない。
タイミングがわからない。
「なにめぐ、まだ渡せてないの?」
「呼んできてやろうか?」
自分の席から動こうとしないのところへ恵子と竹田、関がやってきた。
「いい。自分でがんばるもん。」
「後になればなるほど。」
「渡し辛くなっていくよぉ~。」
「他の子からもらってたりして~。」
「もぉ~だいじょぶだってばー。」
萌の反応に三人とも笑いをこらえている。
「だはははは。」
一人、噴出してしまったのは関だった。
「椎名さんってほんとわかりやすいよね。」
「そんなことないもん。」
「冗談なしで、早めに渡した方がいいよ?楽になれるし。」
「そうだな。もう遅いかもしれないけどな。」
恵子と竹田も身を乗り出してきた。
「タケやんのいじわる。」
まだ笑っている関。
「ほ、ほんとに・・・誰かからもらったりしてるのかな?あきちゃん、もらったこととかあるのかな?」
不安そうな表情へと変わっていく。
「あ、俺聞いたことある。」
「えっ?」
「誰?」
三人の視線が関に集まる。
「一年の時、もらってたな。クラスの女子に。」
「へぇ。穂高が。」
「やるな~。」
「そ、そうなんだ。あきちゃんもらったことあるんだ。」
「穂高には関係のないイベントだと思ってたよ。」
「けいちゃ~ん。」
「あ、ゴメン。言い過ぎた?」
「ま、渡せるといいな。」
「今日中にだけどな。」
「タケやんのいじわる。」
「おっ、噂をすればご本人登場ー!」
「えっ?」
振り返ると廊下から晃が顔を覗かせていた。
「タケ、辞書貸して。」
「おうっ。」
「サンキュー。」
「ほら、めぐ!」
隣の恵子が腕をつっつく。
む、無理だよ~。
さっきまで皆であきちゃんの話ししてたのに。
ど、どうしろっていうのよ~。
顔すら合わせることが出来ずに下を向いてしまう。
あきちゃんがどんな顔をしているのかはわからなかった。
ただ、皆の楽しそうな視線が注がれていることだけは確かだった。
あきちゃんが変に思うじゃない・・・
そのままあきちゃんを見ることなく、休み時間は終わった。
そしてとうとう放課後になってしまった。
「メグ、健闘を祈る!ちゃお。」
そう言うと笑顔で帰っていく恵子。
「良かったな、椎名。幸いにも晃は今日日直だ。そして俺は委員会の当番だ。」
「放課後チャンスは巡ってくるね。椎名さんゴーゴー。じゃあまた明日。」
関までも嬉しそうに帰っていく。
クラスの皆も徐々に減っていき、
三十分もすると校舎全体が静かになっていた。
ついに生活委員の竹田と二人になった。
「晃今一人だぞ。」
四組から帰ってきた竹田が教えてくれた。
「俺って優し~。」
「うん・・・行ってくる。」
重たい腰をあげ、いざ四組へ。
緊張するな。
ちゃんと渡せるかな。
いや、もらってくれるのだろうか。
不安になってきた。
恐る恐る四組へ辿り着くと、日誌を書いている晃の姿が見えた。
静かな教室で一人、机に向かう横顔はとても綺麗に見えた。
「あきちゃん。」
発した言葉が響いているのに自分で驚いてしまった。
一瞬こっちを見てくれたが、何も言わずに日誌へと戻ってしまった。
そおっと近づいた。
「あきちゃん、」
再び名を呼ぶ。
反応はない。
緊張から今度は私が下を向いてしまった。
沈黙が続く。
ちゃんと言わなきゃ。
せっかくタケやんも、けいちゃんも、関くんも応援してくれたのだから。
自分でがんばると決めたのだから。
再び顔を上げる。
すると、晃の視線は一度窓の外へと向けられた。
そして視線が戻された時、
目が合って、ドキっとした。
「あきちゃん、あのね・・・」
言葉が上手く続かない。
晃の視線は再び日誌に向けられる。
「あの・・・」
「あきちゃん?」
「き、聞いてる?」
思わず言ってしまった。
その一言で晃の表情が変わった。
「無視したのはそっち。」
「えっ?」
「朝から。」
「えっ?し、してないよ。」
「した。」
「してないよ。」
「してた。」
「うー、覚えてない。」
「朝と、昼休み。」
「えっ?朝?昼休み?無視してたわけじゃないよ。」
思い出しながら慌てて答える。
「朝はあきちゃん・・・来ていたの?」
「ああ。」
「なんだ、来ていたなら声かけてくれればよかったのに。」
「楽しそうだったから。」
「えっ?」
「おまえ楽しそうだったから。」
朝・・・
そういえば皆にチョコマフィンを渡して、北山くんが来てあきちゃんの話を聞いて。
「あ、あれは楽しかったわけでは・・・」
言い訳も聞かずに日誌を書き進める晃。
「そ、それに昼休みも無視していたわけではなく、つ、つまり・・・その・・・」
どう説明したらいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。
はっあ。
何やっているのだろう、私。
これではチョコレート渡すどころじゃないじゃない。
あきちゃんに、ちゃんと聞いてもらえるように話さなきゃ。
しっかり顔上げて、目を見て・・・
あ、あれ?
あれれ?
顔を上げ、見つめた目の前にいる晃は相変わらずの無表情・・・ではなく、怒っているというよりはむしろふて腐れたような表情をしているではないか。
こんなにも晃が表情を出したことあっただろうか。
いつも無表情で何を言ってもあまり笑ってくれないあきちゃん。
最初は何を考えているのかさえつかめなかった。
でも、
あきちゃんの笑った顔、優しい笑顔、怒った顔、だんだん見れるようになってきて、
ほら、
今はどういう表情をしているのかわかるようになった。
「あのね、あきちゃん、今日はあきちゃんに渡したいものがあるんだ。」
「はい。」
笑顔で紙袋を差し出した。
すると晃の視線が動いた。
「何これ?」
「今日はバレンタインデーだから。」
「それから、無視なんてしてないよ。朝からあきちゃんに渡すのに緊張していて、うまく話せなかったんだ。」
ありのままを伝えた。
強がって、がんばってみても、それではあきちゃんには伝わらないから。
今まで通り、私はあきちゃんに元気に笑顔で話しかける。
そうすることがあきちゃんにとっては一番わかりやすいと思うから。
「食い物?」
「そうだよ。」
「ふーん。」
「他にももらった?」
自然に聞いてみたつもりだけれど、やっぱり気づかれたかな、気にしていること。
「いや。もらったことない。」
「うそだ。」
「ほんと。」
「うそだー。」
「ほんと。」
「うっそだー。」
「本当。」
「うそだ~。あきちゃん嘘つきだ~。」
そこまで言うと晃の手が伸びてくるのがわかったので、よけた。
「いつも同じ手にはかかりませんよー。あきちゃん私が繰り返してしつこくなるといつも首くすぐるから―――」
えっ?
えっ、えーーーっ。
ちょ、ちょっとこれは・・・・
避けたはずの晃の手は、首ではなく、そのまま背中にまわされていた。
片方の手は頭に。
あきちゃんの制服が目の前にあった。
学ランの、ちょうどボタンの辺りに。
そう。
正面から、抱きしめられていた。
「小ちゃいな。」
「・・・・・」
何もいえなかった。
正面から抱きしめられるのは初めてで。
息をすることさえ忘れていた。
「なんか柔かいし。」
「そ、それはお肉っていう意味?」
思わず聞いてしまった。
「たしかに肉だな。これは。」
「ひっどーい。」
そう言ってやっと顔を動かした。
「痛っ。」
「あ、あれ?髪が・・・」
髪の毛が晃のボタンにかかってしまっていた。
「あ、ばか動くな。」
解いてくれているあきちゃん。
あきちゃんの頭がこんなに近くにあるだなんて。
身長差があるから、いつも見上げていた。
あきちゃんを。
無表情だから、顔色を伺っていた。
何を考えているかわからなかったから困った。
自分に都合が悪くなると、見上げることを辞めた。
下ばかり向いて、視線を逸らした。
あきちゃんから逃げていた。
でも、もう一度向き合いたくて、
あなたに追いつきたくて、
あなたと並びたくて、
一緒に歩きたくて、
そばにいたくて。
すごいな。
触れば手に届く。
簡単に手が届く距離にいる。
このまま・・・
時が止まればいいのに。
ずっと一緒にいられたらいいのに。
今日の日がずっと続けばいいのに。
「とれたぞ。」
「あ、ありがとう。」
結局自分のボタンを制服から外して解いてくれた。
「それ、取れるんだね。知らなかった。」
「ああ。」
「取り外せるとは便利だね。あきちゃん、今度の学校も学ラン?」
「ああ。確か一緒。」
「そうなんだ。」
聞いたところで自分は高校の制服を着た晃を見ることは出来ないことに気がついて寂しくなった。
「やろうか?」
「え?」
「ボタン。」
「えっ?」
「卒業式の時。」
「うん。い、いいの?」
「べつに。」
「ほんとに?」
「ああ。」
「ほんとに?」
「ああ。」
「ほんと?」
「しつこいぞ。」
「ほんとね。やった~。」
思いがけない晃からの言葉に、嬉しくてしょうがない顔で笑っている。
今思えば、
これが最後の楽しい日・・・だったのかもしれない。
あきちゃんが笑っていて、
あきちゃんが優しくて、
私も嬉しくて、楽しくて、幸せで。
時間よ・・・
どうかゆっくり流れて。
その時が来るまで
どうかゆっくり流れて。
そのまま、家庭学習期間に入った。
あきちゃんに、試験がんばろうね。
そう伝えられぬまま・・・
5
三月十日――
久しぶりの登校日。
今日までに一般試験、推薦試験、全ての高校受験が終わり、結果が出ている。
皆それぞれの結果を胸に、新しい進路を手にして集まってきた。
「もーえっ。」
「にの!」
「めぐー!」
「けいちゃん!」
「おめでとー!!」
思わず三人で抱き合ってしまった。
「良かったね、けいちゃん。」
「受験番号あった時、私泣いたわよ。」
「もえー、俺でも受かった。」
「二人ともおめでとう。いいな、同じ学校だものね。」
「そうなのよ。別に私はにのとは同じじゃあなくても良かったのだけどね。」
「恵子~。」
「めぐ、高校生になってもたまには遊ぼうね。」
「うん、うん!」
私は無事第一志望のT校に合格。
仲の良い友達こそいないものの、何人か同じ高校に進む仲間がいる。
にのとけいちゃんは同じ高校。
タケやんと祐也が同じ高校。
ちなっちゃんとヒロアキ、関くんも同じ高校。
松岡くんは県一、超難関といわれるM校に合格。学校の名誉と先生方は喜んだ。
あきちゃんは?
結果が出なかった者、志望校不合格となった者は、別室で進路指導を受けている。
あきちゃんの姿が見えないのでもしかして・・・
心配だった。
もし不合格だったら、こっちの高校に残るの?
そんな自分勝手な想いが頭をよぎった。
嫌な子だね、私。
あきらめが悪いぞ。
この家庭学習期間中、色々考えた。
冬休みよりも長かった期間。
試験に向けて苦しかった夜。
勉強の合間にふとあきちゃんの顔を思い出したりした。
塾の行き帰り、学校への定期相談の日、どこかで会えるのではないか、きっとどこかであきちゃんを見かけるのではないか。
そんな期待も叶うことはなかった。
会いたくて泣いた夜も会った。
今はまだ会える距離にいるのだから、
会おうとおもえば会えたかもしれない。
電話をすれば、会いに行けば、タケやんにお願いしたら・・・
そんな想いも交差していた。
でも・・・
受験が終った時、先生がくれた言葉。
「過去は振り返ってはいけない。今を生きる。」
そう声をかけてくれた。
試験が出来なかった、もっと勉強しておけば良かった。
あの時こうすれば良かった、そう過去を思い返すのではなく、
過去は過去。
誰にも帰ることはできない。
誰にも変えることはできない。
だから次へ進みなさい。
今を大事にしなさい。
今を・・・
あきちゃんが好きなこの想いを大事にする。
だから無理はしない。
自然に向かってくるもの、それを受け入れようと思った。
だから・・・
例えあきちゃんが東京へ行っても、行かなくても、私はこの想いを持って進んでいくんだ。
ほらね。
会えたでしょ。
「あきちゃん。」
遠く歩く後姿を見つけた。
走っていって声をかける。
「おめでとう。」
「おまえも受かったか?」
「うん。」
「そっか。」
「うん・・・」
久しぶりに見るあきちゃんは、また少し背が伸びていた。
「別々になるな。」
「え?」
「これから。」
「あ、うん。」
「そだね。」
少し間が空く。
「泣かないのか?」
「えっ?」
「おまえ、泣くかと思った。」
「な、なんで?」
「見てたから。」
その場できょとんとしてしまった。
「え?」
「おまえの事ずっと見てたから。」
「こういうの弱いだろうなって。」
嬉しかった。
あきちゃんが見ていてくれたこと、
あきちゃんが私を知ってくれてたこと、
あきちゃんが・・・
あきちゃんが大好きです。
「泣かないよ、今日は。」
「おめでとうの日だもん。」
そう言って笑って見せた。
不思議と、涙は出なかったんだ。
泣き顔見せるよりも、笑ってる顔を見せたいから。
泣いている子よりも、笑っている子でいたいから。
泣いたことよりも、笑っていたことを覚えていてほしいから。
涙は卒業式までとっておくね。
三月十三日――
晴れ。
蓮田中学三年生197名。
卒業。
入場を控えて体育館の裏に待機していた。
「やばい、もう泣きそうなんだけど。」
「けいちゃーん。」
「めぐー!」
抱き合う二人。
「おまえらバカか。」
笑う竹田。
ふと前に並ぶ四組に目を向ける。
あ。
晃と目が合った。
「おはよう。」
聞こえたかわからなかったけど、少しの間目が合っていた。
「終ったら皆で写真撮ろうなー。」
にのが言う。
「えー、泣いて変な顔だったら写りたくない。」
恵子の写りたくないという言葉に、晃の言葉を思い出した。
修学旅行の時、あきちゃん激しく写真を拒否していたな。
あの時は無理を言って撮ってもらったね。
ヒロアキと三人で映った写真。
修学旅行か。懐かしいな。
あの頃は、まだあきちゃんをこんなにも好きになるとは思っていなかったな。
こんなにも・・・
卒業式がはじまった。
来賓の挨拶、祝辞、卒業生を送る言葉が続く。
信じられなかった。
卒業だなんて。
静けさを保ったまま、進行は卒業証書授与式へと変わっていった。
校長先生が一人一人の名前を呼ぶ。
壇上に上がり、一礼をする。
卒業証書を読み上げ、手渡す。
一礼をし、壇上を後にする。
一組から始まった授与式は、一人一人、クラスごとに終っていく。
二組になり、
三組になった。
壇上に祐也の姿が見えた。
祐也。
中学生活で初めて好きになった人。
彼の隣をいつも歩いていたかった。
同じものを見ていたかった。
その想いは叶わなかったけれど、代わりに大切なことを知った。
とても大切なことを教えてくれた祐也。
人を好きになること、
相手を思いやること。
ありがとう。祐也。
三組女子になると千夏が上がった。
ちなっちゃん。
二年生のクラス替えで初めて話しかけてくれた女の子。
小さいけれど笑顔が可愛くて、パワーを持った強い女の子。
一緒に笑って、遊んで、いつも一緒にいた。
間違ったことが大嫌いで、友達でも違うとしっかり言ってくれる。
いつも相談にのってくれたね。
ありがとう、ちなっちゃん。
あなたと友達になれたこと誇りに思うよ。
三組が終わり、
四組になった。
ヒロアキ。
一年と二年の二年間同じクラスだったね。
中学に入って初めて出来た男友達。
部活も一緒で、私のわがままにもつきあってくれたね。
いつもそばにいたから、それが当たり前のようだったから、私はヒロアキが見ていてくれたことに甘え過ぎていたね。
ごめんね。でも、ありがとう。
あなたは一番大好きな友達だよ。
そして・・・
晃の名前が呼ばれる。
「穂高晃。」
「はい。」
返事をした晃。
その声を聞いた瞬間、
一気に涙が溢れ出た。
それまでの何かが切れたかのように。
あきちゃん。
振り返ってみれば色々なことがあったよね。
今だから言えるけれど、はじめはあきちゃんの事苦手だった。
話しかけてもいつも無愛想な態度だし、私がいることを邪魔そうにしていたし。
でもね、落したプリント拾ってもらった時、そんないい加減な人ではないのかなって思った。
その頃から少しずつ話すようになって、修学旅行でテレホンカード拾ってくれたのもあきちゃんだったね。
引退試合、突然見に行って感動した。
あきちゃんを好きだと気がついた。
夏休みにはお祭りに一緒に行って、初めて手をつないで。
秋にはお互い想いがズレてうまくいかないこともあったけれど、あきちゃんを想う気持ちを大事にしようと思った。
こんなにも長い間人を好きになったことなんてなかった。
だから・・・
今日までが短く感じる。
でも、これだけは覚えておいてほしい。
あきちゃんと一緒にいて、楽しくなかったことなんてなかったよ。
辛いこともあったけれど、それでもあきちゃんのそばにいたかった。
ずっと、一緒にいたかった。
色々な事が頭を横切り・・・
悲しかった。
再び晃を見る。
壇上から降り、席へと戻る晃の横顔は真剣な表情をしていた。
行かないで・・・
そう思った。
こんなに涙が出るとは思っていなかった。
自分がどう卒業証書をもらったのかさえ覚えてない。
気がつくと卒業式は終わり、教室の中にいた。
「めぐ・・・平気?」
「うん。大丈夫だよ。私は平気だからけいちゃん皆と写真撮っておいでよ。」
「そう。じゃあまた来るね。」
見事に泣き腫らした顔ではさすがに写真は写れない。
中庭に出て写真を撮る者、ペンを持ち色紙にメッセージを残す者、笑っている者、皆それぞれの想いを胸に最後の時間を過ごしていた。
あきちゃんはもう帰っただろうか。
卒業式の後、一度も会っていない。
このまま・・・
お別れするのもいいのかもしれない。
会ってしまったら、泣いてしまいそうだから。
会ったら・・・
「おい。」
「おいっ。」
机に伏せていた顔をあげるとなんと目の前にいたのは晃だった。
「あきちゃ・・・」
言葉にならなかった。
泣き顔を見られたくなかったけれど、もうどうすることも出来なかった。
「これ。」
「え?」
目の前に置かれたのはボタンだった。
晃に目を向けると、学ランの上から二番目のボタンが外されていた。
「やる。」
「あ、ありがとう。」
やっとの思いで発した言葉。
「じゃあな。」
「あ、あきちゃん。」
そのまま行ってしまうと思ったが、振り返ってくれた。
「ありがとう。げ、元気でね。」
「ああ。」
「ばいばい。」
「ああ。」
「バイバイ。」
晃が教室を出て行った後、最後の「ああ。」という声がずっと残っていて、
涙がまた溢れてきた。
最初から、最後まで変わらない、あきちゃんの無表情な答え方。
どうして悲しいの?
ボタンもらえて嬉しいはず。
どうして悲しいの?
話せて嬉しかったはず。
ドウシテカナシイノ?
その答えはわかっている。
好きだから。
今日という日がついに来て。
でも、まだ実感がない。
会えなくなるってどういこと?
高校生ってどういうこと?
悩んでも・・・
泣いてもしょうがない。
だって私が決めたことなのだもの。
まっすぐ前を見て進もうって。
この先つらいこともあるだろうけれど、
もっと素直になって、私らしく、歩いていこう。
好きだから。
人が人を好きになったら、涙はつきものなのかもしれない。
はじめは私のことを見てほしかった。
私に気づいて欲しいと思った。
相手の想いを知ると、今度は私だけを見てほしくなった。
嫌われたくなかった。
拒否されるのを恐れていた。
再びつかんだ喜びも、怖くなって自分から手放してしまった。
それでも・・・
楽しかった。
幸せだった。
会えるのだから。
学校に行けば会えるのだから。
手を伸ばせば届く距離にいるのだから。
はじめて手に入れた恋愛は、
楽しくて、幸せで、素敵で、ドキドキして。
わからなくて、困って、悩んで、辛くて、悲しくて、逃げ出したりもした。
それでも、大好きな人と過ごした時間は大切な宝物。
卒業。
おめでとう。
おめでたくなんかはない。
お別れ。
でも、忘れられない・・・
きっと、ずっと。
過去を振り返らずに、
前を向いて歩いていこう。
そうすれば、
またいつか会えるよ。
信じてる。
あなたに会えて良かった。
大好きだよ。
「めぐー!」
「もえっ、こっちおいで。」
「皆待ってるぞ。」
「椎名さん、早くー。」
「めぐちゃん。」
「しーな、おせーよ。」
これが私の大切な友達。
これが私の大切な場所。
これが私の大切な時間。
これが私の大切な想い。
思い出にはまだしばらくできそうにもないけれどね。