第8.5話「帰る場所」
第8.5話です。
これは、もう一つの戦場の物語。
ハンスは空を見上げていた。
青かった。
こんな場所でも、空は変わらない。
「……帰りたいな」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない。
ポケットから写真を取り出す。
写っているのは、家族だ。
母と妹。
笑っている。
あの村の風景。
静かな日々。
あの頃は、戦争なんて遠いものだった。
「俺は……間違ってないよな」
写真に向かって言う。
ここにいる理由は分かっている。
命令だから。
だが、それだけじゃない。
守るためだ。
家族を。
帰る場所を。
それは正しいはずだ。
そうでなければ、ここにいる意味がない。
そのとき――
肩に激痛が走った。
「っ……!」
体がよろめく。
撃たれた。
昨日の傷が開く。
息が乱れる。
どこからだ。
どこにいる。
視界が揺れる。
だが、立たなければならない。
ここで倒れたら終わりだ。
帰れなくなる。
歯を食いしばる。
一歩、前に出る。
その瞬間――
銃声。
時間が止まる。
衝撃。
体が崩れる。
地面が近づく。
冷たい。
動けない。
空が見える。
さっきと同じ空。
青いまま。
ハンスは思う。
帰りたかった。
ただ、それだけだった。
意識が遠のく。
最後に、写真のことを思い出した。
落としたままだった。
「……ごめん」
声にならない声。
やがて、すべてが静かになった。
読んでいただきありがとうございます。
同じ戦場で、同じ空の下で、それぞれが自分の正義を抱えていました。
どちらが正しいかではなく、どちらも「正しい」――それがこの物語の一つの答えです。
よければ感想などいただけると嬉しいです。




