第8話「二度目の照準」
第8話です。
一度引いた引き金。その意味を、アレクセイはまだ理解しきれていなかった。
夜が明けても、アレクセイは眠れなかった。
頭の中に、あの光景が何度もよみがえる。
写真を見ていた兵士。
引き金。
そして――わずかなズレ。
「……起きてるか」
隣でミハイルが小さく言う。
「……ああ」
短く答える。
「初めてならそんなもんだ」
ミハイルは壁にもたれたまま続けた。
「だがな」
少し間を置く。
「次は外すな」
その言葉は冷たかった。
だが、間違ってはいない。
ここでは、外した方が死ぬ。
朝の空気は刺すように冷たい。
アレクセイは再び配置についた。
昨日と同じ瓦礫の陰。
違うのは、自分の中だけだった。
しばらくして――
また現れた。
あの兵士だ。
肩に包帯が巻かれている。
動きは慎重だが、確実に前へ進んでいる。
生きている。
昨日、自分が撃った相手が。
アレクセイの呼吸が乱れる。
照準を合わせる。
今度は外せない。
外せば、やられる。
ミハイルが小さく言う。
「やれ」
短い命令。
アレクセイの指が引き金にかかる。
スコープの中の兵士。
昨日と同じ顔。
だが違う。
あのときよりも――必死だ。
兵士は一瞬、立ち止まる。
そして空を見上げた。
青い空。
何も変わらない空。
その瞬間――
アレクセイの中で、何かが決まった。
息を吸う。
止める。
撃つ。
乾いた音が響いた。
弾は真っ直ぐ飛ぶ。
今度は――ずれなかった。
兵士の体が崩れる。
静かに、前へ倒れた。
動かない。
完全な沈黙。
アレクセイはスコープから目を離せなかった。
やった。
撃った。
当たった。
だが――
胸の奥に広がるのは、達成感ではなかった。
冷たい、重たい何か。
ミハイルが言う。
「……それでいい」
アレクセイは何も答えなかった。
ただ、倒れた兵士のいた場所を見続けていた。
守るために撃った。
それは間違っていない。
だが――
あの兵士も、何かを守ろうとしていたはずだ。
風が吹く。
遠くで砲撃の音が響く。
戦争は続いている。
そして自分も、その中にいる。
アレクセイは静かに目を閉じた。
読んでいただきありがとうございます。
アレクセイは二度目の照準で、引き金を引きました。
その選択の重さは、これからも彼に残り続けます。




