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熱くて寒い奇跡  作者:
8/29

第8話「二度目の照準」

第8話です。

一度引いた引き金。その意味を、アレクセイはまだ理解しきれていなかった。


夜が明けても、アレクセイは眠れなかった。


頭の中に、あの光景が何度もよみがえる。


写真を見ていた兵士。

引き金。

そして――わずかなズレ。


「……起きてるか」


隣でミハイルが小さく言う。


「……ああ」


短く答える。


「初めてならそんなもんだ」


ミハイルは壁にもたれたまま続けた。


「だがな」


少し間を置く。


「次は外すな」


その言葉は冷たかった。


だが、間違ってはいない。


ここでは、外した方が死ぬ。


朝の空気は刺すように冷たい。


アレクセイは再び配置についた。


昨日と同じ瓦礫の陰。


違うのは、自分の中だけだった。


しばらくして――


また現れた。


あの兵士だ。


肩に包帯が巻かれている。


動きは慎重だが、確実に前へ進んでいる。


生きている。


昨日、自分が撃った相手が。


アレクセイの呼吸が乱れる。


照準を合わせる。


今度は外せない。


外せば、やられる。


ミハイルが小さく言う。


「やれ」


短い命令。


アレクセイの指が引き金にかかる。


スコープの中の兵士。


昨日と同じ顔。


だが違う。


あのときよりも――必死だ。


兵士は一瞬、立ち止まる。


そして空を見上げた。


青い空。


何も変わらない空。


その瞬間――


アレクセイの中で、何かが決まった。


息を吸う。


止める。


撃つ。


乾いた音が響いた。


弾は真っ直ぐ飛ぶ。


今度は――ずれなかった。


兵士の体が崩れる。


静かに、前へ倒れた。


動かない。


完全な沈黙。


アレクセイはスコープから目を離せなかった。


やった。


撃った。


当たった。


だが――


胸の奥に広がるのは、達成感ではなかった。


冷たい、重たい何か。


ミハイルが言う。


「……それでいい」


アレクセイは何も答えなかった。


ただ、倒れた兵士のいた場所を見続けていた。


守るために撃った。


それは間違っていない。


だが――


あの兵士も、何かを守ろうとしていたはずだ。


風が吹く。


遠くで砲撃の音が響く。


戦争は続いている。


そして自分も、その中にいる。


アレクセイは静かに目を閉じた。


読んでいただきありがとうございます。

アレクセイは二度目の照準で、引き金を引きました。

その選択の重さは、これからも彼に残り続けます。


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