表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱くて寒い奇跡  作者:
7/29

第7話「初めての照準」

第7話です。

戦場に立ったアレクセイが、初めて「敵」と向き合います。


レニングラードの街は、静かだった。


だがそれは、平和の静けさではない。


壊れた建物。割れた窓。人の気配の薄い通り。


ここはもう、普通の街ではなかった。


アレクセイは瓦礫の陰に身を潜めていた。


隣にはミハイルがいる。


「動くなよ」


小さな声で言う。


「ここじゃ、動いた方が死ぬ」


アレクセイはうなずいた。


手の中の銃が重い。


訓練とは違う。


ここでは外せば終わりだ。


風が吹く。


冷たい。


指先の感覚が少しずつ消えていく。


そのとき――


ミハイルが小さく言った。


「来た」


アレクセイはゆっくりとスコープを覗いた。


瓦礫の向こう。


一人の兵士がいた。


ドイツ軍だ。


若い。


思っていたよりもずっと。


その兵士は周囲を警戒しながら歩いている。


やがて足を止めた。


そして――


ポケットから何かを取り出した。


小さな紙。


写真だった。


兵士はそれを見つめている。


わずかに口元が緩む。


誰かの笑顔がそこにあるのだろう。


アレクセイの指が止まる。


——守りたいものがあるのは、あいつも同じか。


息を吸う。


ゆっくり吐く。


照準を合わせる。


胸。


動くな。


心臓の鼓動がうるさい。


撃て。


ここで撃たなければ、やられるのは自分たちだ。


守るためだ。


家族のため。


この街のため。


——それでも。


指が震える。


それでも、アレクセイは引き金を引いた。


乾いた音が響く。


弾は飛ぶ。


だが――


ほんのわずか。


数ミリ、ずれた。


弾は兵士の肩をかすめた。


兵士の体が揺れる。


写真が手から落ちた。


「くっ……!」


兵士はとっさに身を隠す。


撃ち返してくる。


銃声が響く。


瓦礫が弾ける。


「外したな!」


ミハイルが低く言う。


「次、来るぞ!」


アレクセイは動けなかった。


今の一瞬が、頭から離れない。


撃った。


自分は撃った。


だが、殺せなかった。


いや――


殺さなかったのか?


分からない。


ただ、確かなことが一つある。


あの兵士も、生きようとしていた。


それだけだ。


再び銃声が響く。


現実が戻ってくる。


アレクセイは歯を食いしばった。


次は、外せない。


読んでいただきありがとうございます。

初めての実戦で、アレクセイは引き金を引きました。

しかし結果は「数ミリのズレ」。

それが意味するものは、これから描いていきます。

よければ感想などいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ