第7話「初めての照準」
第7話です。
戦場に立ったアレクセイが、初めて「敵」と向き合います。
レニングラードの街は、静かだった。
だがそれは、平和の静けさではない。
壊れた建物。割れた窓。人の気配の薄い通り。
ここはもう、普通の街ではなかった。
アレクセイは瓦礫の陰に身を潜めていた。
隣にはミハイルがいる。
「動くなよ」
小さな声で言う。
「ここじゃ、動いた方が死ぬ」
アレクセイはうなずいた。
手の中の銃が重い。
訓練とは違う。
ここでは外せば終わりだ。
風が吹く。
冷たい。
指先の感覚が少しずつ消えていく。
そのとき――
ミハイルが小さく言った。
「来た」
アレクセイはゆっくりとスコープを覗いた。
瓦礫の向こう。
一人の兵士がいた。
ドイツ軍だ。
若い。
思っていたよりもずっと。
その兵士は周囲を警戒しながら歩いている。
やがて足を止めた。
そして――
ポケットから何かを取り出した。
小さな紙。
写真だった。
兵士はそれを見つめている。
わずかに口元が緩む。
誰かの笑顔がそこにあるのだろう。
アレクセイの指が止まる。
——守りたいものがあるのは、あいつも同じか。
息を吸う。
ゆっくり吐く。
照準を合わせる。
胸。
動くな。
心臓の鼓動がうるさい。
撃て。
ここで撃たなければ、やられるのは自分たちだ。
守るためだ。
家族のため。
この街のため。
——それでも。
指が震える。
それでも、アレクセイは引き金を引いた。
乾いた音が響く。
弾は飛ぶ。
だが――
ほんのわずか。
数ミリ、ずれた。
弾は兵士の肩をかすめた。
兵士の体が揺れる。
写真が手から落ちた。
「くっ……!」
兵士はとっさに身を隠す。
撃ち返してくる。
銃声が響く。
瓦礫が弾ける。
「外したな!」
ミハイルが低く言う。
「次、来るぞ!」
アレクセイは動けなかった。
今の一瞬が、頭から離れない。
撃った。
自分は撃った。
だが、殺せなかった。
いや――
殺さなかったのか?
分からない。
ただ、確かなことが一つある。
あの兵士も、生きようとしていた。
それだけだ。
再び銃声が響く。
現実が戻ってくる。
アレクセイは歯を食いしばった。
次は、外せない。
読んでいただきありがとうございます。
初めての実戦で、アレクセイは引き金を引きました。
しかし結果は「数ミリのズレ」。
それが意味するものは、これから描いていきます。
よければ感想などいただけると嬉しいです。




