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熱くて寒い奇跡  作者:
4/29

第4話 「標的」

第4話です。

アレクセイは初めて軍の訓練を受けます。


乾いた土の匂いがした。


村とは違う空気だった。


アレクセイは銃を抱えながら、訓練場に立っていた。


周りには同じような新兵たち。


誰もが緊張した顔をしている。


その中に――ミハイルがいた。


「よう」


軽く手を上げる。


無理に明るくしているのが分かった。


アレクセイも小さくうなずく。


そのとき。


重い足音が近づいてきた。


全員の視線が一斉に向く。


一人の男が現れた。


無駄のない動き。


鋭い目。


年季の入った軍服。


セルゲイ・ドラゴミロフ曹長だった。


空気が変わる。


男はゆっくりと全員を見渡した。


「……新兵か」


低い声。


それだけで、誰も声を出せなくなる。


「ここは学校じゃない」


静かに言う。


「死にたくなければ、覚えろ」


その言葉に、誰もが息を飲んだ。


セルゲイは地面に置かれた銃を指差す。


「それを持て」


アレクセイは銃を手に取る。


重い。


昨日まで持っていた猟銃とは違う。


冷たく、無機質だった。


「伏せろ」


全員が一斉に地面に伏せる。


砂が顔に当たる。


「標的を見るな」


その言葉に、一瞬戸惑う。


「呼吸を見ろ」


意味が分からない。


「息を止めた瞬間だけ、撃て」


アレクセイは標的を見る。


遠くに置かれた的。


距離は思ったより遠い。


手が震える。


指を引き金にかける。


重い。


こんなにも重かったか?


心臓の音がうるさい。


ドクン、ドクン――。


狙いがぶれる。


撃てない。


撃ちたくない。


「撃て」


教官の声。


その一言が、背中を押す。


アレクセイは息を止める。


引き金を引いた。


――バン。


反動が肩に伝わる。


土が跳ねる。


外した。


「遅い」


すぐに声が飛ぶ。


「撃つな。考えろ」


アレクセイは歯を食いしばる。


もう一度。


呼吸。


心臓。


指。


全てを合わせる。


だが――


また外した。


悔しさが込み上げる。


そのとき。


隣から銃声が響いた。


――バン。


的の中心に、穴が空く。


アレクセイは目を見開く。


隣にいた男。


細身で、鋭い目をしていた。


ゆっくりと銃を下ろす。


「……簡単だろ」


小さく言う。


その声には余裕があった。


アレクセイは何も言えない。


男はちらりとこちらを見る。


「その構えじゃ当たらない」


昨日、聞いたような言葉。


「教えてやろうか?」


少しだけ、笑った。


アレクセイは眉をひそめる。


「……誰だよ」


男は肩をすくめる。


「イリヤだ」


それだけ言うと、再び銃を構える。


次の一発。


また中心に当てた。


音がやけに大きく聞こえた。


アレクセイは拳を握る。


悔しい。


ただ、それだけだった。


セルゲイが言う。


「当てることに意味はない」


イリヤの方を見る。


「生き残ることに意味がある」


その言葉は、誰にも向けられていないようで――


全員に突き刺さった。


風が吹く。


砂が舞う。


アレクセイは再び銃を構える。


今度こそ。


そう思いながら。


読んでいただきありがとうございます。

次回、アレクセイは狙撃の本質に近づいていきます。

よければ感想などいただけると嬉しいです。


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