第3話 「選ばされた道」
第3話です。
アレクセイは選択を迫られます。
朝の空気はまだ冷たかった。
だが、村の空気はそれ以上に張り詰めていた。
広場には再び人が集まっている。
昨日とは違う。
今日は――兵士がいた。
軍服を着た男たち。
見慣れない顔。
だが、その存在だけで何を意味するかは誰でも分かった。
徴兵だ。
アレクセイは人混みの後ろからその様子を見ていた。
隣には父がいる。
黙ったまま、前を見ていた。
兵士の一人が前に出る。
低く、よく通る声だった。
「若い男は前に出ろ」
ざわめきが広がる。
誰もすぐには動かない。
だが、少しずつ――
一人、また一人と前に出ていく。
アレクセイは足が動かなかった。
そのとき、後ろから声がした。
「……行くのか?」
振り返ると、幼なじみのミハイルがいた。
無理に笑っている。
「どうする?」
軽い調子だったが、目は笑っていない。
アレクセイは答えない。
答えられない。
行きたくない。
戦いたくない。
撃ちたくない。
だが――
ミハイルが小さく言った。
「俺は行く」
その言葉に、胸がざわつく。
「行かないと……守れないだろ」
その一言が、深く刺さる。
アレクセイは拳を握った。
守る。
昨日、父も言っていた言葉。
視線を上げる。
兵士たち。
前に出た若者たち。
その中には、見知った顔もある。
逃げることはできる。
森に入れば、誰も見つけられない。
猟師として生きていける。
戦争から逃げて、生きることはできる。
だが――
そのとき。
アーニャの顔が浮かんだ。
泣いている顔。
燃える家。
崩れる村。
想像が、頭の中で勝手に広がる。
「……くそ」
小さく呟く。
怖い。
ただ、それだけだった。
死ぬのが怖い。
人を殺すのが怖い。
それでも。
足が、前に出た。
一歩。
また一歩。
気づけば、ミハイルの隣に立っていた。
ミハイルが少しだけ笑う。
「やっぱりな」
アレクセイは何も言わなかった。
言えば、引き返してしまいそうだった。
兵士が名簿に名前を書き込む。
「名前は?」
「……アレクセイ」
声が少し震えた。
兵士は気にする様子もなく書き留める。
「今日からお前は兵士だ」
その一言は、あまりにも軽かった。
だが、すべてを変えるには十分だった。
振り返る。
人混みの中に父がいる。
何も言わない。
ただ、ゆっくりとうなずいた。
その表情は――
誇らしさか、諦めか。
アレクセイには分からなかった。
アーニャもいた。
目が合う。
何か言いたそうだった。
だが、言葉にはならない。
ただ、強く拳を握っていた。
アレクセイは目をそらした。
見てしまえば、戻れなくなる気がした。
空は晴れていた。
あの日と同じように。
静かな空だった。
だがもう――
同じ世界ではなかった。
読んでいただきありがとうございます。
次回は軍での生活が始まります。
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