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熱くて寒い奇跡  作者:
26/29

第24話「残されたもの」

第24話です。

守れなかったものは、消えない。

それは――撃ち続ける理由になるのか、それとも。


雪は、もうほとんど残っていなかった。


だが空気は冷たい。


肌を刺すような風が、瓦礫の街を吹き抜けていた。


「……」


ハンスは歩いていた。


足を引きずりながら。


応急処置はされている。


だが痛みは消えない。


鈍く、確実に残っている。


「……ハンスか?」


背後から声がした。


聞き慣れた声だった。


「……」


振り返る。


そこに立っていたのは――


「……カール」


小さく呟く。


カール・ヴァイス。


同じ部隊の戦友。


「生きてたか」


カールは軽く笑った。


その顔には疲れが見える。


だが、いつもの調子だった。


「……お前もな」


ハンスは短く返す。


「その足、やられたか?」


「……ああ」


「派手にやられてるな」


カールは肩をすくめる。


「だが死んでない」


「それで十分だ」


軽い口調。


だがその言葉には重みがあった。


「……」


ハンスは何も言わない。


ただ、小さく頷いた。


「……戻ってこい」


カールが言う。


「まだ戦えるだろ」


当然の言葉。


疑いもない。


「……ああ」


ハンスは答える。


迷いはなかった。


それが“正しい”から。


「よし」


カールは満足そうに笑う。


「じゃあ、行くか」


二人は並んで歩き出す。


瓦礫の街を。


再び戦場へ。



銃声が響く。


空が裂けるような音。


砲撃。


地面が揺れる。


「伏せろ!!」


誰かが叫ぶ。


二人は同時に身を低くする。


次の瞬間――


爆発。


すぐ近くで土煙が上がる。


「くそっ……!」


カールが舌打ちする。


「まだ来るぞ!」


ハンスは周囲を見る。


敵の位置を探る。


だが、見えない。


煙で視界が遮られている。


「……っ」


嫌な予感がする。


直感。


戦場で何度も感じてきたもの。


「カール、動くな」


低く言う。


だが――


遅かった。


「大丈夫だ、こんなの――」


カールが立ち上がろうとする。


その瞬間。


乾いた音が響いた。


一発。


それだけだった。


「……」


カールの動きが止まる。


ほんの一瞬。


何が起きたのか分からないように。


「……あ?」


小さく声を漏らす。


そして――


ゆっくりと、崩れた。


「カール」


ハンスが呼ぶ。


反応はない。


血が広がっていく。


胸。


正確な一発。


「……」


ハンスは動かない。


動けない。


時間が止まったようだった。


「……おい」


もう一度呼ぶ。


返事はない。


当たり前だ。


分かっている。


それでも。


「……」


手を伸ばす。


肩に触れる。


温かい。


まだ温かい。


「……」


何も言えない。


言葉が出てこない。


「……」


周りでは戦闘が続いている。


銃声。


爆発。


叫び声。


だが、遠い。


すべてが遠く感じる。


「……」


ハンスは座り込む。


カールの隣に。


その顔を見る。


さっきまで笑っていた顔。


もう動かない。


「……」


思い出す。


さっきの言葉。


“死んでない。それで十分だ”


その通りだ。


戦場では。


それがすべてだ。


「……」


だが――


それでいいのか。


「……」


分からない。


何が正しいのか。


何が間違っているのか。


「……」


ただ一つ、分かることがある。


もう、この声は聞こえない。


二度と。


「……」


ハンスはゆっくりと立ち上がる。


足が痛む。


だが気にならない。


何も感じない。


「……」


銃を拾う。


手に馴染む重さ。


いつもと同じ。


変わらないはずなのに――


何かが違う。


「……」


視線を上げる。


敵の方向。


煙の向こう。


そこにいる。


撃つべき相手。


「……」


引き金に指をかける。


迷いはない。


何もない。


「……」


撃つ。


一発。


敵が倒れる。


「……」


もう一発。


また倒れる。


正確な射撃。


いつも通り。


完璧に。


「……」


だが――


その中には、何もなかった。


怒りも。


悲しみも。


何も。


「……」


ただ、撃つ。


それだけ。


それが“正しい”から。


それが“役割”だから。


「……」


カールの方を見ない。


振り返らない。


意味がないから。


「……」


歩き出す。


戦場の中へ。


銃を持って。


感情を置いて。


「……」


遠くでまた爆発が起きる。


空が揺れる。


世界が壊れていく。


それでも。


戦いは終わらない。


「……」


ハンスは進む。


ただ前へ。


何も残っていないまま。


読んでいただきありがとうございます。

守れなかったものは、消えない。

それでも、人は進むしかないのか――。

よければ感想などいただけると嬉しいです。

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