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熱くて寒い奇跡  作者:
24/29

第22話「交差する銃口」

第22話です。

敵は変わらない。

だが――その距離だけが、少しだけ変わった。

瓦礫を蹴り上げながら、アレクセイは走っていた。


息が荒い。


肺が焼けるように痛い。


だが止まれない。


遠くで銃声が響く。


近い。


思っていたよりも、戦線は崩れている。


「……っ」


歯を食いしばる。


戻らなければならない。


守るべき場所へ。


その途中――


足を止めた。


前方の路地。


煙の向こうに、影が動く。


一つじゃない。


三つ。


いや、四つ。


ドイツ兵。


こちらには気づいていない。


だが、このまま進めば確実に見つかる。


「……」


アレクセイはしゃがむ。


ライフルを構える。


呼吸を整える。


距離は中距離。


一人、二人なら問題ない。


だが四人。


撃てば、残りが反応する。


「……」


それでも――行くしかない。


引き金に指をかける。


その瞬間――


別の銃声が響いた。


乾いた音。


一発。


先頭の兵士が倒れる。


「……!?」


アレクセイの目がわずかに見開かれる。


残りの兵士たちが一斉に反応する。


「敵だ!!」


叫び声。


だが次の瞬間、もう一発。


別の兵士が倒れる。


正確な射撃。


無駄がない。


「……」


アレクセイは理解する。


この撃ち方は――


迷いがない。


狙撃手。


しかも相当な腕。


「……っ」


考える時間はない。


残り二人。


アレクセイは引き金を引く。


一人、倒れる。


もう一人がこちらに気づく。


銃口が向く。


「っ!」


撃たれる――


その瞬間。


別の方向から銃声。


最後の一人が崩れ落ちた。


静寂。


一瞬だけ、戦場が止まる。


「……」


アレクセイはゆっくりと立ち上がる。


煙の向こう。


そこに立っていたのは――


ハンスだった。


「……」


言葉はない。


必要もない。


互いに分かっている。


今の一連の動きで。


「……」


アレクセイは銃を下ろさない。


ハンスも同じだ。


構えは崩さない。


だが、向けてはいない。


奇妙な距離。


敵のままの距離。


「……行くのか」


ハンスが低く言う。


アレクセイは一瞬だけ視線を逸らす。


「……ああ」


短く答える。


「戻る」


それ以上は言わない。


言えない。


「……そうか」


ハンスもそれ以上は聞かない。


そのとき――


背後で爆発が起きた。


地面が揺れる。


瓦礫が崩れる。


「くそっ……!」


二人同時に振り返る。


別の部隊が来ている。


数が多い。


五人、六人――それ以上。


「……」


逃げるか。


戦うか。


判断は一瞬。


「……っ」


先に動いたのはハンスだった。


近くの壁へ飛び込む。


身を隠す。


「……」


アレクセイも同時に動く。


反対側の瓦礫へ。


位置を取る。


互いに視界の端にいる。


だが、敵もいる。


「敵だ!!」


銃声が響く。


弾丸が壁を砕く。


破片が飛び散る。


「……!」


アレクセイは身を低くする。


反撃のタイミングを測る。


数が多い。


正面からでは押し切られる。


「……」


そのとき。


視界の端で、ハンスが動く。


合図はない。


だが分かる。


次に何をするか。


「……」


アレクセイは呼吸を止める。


そして――


同時に飛び出した。


銃声。


二方向からの射撃。


敵の一人が倒れる。


混乱が広がる。


「挟まれてるぞ!」


叫び声。


だが遅い。


もう一発。


ハンスの弾が一人を撃ち抜く。


アレクセイも撃つ。


確実に当てる。


一人ずつ、減らしていく。


「くそっ……!」


敵が遮蔽物に隠れる。


だが、それも想定内。


「……」


アレクセイは位置を変える。


側面へ。


ハンスも同時に動く。


逆側へ。


完全な挟撃。


言葉はない。


だが、動きが噛み合う。


「……!」


敵が一人、飛び出す。


アレクセイが狙う。


だが一瞬遅れる。


その瞬間――


ハンスの弾が先に貫いた。


「……」


アレクセイは何も言わない。


ただ次を狙う。


逆に、ハンスが狙われる。


死角。


「っ!」


アレクセイが撃つ。


敵が倒れる。


ハンスの動きが止まらない。


わずかに頷いたように見えた。


気のせいかもしれない。


「……」


残り、二人。


互いに目が合う。


ほんの一瞬。


それだけで十分だった。


同時に動く。


同時に撃つ。


二発の銃声。


同時に敵が倒れる。


静寂。


戦闘が終わった。


「……」


煙が流れる。


二人は立っている。


少し距離を空けて。


呼吸だけが聞こえる。


「……」


アレクセイは銃を下ろす。


完全ではない。


すぐに構えられる位置。


ハンスも同じ。


「……」


言葉はない。


だが、さっきまでとは違う。


撃つ対象ではない。


かといって、味方でもない。


「……助かった」


アレクセイが小さく言う。


それだけ。


余計な言葉はない。


「……お互い様だ」


ハンスが答える。


短く。


それだけ。


再び沈黙。


遠くでまた爆発が起きる。


戦場は終わっていない。


「……行く」


アレクセイが言う。


背を向ける。


一瞬だけ迷う。


だが止まらない。


歩き出す。


「……」


ハンスは何も言わない。


ただ、その背中を見ている。


「……」


そして、反対方向へ歩き出す。


再び別の道へ。


交わったはずの道は、また分かれる。


だが――


さっきまでとは違う。


完全な敵ではない。


だが、味方でもない。


その曖昧さを残したまま。


二人は、それぞれの戦場へ戻っていく。


読んでいただきありがとうございます。

共に戦った二人は、再び別々の道へ。

次に銃口が向くとき、その意味は――。

よければ感想などいただけると嬉しいです。

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