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熱くて寒い奇跡  作者:
2/29

第2話 「遠い雷」

第2話です。

静かな村にも、戦争の影が近づいてきます。



長い冬が終わり、森の雪がゆっくり溶け始めていた。


アレクセイは森の小道を歩いていた。

肩には猟銃。昨日仕掛けた罠を見に行く途中だ。


鳥の声がする。

川の氷も少しずつ割れ始めていた。


いつもの静かな森だった。


だが、その静けさを破るように――


遠くで、低い音が響いた。


ゴォン……。


雷のような音。


アレクセイは空を見上げた。

雲はない。


もう一度、音がする。


ゴォン……。


「……なんだ?」


森の奥から父が歩いてきた。


父も音を聞いていたらしい。


「雷じゃないな」


父は眉をひそめる。


そのとき、遠くの村から鐘の音が聞こえた。


カン、カン、カン――。


村の広場にある鐘だ。


こんな時間に鳴るはずがない。


アレクセイと父は顔を見合わせた。


嫌な予感がした。


二人は急いで村へ戻った。


広場には人が集まっていた。


誰も笑っていない。


皆、不安そうな顔をしている。


村の長老が紙を握って立っていた。


震える声で言う。


「……戦争が始まった」


ざわめきが広がる。


「ドイツ軍が攻めてきた」


誰かが叫んだ。


その言葉は、広場の空気を一瞬で凍らせた。


アレクセイの隣で、父が小さく息を吐く。


アーニャも人混みの中にいた。


彼女はアレクセイを見つけると、急いで近づいてくる。


「本当なの?」


アレクセイは答えられなかった。


代わりに父が言った。


「……ああ」


その夜。


家の中は静かだった。


いつもなら食事の時間は笑い声がある。


だが今日は違う。


アーニャがスープをよそっていた。


湯気が立つ。


それでも、誰もすぐには手をつけなかった。


アレクセイは言う。


「俺は……戦争なんてしたくない」


父は黙ってパンをちぎる。


アレクセイは続けた。


「人を撃つなんて……」


鹿を撃つのとは違う。


相手は人間だ。


父がゆっくり言った。


「誰だってそうだ」


静かな声だった。


「好きで戦う者なんていない」


父はアレクセイを見る。


「だがな」


外では風が吹いていた。


「守るものがあるなら、話は別だ」


父の言葉は重かった。


アレクセイは拳を握る。


守りたいもの。


家族。


この家。


そして――


アーニャ。


彼女は静かにスープをかき混ぜていた。


アレクセイは思う。


死にたくない。


人も殺したくない。


だが――


もし敵がここへ来たら?


もしこの家が燃やされたら?


もしアーニャが泣いたら?


そのとき、自分は何ができる?


窓の外では風が強くなっていた。


遠くで、またあの低い音が響く。


戦争の音だった。


アレクセイはスープを一口飲んだ。


熱い。


だが、胸の中は冷たいままだった。


その夜。


アレクセイはほとんど眠れなかった。


読んでいただきありがとうございます。

次回から物語は大きく動き始めます。

よければ感想などいただけると嬉しいです。

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