第10話「鋼鉄の影」
第10話です。
ついに戦車が現れます。人ではどうにもならない“力”に、アレクセイたちはどう立ち向かうのか。
地面が震えていた。
規則的に、重く。
ズシン、ズシン、と。
アレクセイは瓦礫の陰から顔を上げた。
煙の向こう。
それは、確かにいた。
戦車。
黒く、巨大な鉄の塊。
ゆっくりと、だが確実にこちらへ向かってくる。
「……あれを止めるのか?」
アレクセイの声はかすれていた。
ミハイルが短く答える。
「止めるしかねぇだろ」
だが、その目にはわずかな緊張があった。
歩兵とは違う。
銃では止まらない。
撃っても意味がない。
それでも――逃げ場はない。
「対戦車班は!?」
誰かが叫ぶ。
「やられた!さっきの砲撃で……!」
空気が凍る。
つまり――
ここにいるのは、歩兵だけだ。
戦車に対して、無力な。
戦車の砲塔がゆっくりと動く。
こちらを向く。
嫌な予感が、現実になる。
「伏せろ!!」
次の瞬間。
轟音。
世界が弾けた。
爆風が吹き荒れる。
瓦礫が宙を舞う。
アレクセイは地面に叩きつけられた。
息が詰まる。
呼吸ができない。
耳鳴りがひどい。
「くそ……!」
ミハイルが叫ぶ。
「このままじゃ全滅だ!」
戦車は止まらない。
ゆっくりと、確実に距離を詰めてくる。
まるで恐怖そのもののように。
アレクセイは歯を食いしばる。
考えろ。
何か、方法があるはずだ。
そのとき――
「アレクセイ!」
別の兵士が叫んだ。
「こっちだ!」
振り向くと、崩れた建物の影に何かがあった。
箱だ。
中を開ける。
瓶。
布が詰められている。
「……これ」
ミハイルが言う。
「火炎瓶だ」
即席の対戦車武器。
確実ではない。
だが、これしかない。
戦車はさらに近づいてくる。
もう時間はない。
ミハイルが瓶を一本手に取る。
「やるぞ」
アレクセイを見る。
「怖いか?」
一瞬の沈黙。
そして――
「……当たり前だ」
正直に答える。
ミハイルは小さく笑った。
「そうか。じゃあ正常だな」
布に火をつける。
炎が揺れる。
「俺が気を引く。お前は側面に回れ」
「無茶だ」
「無茶じゃなきゃ死ぬ」
短い会話。
だが、それで十分だった。
アレクセイはうなずく。
走る。
瓦礫の間を縫って。
戦車の死角へ。
心臓がうるさい。
息が荒い。
それでも止まれない。
ミハイルが叫びながら飛び出す。
「こっちだ!来いよ!」
戦車の銃口が動く。
ミハイルに向く。
その瞬間――
アレクセイは側面に出た。
近い。
あまりにも近い。
鉄の匂い。
熱。
震え。
これを壊すのか。
人間が。
迷っている時間はない。
布に火をつける。
炎が揺れる。
手が震える。
それでも――
投げた。
瓶は弧を描く。
戦車の側面に当たる。
割れる。
炎が広がる。
黒い煙。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
内部で何かが爆ぜた。
戦車が止まる。
動きが鈍る。
「やったか……!?」
誰かが叫ぶ。
だが――
まだ終わっていない。
ハッチが開く。
中から兵士が出てくる。
炎に包まれながら。
叫び声。
苦しむ声。
人だ。
中にいたのは、人間だった。
アレクセイの動きが止まる。
その隙を――
ミハイルが引き戻した。
「見るな!!」
強く腕を引く。
「まだ終わってねぇ!」
銃声が響く。
戦いは続いている。
だが、戦車はもう動かない。
アレクセイは荒い呼吸を繰り返した。
勝ったのか。
生き延びたのか。
分からない。
ただ一つ、確かなことがある。
自分はまた――
人を殺した。
風が吹く。
煙が流れる。
その向こうに、空が見えた。
何も変わらない空。
読んでいただきありがとうございます。
戦車という圧倒的な力の前でも、人は抗うしかありません。
その代償が何かを、これから描いていきます。
よければ感想などいただけると嬉しいです。




