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熱くて寒い奇跡  作者:
11/29

第10話「鋼鉄の影」

第10話です。

ついに戦車が現れます。人ではどうにもならない“力”に、アレクセイたちはどう立ち向かうのか。

地面が震えていた。


規則的に、重く。


ズシン、ズシン、と。


アレクセイは瓦礫の陰から顔を上げた。


煙の向こう。


それは、確かにいた。


戦車。


黒く、巨大な鉄の塊。


ゆっくりと、だが確実にこちらへ向かってくる。


「……あれを止めるのか?」


アレクセイの声はかすれていた。


ミハイルが短く答える。


「止めるしかねぇだろ」


だが、その目にはわずかな緊張があった。


歩兵とは違う。


銃では止まらない。


撃っても意味がない。


それでも――逃げ場はない。


「対戦車班は!?」


誰かが叫ぶ。


「やられた!さっきの砲撃で……!」


空気が凍る。


つまり――


ここにいるのは、歩兵だけだ。


戦車に対して、無力な。


戦車の砲塔がゆっくりと動く。


こちらを向く。


嫌な予感が、現実になる。


「伏せろ!!」


次の瞬間。


轟音。


世界が弾けた。


爆風が吹き荒れる。


瓦礫が宙を舞う。


アレクセイは地面に叩きつけられた。


息が詰まる。


呼吸ができない。


耳鳴りがひどい。


「くそ……!」


ミハイルが叫ぶ。


「このままじゃ全滅だ!」


戦車は止まらない。


ゆっくりと、確実に距離を詰めてくる。


まるで恐怖そのもののように。


アレクセイは歯を食いしばる。


考えろ。


何か、方法があるはずだ。


そのとき――


「アレクセイ!」


別の兵士が叫んだ。


「こっちだ!」


振り向くと、崩れた建物の影に何かがあった。


箱だ。


中を開ける。


瓶。


布が詰められている。


「……これ」


ミハイルが言う。


「火炎瓶だ」


即席の対戦車武器。


確実ではない。


だが、これしかない。


戦車はさらに近づいてくる。


もう時間はない。


ミハイルが瓶を一本手に取る。


「やるぞ」


アレクセイを見る。


「怖いか?」


一瞬の沈黙。


そして――


「……当たり前だ」


正直に答える。


ミハイルは小さく笑った。


「そうか。じゃあ正常だな」


布に火をつける。


炎が揺れる。


「俺が気を引く。お前は側面に回れ」


「無茶だ」


「無茶じゃなきゃ死ぬ」


短い会話。


だが、それで十分だった。


アレクセイはうなずく。


走る。


瓦礫の間を縫って。


戦車の死角へ。


心臓がうるさい。


息が荒い。


それでも止まれない。


ミハイルが叫びながら飛び出す。


「こっちだ!来いよ!」


戦車の銃口が動く。


ミハイルに向く。


その瞬間――


アレクセイは側面に出た。


近い。


あまりにも近い。


鉄の匂い。


熱。


震え。


これを壊すのか。


人間が。


迷っている時間はない。


布に火をつける。


炎が揺れる。


手が震える。


それでも――


投げた。


瓶は弧を描く。


戦車の側面に当たる。


割れる。


炎が広がる。


黒い煙。


一瞬の静寂。


次の瞬間――


内部で何かが爆ぜた。


戦車が止まる。


動きが鈍る。


「やったか……!?」


誰かが叫ぶ。


だが――


まだ終わっていない。


ハッチが開く。


中から兵士が出てくる。


炎に包まれながら。


叫び声。


苦しむ声。


人だ。


中にいたのは、人間だった。


アレクセイの動きが止まる。


その隙を――


ミハイルが引き戻した。


「見るな!!」


強く腕を引く。


「まだ終わってねぇ!」


銃声が響く。


戦いは続いている。


だが、戦車はもう動かない。


アレクセイは荒い呼吸を繰り返した。


勝ったのか。


生き延びたのか。


分からない。


ただ一つ、確かなことがある。


自分はまた――


人を殺した。


風が吹く。


煙が流れる。


その向こうに、空が見えた。


何も変わらない空。


読んでいただきありがとうございます。

戦車という圧倒的な力の前でも、人は抗うしかありません。

その代償が何かを、これから描いていきます。

よければ感想などいただけると嬉しいです。

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