第1話「静かな冬」
第二次世界大戦期のレニングラードを舞台にした歴史小説です。
史実を参考にしていますが、人物や一部の出来事はフィクションです。
雪が降っていた。
白い森の中で、アレクセイは息を殺して立っていた。
吐いた息が、ゆっくりと空に溶けていく。
父が小さく言った。
「焦るな。森は急ぐ者を嫌う」
アレクセイはうなずいた。
手には古い猟銃。冷たい金属が手袋越しに伝わる。
遠くで、雪を踏む音がした。
鹿だ。
父が指で示す。
撃て。
そう言っている。
アレクセイは銃を構えた。
照準の向こうに、鹿の影が見える。
心臓の音がうるさい。
引き金に指をかける。
一瞬、森が静まった。
——パン。
銃声が響いた。
鹿は数歩よろめき、雪の上に倒れた。
しばらくして父が歩み寄る。
「いい狩りだ」
アレクセイの肩を叩いた。
「お前は良い猟師になる」
アレクセイは少しだけ笑った。
その日の夕方、家ではスープが煮えていた。
鍋の前に立っていたのは、アーニャだった。
「おかえり」
木のスプーンで鍋をかき混ぜながら、彼女は言った。
「今日は鹿の肉だよ」
湯気が立ち上る。
ビーツの赤い色がスープに広がっている。
ボルシチだ。
アレクセイは椅子に座った。
「いい匂いだ」
アーニャは笑う。
「当たり前でしょ。私が作ったんだから」
父がパンをちぎりながら言った。
「猟師が撃ち、料理人が煮る。いい家だ」
外では雪が降り続いていた。
暖かいスープ。
暖かい部屋。
笑い声。
この時間が、永遠に続くと誰もが思っていた。
だが、その年の夏。
遠い西の空で、大きな戦争が始まる。
やがてそれは、この街にも届く。
静かなレニングラードに、
銃声が響く日が来るのだった。
読んでいただきありがとうございます。
小説を作るのは初めてなのでこれから
成長していきま。
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