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――ギルカント・アノマリー。


ブレイズ王国の騎士の一族の1人息子として生まれ、幼いころからその才覚を見せる。


22歳でブレイズ騎士大学を主席で卒業後、国王から騎士の地位を授かり、国内の怪物退治に尽力することとなる。


25歳までには王竜を1体、3体の飛竜、4体のグリフォン、17体のマンイーター、32体のワイドウルフ、35体のトロール、そして数え切れないほどのゴブリンといった数多の魔物をたった一人で討伐している。


その多大なる功績から国王直々に騎士を超えた「竜騎士」の地位を与えられ、アノマリー家の家宝である『雷竜の剣』と『風竜の盾』を受け継いだ。


かくしてギルカントは若くしてブレイズ王国の英雄として讃えられることとなった。


正に人生の勝ち組、失う物など何もない、この世の全てを手に入れたも同然だった。


しかし傍から見れば幸せな筈のギルカントの心は酷く曇っていた。



 ギルカントは自分の人生について悩んでいた。


彼の人生は、常に周囲に求められるがままだった。


騎士として強く正しくあれ、大学内で主席になれ、あの凶暴な魔物を討伐してこい。


そんな要求にギルカントは何一つ失敗も無く応えてきた。


そうすれば周りのみんなは喜ぶし、自身に賞賛の言葉を投げかけた。


最初の頃は無邪気に喜んでいたギルカントだったが、次第にそれが当たり前になり、自身が英雄であることが義務となっていった。


己を鍛えて騎士として強くなるのも、各地の魔物を討伐するのも、全てが周囲の声に応えるため。


そこにギルカント自身の意思はなかった。


彼からすれば、今日任務に失敗して死ぬことだって些末な問題だ。


その時はその時であり、自分が手に入れてきたものを失うことなんてどうでもよかった。


だが、ギルカントは途方もなく強かった。


彼が死の淵に立つ機会など、一度たりとも訪れなかった。


彼はただ毎日任務に赴き、それを遂行する。


それは最早作業であり、なんの感情も抱けるものではなかった。


ギルカントはあまりにも早く全てを手に入れてしまった。


その眩しすぎる光は、彼の心をカラカラに乾ききらせていた。



 今回の任務はヘルタランザという大蜘蛛の魔物の討伐。


ギルカントからすれば、戯れにもならない相手だ。


彼はそれが潜む洞窟へ足を踏み入れた。


「……ここか」


暗くジメジメとした場所だったが、ギルカントは何も感じない。


魔物の住処など、大抵気味の悪い場所だ。


彼はそこへ何千回とも訪れている。


今更嫌悪感など抱きはしなかった。


 しばらく進んだ後、開けた場所に出た。


その先には目的のヘルタランザが鎮座していた。


「ギッシャアアアアアア!」


それはギルカントを視界に収めるや否や、身の毛もよだつ唸り声を上げて襲い掛かってきた。


(……少しは楽しませてくれよ?)


ギルカントはヘルタランザの一撃を風竜の盾で受け止め、紙くずを掃うかの如く弾き返す。


そのまま体勢を崩したヘルタランザの懐に潜り込み、雷竜の剣で前足を一本斬り落とした。


「ギシュアアアア⁉」


ヘルタランザは悲鳴を上げて暴れ始めるが、ギルカントは淡々とその乱雑な攻撃を捌く。


「所詮、この程度か」


ギルカントは大きく飛び上がり、大蜘蛛の脳天目掛けて勢いよく剣を突き立てた。


「ギシュア……」


ヘルタランザは数回藻掻いた後に動かなくなり、黒く変色して塵となっていった。


その間、わずか1分にも満たない出来事だった。


「……任務完了」


そう呟くと、ギルカントは元来た道に目を向ける。


今回の任務もこれで完了。


このまま帰還し、耳にタコが出来る程聞いた賞賛の言葉を耳に入れる。


まったくいつもの流れである。


そう彼も思っていた。


そうこの時までは……


 

 突如ギルカントの目の前に巨大な糸の塊がボトンと落ちてきた。


「……?」


それは人型でピクピクと蠢いており、中から声がした。


「んっ~~!んっ!ん〜〜〜」


おそらくヘルタランザの餌食となった不運な者であろう。


だが不思議なことだ。


ヘルタランザは仕留めた獲物を巣に保管しておく習性がある。


故に糸でぐるぐる巻きにされたそれが生きていることはあり得なことなのだ。


ギルカントはこの奇妙な糸塊を前にしばらくの間立ち尽くしていた。


(……このまま放っておくわけにもいかないか……)


ギルカントは意を決してナイフを取り出すと、糸を一本一本慎重に切っていく。


そうして出来た切れ目を勢いよく開くと、糸玉の中から一人の女が現れた。


それは体はふかふかの毛に包まれ、尻からこれまたふかふかの尻尾を生やした狐の女獣人だった。


服の類は一切身に着けておらず、それが彼女の豊満でエロスな肉体を引き立てていた。


「ふぅ~中々気持ち良かったわね♡」


「……⁉」


ギルカントは仰天した。


この女はついさっきまで魔物の保存食として捕らえられていたというのに、今はまるで朝気持ちよく目覚めたかのように呑気に伸びをしていたのだ。


「……あら?いやん♡私すっぽんぽんになっちゃってるわ♡」


女獣人は自身が生まれたて同然の姿をしていることに気が付き、乳輪を手で、秘部を尻尾で隠して頬を赤らめる。


しかしその表情は明らかに恍惚としていた。


一方のギルカントは彼女が魔物の類だと勘繰り、剣に手を添える。


「……ん?あら?貴方が私を助けてくれた方かしら?」


「……あぁ」


「あら、そうだったのね。うふふ、ありがとう♡見ず知らずの騎士さん♡私はヴィクセン・フィメール、

よろしくね♡」


「あぁ……」


ギルカントは彼女から悪意のようなものは感じ取れず、ひとまず剣から手を離す。


「あら?どうしたの?そんなにジロジロ私を見て?うふふ、もしかして私のビューティーな体に見惚れちゃったのかしら?」


「……」


ヴィクセンは乳房をわざとらしく手で撫で、いやらしく舌なめずりをした。


だがギルカントはそれを綺麗に無視し、スッと自身の着けていたマントを取ると彼女に差し出した。


「これを体に巻いておけ。そんな格好では外は歩けないし風邪を引く」


「あら?優しいのね。うふふ、そういう男の子は大好きよ♡」


「そいつはどうも」


素っ気ない返しをして、ギルカントは洞窟を去っていく。


ヴィクセンはその後ろを尻尾を振って追いかけていった。

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