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隣の小田くんは幽霊

作者: 浪崎ユウ
掲載日:2026/01/31

初ホラー。

カクヨムさんに載せたものと同じ作品です。



 ピピピピンポーン。



 インターホンが鳴った。

 もちろん昔ながらのピンポンダッシュなどではない。

 夕暮れ、モニター越しに見えるのは、明るい色の髪とくせ毛が特徴的な男の子。



「こんにちはーっ。哀さん、今日は何します??」



 1DKの一部屋に住む私の隣の部屋には、高校生がひとり暮らしをしている。

 快活に挨拶をするその子は、小田くん。



 実はこのアパート、

 不思議と()()()()()()()()()()()()のだけど。



 社会人の私とは10歳ほど歳が離れているが、ゲームをしたり、雑談をしたり。最近は何かと仲良くしている子だ。


 彼が言うには、「自分は不登校だから、する事がなくて暇」とのこと。

 何気なく理由を聞いてみたが、曖昧に答えられてしまった。深掘りしないほうが良いのだろう。



 私も、嫌だったから。



「いらっしゃい、小田くん。もう昼ご飯は食べたかな?? カレーを作った残りがあるんだけど、食べる??」


「もちろん食べますっ!! もうお腹ぺこぺこで……」



 いそいそと靴を脱いで駆け足でダイニングに上がっていく彼の背中を「急がなくてもカレーは逃げないよ」と軽く笑いながら眺める。



 普通は気づくはずもない。

 まさか彼が、()()()()()()()()だなんて。


 私が彼を“そうだ“と気づいてしまった理由は、小田くんに会うよりずっと前。私の幼い頃の話だ。





 私の部屋には、いつも誰かがいた。

 家族ではない誰かが。

 ひとりっ子の私の話し相手になってくれる事もあれば、私の部屋の本棚を勝手に漁り、そのまま去っていく人もいた。


 いつの間にか消えていくのに、また別の日には何事もなかったかのように現れる。



 そんな彼らと話すことが大好きだった。



 私の孤独を埋めてくれて。

 絶望の淵にいた時には説得し、慰めてくれて。


 物心ついた頃から彼らが見えていたが、数年経って、他の人間には見えないという事を知った。

 とても悲しさを感じたのを覚えている。





 だって、他の人は彼らの優しさに触れる事すらできないのだから。






 私が小田くんの事に気づいたのは、彼の独特な雰囲気からだ。


 小田くんは、色々な話をしてくれる。それでも、時折、どこを見つめているのか、ぼーっと空を見ている時がある。

 その視線の先にはいつも、何もなかった。



 彼自身は自分を疑っていない。

 私とも、普通の高校生のように接している。


 しかし、自分の事を話す時の彼は、いつも未来形だった。




 小田くんが気がつくまで、私は何も言わない。




「辛かっら!! でもめちゃ美味しいです!!」

「でしょ? 自信あったんだよ、今日のカレー」



 勢いよくカレーを頬張り、口に跡をつけている小田くん。

 私はそれを見て、微笑んだ。

 食べ終わると、彼は律儀に「ごちそうさまでした」と手を合わせる。




「じゃあ、何をして遊ぼうか??」




 私がそう問いかけると、彼はいつもの場所へ向かっていく。それは、このアパートの屋上。

 八階建てのアパートで、この辺りの住宅街では周囲よりも少し高いため景色がよく見える。


 私はなぜか、ここだけは好きになれない。

 フェンスに近づいた瞬間、胸の奥がひくりと騒ついた。ひどい()()。その理由は思いつかなかった。




 けれど小田くんと話せるなら、ここがいい。




「あ、雨降ってますかね??」




 小田くんの言う通り、たしかに小雨が降っているようで、色付いた落ち葉も沢山舞っていた。


 あの時と、同じだ。




 重い雨。

 氷のように冷たいフェンス。

 ()()()()吹き上げる強風。





 単なる悪夢だったのだろうか。

 小田くんは私の隣でフェンスに手を置いた。

 


「やっぱり、綺麗ですね」



 雨の中、2人で広い夜景を見下ろす。

 静かな雨も冷たい風もなぜか感じられない。


 こんなに美しい景色なのに、私の内側から響くはずの高鳴りは()()()()()()()




 今は────、

 足元を見る事ができなかった。



 そこに何があるのか、覚えている気がして。



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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 怖いはずのお話なのに、不思議と小田くんの存在に引き込まれてしまい、気がつけば夢中で読み進めていました。 この後に何があったのだろうと、いろいろ想像が膨らむ、とても印象的な作…
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