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第13話 真の勝者

「ここは男らしく、ステゴロと洒落込むか」

 ガングリュックが拳を固く握りしめた。


「ああ、いいぜ。お前みたいなクズに聖剣を使うなんて勿体ない」


「取りに帰ってる間に、僕とアイナちゃんがいい仲になるのを恐れてるんだろ?」


「ち、違うよ!!」

 図星だった。


「お、お前こそ、その姿のままでいいのか?」


「“僕”からのハンデさ」


「どうせ魔族ってバレるのが怖いんだろ?」


(そ、それだけはご勘弁を!!)

 慌ててヘルツに近寄り、小声で懇願するガングリュック。


「ふん! まあいい。俺はそんなセコい真似しないよ。偽りだらけのお前と違ってな!」


「くっ!」

 またも図星で、反論すらできないガングリュック。


「今は急なことでビックリしてるから話を聞いてくれないけど……俺は自分のありのままを、この努力で生まれ変わった俺を、アイナちゃんに見てもらう! そうすれば必ず受け入れてもらえると信じている!」


「お前……」

 いろいろ突っ込みたかったが、あまりのキモさにガングリュックは言葉を飲み込んだ。


 そうこうして店を出た二人は、店先の路上で対峙した。次の瞬間——。


「『潰す』」


 ゴゴゴゴゴゴ!!


 二人が闘気を全開にすると、その衝撃でエンデの街は大地震のように大きく揺れた。地面や壁にヒビが走り、ガラスは割れ、鳥は飛び立ち、動物たちが大騒ぎを始める。


 勇者と魔王の戦いだというのに、なぜか二人の闘気はどちらも漆黒。そしてその闘気が激しくぶつかり合い、今まさに激突しようとした瞬間——。


「あのぉ〜、ちょっといいですか? お客さん。ケンカするのは勝手ですけど、店先でのケンカはマジ迷惑なんで、やめてもらえませんかぁ!?」

 ネイルを弄りながら気怠そうにアイナが注意すると、二人は一瞬で闘気をゼロにして——。


「『はい!! ごめんね、アイナちゃん!!』」

 満面の笑みでハモった返事をすると、二人とも猛ダッシュで街外れへと走り去った。


「フッ……ここまで来れば、大丈夫だろう」

 ガングリュックは街の外れ、広々とした空き地で立ち止まった。


「そうだな。心置きなくお前を叩き潰せる」


「つまり、こういうことだな……勝った方が“アイナちゃんと付き合える”」

 ここまで歩いてくる間、二人は一切会話をしなかった。しかし二人の頭の中では、イマジナリーが歪な化学変化とシンクロニシティを起こしていた。


「……だな」

 ヘルツが静かに呟く。一瞬の静寂。風が目の前を吹き抜ける。


「『いくぞっ!!』」

 風が抜けたと同時に、二人は闘気を一気に解放し、互いに駆け出して全力の拳を振り抜いた。


ドガン!!


 拳と拳がぶつかり合い、その衝撃で地面は抉れ、周囲の木々はなぎ倒され粉砕する。だが二人は、拳を突き合わせたまま微動だにしない。


「ニートのくせに、やるじゃないか?」


「お前こそな……さすが我が宿敵……いや“とも”と言うべきだったな。だが、これはどうかな!?」

 ガングリュックは全身からさらに大きな闘気を噴き上げ、拳から一気に放出する。


「ぐぬ!! なんのこれしき!!」

 ヘルツも、突き合わせている反対の拳から大量のエネルギーを放ち、ガングリュックの顔面めがけて叩き込んだ。


「『ぐわっ!!』」

 意地っ張りな二人は一切避けない。それぞれの攻撃がクリーンヒットする。

 すでに二人の足元は巨大なクレーターだ。


「はぁ、はぁ……やるじゃないか、クソニート」


「お前こそ、いいもん持ってんじゃねぇか……モンスター童貞」


 ダメージは甚大、立っているのもやっとだが、減らず口だけは止まらない。


「……」


 一瞬の静寂——それは最後の、渾身の一撃への合図だった。


「『うおおおおお!!』」


 二人は持てる力のすべてを拳に込め、正面からぶつかり合う。


ドッカーーン!!!


 放出された膨大な力が、拳と拳の間で極限まで圧縮され、大爆発となった。

 衝撃波で、二人ははるか対角線方向へ吹き飛ばされる。


「ぐはっ! 痛たた……さすが元魔王だ。これはかなり効いた」

 森側へ吹き飛ばされたヘルツは、ふらつきながら街側へ吹き飛んだガングリュックの方へ向かう。


「それにしても、どこまで吹っ飛んだんだ。ひょっとして伸びてるのかなぁ」

 抉れた地面の跡を辿りながら、なかなか現れないガングリュックに勝利を予感する。


「お! いたいた……」

 街の中心部あたりでガングリュックを発見。

 跪いたまま天を見上げ、ピクリとも動かない。


「ん!? あれは完全に伸びてるぞ!」

 ヘルツの勝利の予感は確信に変わった。


「よし! これでアイナちゃんは俺のものだ!!」

 喜び勇んで駆け寄ると——異変に気づく。


「ん? どうしたんだ、魔王? なんで泣いてるんだ??」

 ガングリュックは小刻みに震え、大量の涙を流しながら失神していた。先ほどのダメージだけでは、こうはならない。


「あ……ああ……」

 声をかけても、口をパクパクさせ嗚咽が漏れるばかり。


「こ、これは一体……!?」

 背後に人の気配——。


「あのぉ、お客さん……」

 永遠に聞いていたくなるほど甘い響き。


「アイナちゃん!!」

 想い人の声に、興奮で全身全霊の振り向きをしてしまい、軽い衝撃波が発生する。


「うわっ!」

 アイナが一瞬よろめく。


「ごめん! 大丈夫!?」

 駆け寄ろうとするヘルツを——


「大丈夫」

 アイナは手のひら一枚で制止した。


「なんか二人で勝手に盛り上がってるところ悪いんですけどぉ……」


「ううん! アイナちゃんが悪かったことなんて一度もないよ!! 今だって俺のせいで怖い思いをさせちゃったね。ごめん!」

 音速を超える全力の首振りで、周囲に旋風が巻き起こる。


「はぁ……ぶっちゃけ、二人とも“生理的に無理”なんで、勘弁してもらえませんか?」


「へっ!?」


「つーか、勝手に私を賭けて争って、街壊すとか——マジ最低のゴミカス迷惑のクソ豚野郎なんで、今すぐこの街から消えてもらっていいですか!?」

 アイナは鬼の形相でヘルツの足元にツバを吐き、振り返りもせず店の中へ消えていった。


「あ……ああ……」

 ヘルツは膝から崩れ落ち、ガングリュックと全く同じポーズで失神。


 ——こうして、魔王と勇者の最終決戦は、キャバ嬢・アイナの完全勝利で幕を下ろした。


「アイナちゃん、この二人どうする?」

 店先で、店員が気を失った勇者と魔王を見下ろしながら尋ねた。


「はぁ? 店の前に転がってるだけでキモすぎて運気下がるから、どっか見えないとこに捨てといてくれない?」


「ああ、分かった」


 そう言って、店員は二人の両足をそれぞれつかむと、ズルズルと引きずっていった。

 キャバクラ「ハッピースマイルパラダイス」の前には、再び平穏な笑顔が戻っていた。


……


 秋風が吹きすさぶ夕暮れ。

 冷たい木枯らしが頬を撫でた時、ヘルツは意識を取り戻した。


「ここは……!? 街外れの……ゴミ捨て場!?」

 あまりの衝撃で、戦いの記憶は曖昧になっている。


「起きたか……」


 声の方を振り向くと、ガングリュックが体育座りのまま、夕日をじっと眺めていた。


「魔王……これは一体?」


「全て、終わったんだよ。俺たちは負けたんだ」


「……そうか」


 沈みゆく太陽。

 街の彼方で、アイナが笑っている気がした。

 ヘルツは黙ってその光を見つめ、隣に座るガングリュックを見た時、全てを理解した。


「……なんか、いろいろごめんな」


 ガングリュックは振り向き、深々と頭を下げた。

 その顔は、もはや魔族のそれではなく、どこか晴れやかな人間のようだった。


「いや……もういいよ。全部、終わったことじゃないか」


 ヘルツの表情も、戦士というよりは悟りを開いた僧侶のように穏やかだった。

 ここ一ヶ月、彼の周りに漂っていた“闇のオーラ”はもうない。


「そうだな。もう懲り懲りだよ」


 チャリン。


 ポケットの中で、硬貨がぶつかり合い、軽い音を立てた。


「……ん?」


 ヘルツは取り出した金貨を見つめる。

 それは、あの夜――バイトリーダー昇進祝いでもらったご祝儀袋に入っていた数枚の金貨だった。


「……なあ、魔王。少し冷えたし、飲みにでも行かないか? 奢るよ」


「ありがとう」


 ガングリュックはゆっくりと立ち上がり、大きく深呼吸した。

 夕暮れの空気は澄みきっていて、どこか懐かしい。


「なあ、勇者?」


「ん? もう勇者じゃないよ……ただのヘルツだ」


「そうか……ヘルツ。俺も明日から働くよ」


 その言葉に、ヘルツは少し笑って頷いた。


 ――こうして、世界は再び静かに、平和へと暮れていった。



エピローグ


 夜の路地裏。

 二人は道端の屋台で、ぬるい酒を酌み交わしていた。


「ところで“友”よ、質問があるんだけど……」


「なんだ?」


「お前、今人間の姿に変身してんじゃん。アレって魔法?」


「ああ、そうだよ」


「俺にも掛けられる?」


「……その手があったか!!」


 二人の視線が合い、次の瞬間、思わず吹き出した。

 秋の風に、笑い声がいつまでも響いていた。


——END——


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