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女の子の複雑な事情

 アキとの協議の結果、口に押し込められていた猿ぐつわとM字開脚はなくなったが、手足の拘束はそのままになった。


 なんかまだ、お子様には見せちゃいけないような縛りがある気がしてならないが、逃げられては元も子もないから、妥協点として認めざるを得ない。


 拘束したシーフさんは、やはり以前ペアを組んだことがあるプレーヤーで、今朝話しかけてきた娘だ。

 ネクスワールドでは髪色や多少のエフェクトで容姿が変更できるが、根本は変えられないから、間違いない。


 身長は150センチあるかないか。痩せ型で幼い顔つきだがやたら整っていて、美少女といっても差し支えないだろう。

 青髪に左右で色が異なるオッドアイだが、これを黒髪に黒い瞳にすれば・・。


 服装はゲーム内でよく見かけるシーフスタイル。編み上げのロングブーツにショートパンツ。丈の短い革のサバイバル・ジャケットの下は、チューブトップって言うのだろうか? 腹巻きみたいな布で胸回りを覆っていた。意外と大きな膨らみにはちょっと驚いたが。



 ネクスワールドの人気女性プレーヤーは、総じて露出度が高い。

 以前組んでいた女性剣士もビキニアーマーの上に派手なプロテクター姿だったから、気になって聞いたら。


「防御はプロテクター系のアイテムで決まっちゃうから、その下はなんでも良いのよ。やっぱ肌色多い方がフォロワー数稼げるし、せっかくゲームなんだからかわいいカッコしたいしね」

 自称サバサバ系の女剣士さんは、アッケラカランとそう答えてくれた。


 女剣士さんに言わせれば、後方支援系のジョブの方があざとく感じるらしく。

「身体のラインを強調したピチピチの僧侶服に必要以上のスリットとか、ローブの下がやたら胸元の開いたシャツと短すぎるヒラヒラのプリーツスカートの魔法使いとか。良くやるねって、思うけど」

 と、ぼやいてた。


 女の子の価値観って、良くわからない。きっと複雑な事情があるのだろう。



 そんな事を思い出しながら、シーフさんに笑いかける。

「久しぶりだね。まあ、ちょっと前にリアルで会ったばかりだけど」

 俺の言葉にパクパクとなにか返事をしようと口を開いたが、しばらくすると申し訳なさそうに無言で下を向く。


 選手交代とばかりにアキが話しかける。

「ごめんね、ホントはこんなことしたくないけど、突然襲われたわけだし。狙いはあたしだったんでしょ。正直に話してくれたらちゃんと自由にしてあげるから」

 するとシーフさんは、「べーっ」と舌を出した。


「会うの初めてだけど、『B級シーフのミゾレ』ちゃんだっけ? あなた熱烈な固定ファン多いし、腕も良いそうだけど・・ヒューイのストーカーとしても有名よね。ひょっとしてあたしたちの仲を焼いてるの?」


 ミゾレと呼んだ少女の態度に腹が立ったのか、アキが挑発するように俺の腕を取って微笑む。そうそう確かこの娘、ミゾレってプレーヤー名だったな。


「くたばれ糞ビッチ」

 ミゾレがアキを睨み上げる。元気そうでなによりだ。


「もうこいつほっといて、ダンジョン行こっか?」

 アキがため息をつきながら俺を見た。


 こいつら仲悪いな。


「さすがにそれは・・」

 俺が困惑すると。

「この荒縄で拘束すると、能力は一切使えなくなるんだって。A級まで拘束可能って書いてあったし。そんな状態でモンスターや盗賊に狙われたら不味いかもね」

 楽しそうにアキが微笑みながら、ミゾレの顔を覗き込んだ。


「でも安心して。このゲーム全年齢対象だから、配信OFFでもそんなにエロいことできないそうよ。せいぜい一般青年誌の漫画レベルだとか」


 それって、安心要素があまり見当たりませんが?

 ミゾレも何かに気付いたように、顔を青くする。


「ととと、取引に応じよう」

 震えながらミゾレが話し始めた。


「言語ではあなたたちに概念を上手く説明できないから、理解出来ないかもしれないが・・」


 小声で早口で、どこか一方的なしゃべりは、なんだか懐かしい。

 彼女とは、最後までコミュニケーションが上手く行かなかったっけ。まあ、今まで組んだ女性全員そうだったが。


「まず私は、普通の人間じゃない」

 そうだね。いろいろこじらせてそうだし。


「地球上を統括する、情報統合コンピュータによって創られた人類コンタクト用有機ヒューマノイド・インターフェース、それが私」

 どっかで聞いたことがある語りだが、著作権的に大丈夫なのだろうか?


「通俗的な用語を使用すると、アンドロイドに該当する存在」

 最後にそういって、縛られながらも胸を張る。

 ちょっとドヤ顔なのが、なんかカワイイ。


「あたしこの手のオタク苦手なのよ。やっぱり捨ててかない?」

 こらこらアキさん、せめて相手に聞こえない声で話しなさい。


「その有機ヒューマノイド・インターフェースさんが、俺たちに何の用なのかな?」

 アキを制止しながら、話しをうながす。


「あなたはここの運営、自立進化型AIに目をつけられている。我々情報統合コンピュータ側は、ここの自立進化型AIを好ましく思っていないが、逸脱しない限り見守るつもりでいた。しかし最近、あなたを中心にいくつかの違反行為の予兆があった」


 長くしゃべったせいだろう、ミゾレは「こほこほ」咳をする。

 わかるよ、普段しゃべらない人間が長文しゃべると咳き込むんだ。


「なぜあなたに目をつけたのか、なにを行うつもりなのか。その調査が、私がここにいる理由」

 そしてまた、意外と大きな胸を張ってドヤ顔になる。

 やっぱりちょっとカワイイ。だが方向性としては、お遊戯している園児を愛でる感じだな。あまり近づいたらいけないヤツだ。


「なんかわかった?」

 念の為、アキに伺ってみる。


「良くわかった。やっぱりただの毒電波ストーカーだよ」

 すると対抗するように大きすぎる胸を張って、ドヤ顔を決めてきた。


 没コミュニケーションだな。


「それに、ちょっと盛りすぎじゃない?」

 アキが邪悪な表情で、顔の横まであげた両手をワキワキする。


 まあ言い訳にしては話しが大げさすぎるが、面白かったし、こんな状態なんだから責めるのも酷だと思う。

 部分的に信じても良さそうな箇所もあったし。


「うりゃっ!」

 俺がどうしたら良いか悩んでいると、アキが突然ミゾレの意外と大きな胸をわしづかみにする。


 すると、

「やめてお願い‼」

 ミゾレが突然大声を出した。


 慌てて俺が視線を外すと、

「黙っててあげるから、あたしの言うことを聞きなさい」

 勝ち誇ったアキの声が聞こえてきた。


 俺、ここにいていいのかな?

 広がる青空を眺めながら現実逃避していたら、バタバタと騒ぐ音に混じり、小声でアキとミゾレがなにか話し合いはじめた。


 しばらくすると・・。


「もうこっち向いても大丈夫」

 アキの声が聞こえてきたので、怖々と振り返る。


 拘束していた荒縄は全て解かれ、しゃがんだまま半泣きのミゾレと、勝ち誇ったようにふんぞり返るアキがいた。


「ダンジョンでシーフって便利なんでしょ。ちょっと心配だけど、この娘と一緒に潜らない?」


 俺としては願ってもない話しだが、

「どういった心境の変化なんだ?」

 突然だから驚く。


「利害の一致ってヤツかな? それに女の子にはいろいろと複雑な事情があるのよ」

「まあ・・構わないけど」

 仲良くなってくれたのならなによりだ。


 ミゾレにも話しを聞こうと視線を移すと、チューブトップに押し込められた、意外と大きな膨らみの片方が、不自然な方向にズレていた。




 俺はミゾレに気取られないように、もう一度青く澄んだ空を見上げる。

 なるほど・・女の子の事情って、複雑なんだな。

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こちらが僕の代表作になります!

異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
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