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ブワッとやってガツンとしてからグッ

 おしゃれカフェを出ると、俺たちは近くのネットカフェに移動した。カフェからカフェだ。能率が悪い気がしてならない。


「ネクスワールドに入るなら、お互い自宅に帰れば」

 という俺の意見は、

「ログアウト後もミーティングしたいから」

 と、却下された。


 ミーティングもネットでやれば良い気がしたが、妙な圧をかけられ、言い出せなかった。

 人間関係、妥協も必要なのだそうだ。どこかのサイトに書いてあったから、きっと間違いない。



 隣のビルの、書店の2階のネットカフェに入る。

 VRギア付きのペアルームを予約し、案内された部屋に入る。

 なんだか狭いラブホみたいで妙に緊張しが、アキがテキパキと行動してくれたからなんとかなった。

 まあラブホなんてネットでの知識しかないから、想像なんだが。


 部屋の中央にはやたら大きなソファーベッドがあり、それ以外には小さなサイドテーブルしかない。ソファの上に用意してあった、二人分のVRギアの片方を装着していると。


「へっ、変なことしないでよ」

 少し顔を赤らめたアキが俺を睨む。


「変なことって?」

「変なことは変なことよ」


 徐々に顔が赤くなっていくから、もっと詳細をお伺いしたかったが、時間がもったいないからやめておく。


「わかってる? 手を握ってきたり、触ってきたりしないでよ!」

「わかってるって。それよりログイン先の座標を合わせよう。最後にログアウトした場所でいいい?」


「そうね・・。それから、変なことしないでよ、隣で寝るけど、手を握ってきたり、触ったりとか、おおお、押し倒そうとしたりとか。わかった! つきあい始めたとは言え、節度というか、順序は大切なの‼」


 赤く上気した表情で見上げられても、色気しか感じないんですが。モジモジと両腕を胸元で寄せているせいで、その大きすぎる二つの膨らみが凄いことになっているし。

 何度も言うから、やってほしいの「お約束ネタ」にしか聞こえない。


 つきあううんぬんも・・実際どうでも良い。契約的なアレなら、罰ゲームみたいなものだろう。相手に好意があるとは思えないし。


「わかってる、わかってる」


 俺があきれながらVRギアをセットしていると、小声で「んっ」とか「ふえっ?」とか、妙な吐息まで聞こえてくる。

 すぐ横で寄り添うように寝転がってきたせいか、衣擦れの音や、シャンプーや女性特有の甘い香りが鼻を突いて居たたまれない。


 ホント、大丈夫なんだろうかこの娘。

 お父さん将来が心配でならないよ。



 ☆  ☆  ☆



 ログインと同時に、

「ねえあんたホントにゲイじゃないの?」

 と、喧嘩を売ってきたが、面倒くさいのでサクッと無視した。

 女心って、ホントにわかんない。


「この森の近くに初心者向けの草原があるから、そっちに移動しよう」

「とっととダンジョンに潜った方が良くない?」


 頬を膨らませながら主張してきたが、まだバトルゾーンになれていないアキにダンジョンは危険すぎる。

 まずは特性を理解したかったし、連係プレイの訓練も必要だ。


 なんとかなだめすかして草原まで移動したが・・。



「つけられてるね」

 相手は俺のサーチ能力でもギリギリ感知できる程度の、高度なステルス機能を使っている。

 隠密が得意なモンスターか、最悪盗賊を生業とするハイ・プレーヤーだ。


 ネクスワールドでは、プレーヤー同士のキルプレイは禁止されているが、命さえ奪わなければ強盗行為は認められているし、正式にデュエルを申請すれば決闘も認められている。

 負ければいくつかのアイテムやポイントが奪われ、意識を失い強制ログアウトさせられる仕様だ。


 もちろん強盗行為はゲーム内で前科が付くが、盗賊ギルドも存在し、前科や懸けられた賞金をステイタスのように自慢するプレーヤーも存在していた。



「うそっ!」

 アキはまったく気付けていないようで、明後日の方向をキョロキョロ見回す。


 対象は1体。レベルはBの上位だが、戦闘能力自体はあまり高そうじゃない。

 ダンジョンや深い森の中なら避けたい相手だが、ここは開けた場所だし、俺ひとりでも油断さえしなければ討ち取れるレベルだ。


 ぶっつけ本番だが、アキとの訓練には丁度良いだろう。


「能力リンクをオープンにして」

「どうやるの?」


 そっからか・・。


「ステイタスウインドウを開いて、俺の申請を承諾して」

「『拒否』と『一部』と『全権』って出たけど、どれ?」


 一部を選択してバトルモードをオンにすれば良いけど、間違って違うモードを選択されても困る。


「全権で」

 後からいろいろ問題が起きそうだが、死ぬよりはマシだ。


「視覚情報を共有させたから、二時の方向を確認して」

 これで俺が見えているモノが、アキも確認できる。


「もやっとしたヤツが、ふあふあふあーって近づいてきてるね」

 なんだそのフンワリしすぎた表現。


「ああ、あれをおびき出してブワッとやってガツンとしてからグッと仕留める」

 詳しい説明は不可能だと判断して、適当にあわせたら。


「良くわかったよ、了解!」

 とても素晴らしい返事が返ってきた。

 不安しかないが、もう敵は襲撃体制に入っている。しかたがないから、俺ひとりでやるか。


 念の為、アキの周辺に防御フィールドを張る。


 アキのジョブは「魔法剣士」になっているが、適性を見る限り支援系のジョブが向いていそうだ。

 例の聖女様候補もそうだったが、歌や踊りに才能があるタイプは、総じて回復魔法や精神操作系の魔法が得意だ。


 後で提案してみるか・・。


 そんな事を考えていたら、対象が一気に距離を詰めてきた。

 フィールド上の不利を帳消しにするため、奇襲を行いスピードでかく乱するつもりだろう。

 俺が背の剣に手を伸ばすと同時に、対象が左右にステップしながら分身する。

 しかもそれぞれの動きが別々で、スピードもあり、トリッキーだ。


 思った以上のハイレベルプレイに息を飲んでいると。


「ブワッ!」

 突然アキが大声で叫びながら、両手を上げる。

 それに連動して初級風魔法が周囲を覆う・・ホントにこれ、初期魔法か?


「えっ・・わあああ!」

 可愛らしい悲鳴を上げて、分身した攻撃者が全部宙に舞った。


 初級魔法だが、アキのレベルが全力でぶっ放すと凄いことになるんだなあと、あっけにとられてしまう。

 でももう、これでアキは魔力枯渇寸前だ。


 舞い上がった攻撃者はスキルが解除されたのだろう、ひとりに戻って、空中で手足をバタバタさせている。

 よく見ると、それは見覚えのあるシーフの少女だった。


「なにやってんだあいつ・・」


 落ちる前に受け止めようか悩んでいると、アキが落下ポイントに向かってブンブン腕を振り回しながら走る。


「おい待て!」

 俺の制止を振り切って、「ガツーン」と叫びながら、アキは落下したシーフさんに見事なハラパンを炸裂させた。


 今時殴りヒロインですか? 魔力切れとは言え、それはちょっと。

 配信をOFFにしていてつくづく良かったと、胸をなで下ろす。


「今よ、『グッ』と絞めちゃって」

 気を失ったシーフさんの胸ぐらをつかみながら、さわやかな笑顔で振り返るアキ。


 それ以上やったら、死んじゃうんじゃないかな?

 確かに「ブワッとやってガツンとしてからグッと仕留める」とは言ったけど、絞め殺せとは言ってない。


 俺は苦笑いしながら、見覚えのありすぎるシーフさんに回復ポーションを飲ませた。


「どうすんのよ、襲ってきた敵を助けて! かわいい女の子だから?」

「あー、それより。事情を聞いた方が良いかなって。たぶんこの子が、俺に発信器を仕掛けた犯人だし」


 アキは納得したように頷くと、自分のアイテムボックスから荒縄を取り出した。


「どうすんの?」

「逃げないように、拘束しなくちゃね」


 そして手慣れた感じで、「ふふふっ」と微笑みながら、シーフさんの手足を縛ってゆく。


 大した連携の訓練にはならなかったけど、いくつかわかったことがある。

 まず、アキは剣士にも魔法職にもむいていない。


 戦闘の動きがデタラメだし、いきなり魔力の全ブッパでは、先が思いやられる。はやり後方支援系だろうか。

 でもパンチ力はあるから、殴りプリーストとかどうだろう?

 ネクスワールドでは聞いたことないジョブだけど、ネットではそれ系が話題になったこともあるし。


 俺が悩んでいたら。

「ふう、こんな感じかな?」

 アキが一仕事終えたとばかりに、額を拭った。


 見ると、なんだか大人なビデオの、特殊性癖ジャンルのパッケージのような仕上がりで、シーフさんが拘束されていた。M字開脚とか、必要なのだろうか? ショートパンツの衣装とは言え、目のやり場に困る。

 涙目で見上げる、庇護欲をそそる美少女の恥辱にまみれた表情は、見ちゃいけない感満点だし。


 そういえばアキは女王様属性だったな。ジョブは「殴り女王様」が良いかもしれない。そんなジョブがネクスワールドに存在すればだが。




 俺は途方に暮れつつ、アキの制止を無視しながら、とりあえずシーフさんの荒縄を解きはじめた。

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こちらが僕の代表作になります!

異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
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