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これってツンデレってやつか?

 アキの話を要約すると、


1,きっかけはカルチャーゾーンの大きなイベントで、行方不明者が出たこと

2,ネットの『例の噂』と関連があるんじゃないかと探りはじめると、脅迫まがいのメールなどが届きはじめた

3,無視していたら、身に覚えのない噂が元で炎上

4,探り宛てた情報を元にバトルゾーンに移ると大手クランから無視され、リアルの脅迫もエスカレートしていった


 と、なる。



 確認のために、いくつか俺から質問をする。

「例の噂って?」

「バトルゾーンでもあるでしょ、兵器開発がどうこうってヤツ。あれのカルチャー版の噂で、実は運営は特定の能力者を探していて、見つかると神隠しみたいにその人が消えちゃうってやつ」


 そんな陰謀論をどこかで読んだ気もするが、あまりにもバカバカしくって、すっかり忘れていた。


「手を引くことはできないの?」

「今更だし・・。引けない理由もある」


 決意のこもった眼差しに、これ以上踏み込んじゃいけない気がして、俺はこの質問を切り上げた。


「それで、具体的に俺に頼みたい事って?」

「あたしの捜し物と、あなたの捜し物が同じなような気がして・・もし一緒なら、協力してほしいの」


「俺の捜し物?」

 俺が聞き返すとアキは周囲を見回し、もう一度盗聴発見器を確認し、ゆっくりと顔を近づけてきた。


 ちょっとドキドキしながら耳を澄ますと。恥ずかしそうに小声で。

「金玉」

 と、おっしゃった。


 聞き違いだろうか?

「ごめん、よく聞こえなかった」


「だから、金色の球? みたいな」

 今度は少し大きな声でおっしゃったせいか、真っ赤な顔が愛らしい。

 まあ最初から聞き取れていたから、聞き返す必要も無かったんだけど。


 からかわれているのに気付いたのか、微妙に震えているし、睨むような目も怖い。

 意外と貞操観念は確りしていそうだね。お父さんは安心したよ。


「俺はそんなの探してないけど。妖怪に取られた覚えもないし」

 これ以上聞き返すのも楽しそうだが、やっぱり怖かったから話を進めてみる。


「でもサヤから、あなたが金のこのくらいのボールを探してたって聞いたわ」

 アキは野球ボールぐらいのサイズを手で作り、怒ったように問い詰めてくる。

 あのね、金玉はそんなに大きくないよ。信楽焼のタヌキじゃないんだから。


「サヤ?」

「忘れたの? あなたがふった聖女様候補。彼女カルチャーゾーンでも有名な歌姫なんだけど」


 うん、忘れてた。そんな名前だったような気もする。それにふったわけじゃない。そもそもつきあってすらいないんだから。


「もちろん覚えてるよ」

 めんどくさいのでさらりと嘘をつくと、さらに睨まれた。


「それから俺が探してるのは『金の玉葱』」


「金の玉葱? なにそれ」

「親父の遺言みたいなヤツ。それがあのゲームの中にあるんじゃないかって気がしてて」


 遺言というワードが引っかかったのだろうか。申し訳なさそうな表情で口をパクパクした後、アキは続く言葉を飲み込んだ。


「金の玉葱で良かったら、捜し物は一致してる。けど俺はそれ以上の手がかりを持ってないから、具体的にどうすればいいかは・・」


「金色かどうかはわからないけど玉葱なら、昨日潜ろうとしたダンジョンのラスボスのドラゴンを倒せば良いわ」

「へっ? なにそれ」


 思わず変な声が出てしまう。いくら探しても見つからなかった情報をなぜ彼女が・・。


「友達はちゃんとつくるべきね。公式では発表されてないし、ネットの噂でも流れてないけど、大型クランのトップやハイレベル・パーティーの間じゃあ、有名な特秘情報らしいわよ」


 有名な特秘情報とはこれいかに!

 まあ、ツッコミどころはそこじゃないか。

 ちりばめられたゲーム情報をいち早く収集できるのは、やはり大型クランのトップやハイレベル・プレーヤーなんだから。実際ありそうな話しだ。


「バトルゾーンに7頭いるドラゴンを全部倒せば、なんでも願いがひとつ叶うとか?」

「そんな感じの話ね。ドラゴンを倒すと色つきの玉葱アイテムがポップするらしくて、全部集めると、特殊イベントが発生するって」


 金玉探しとかドラゴンのボール集めだとか。そろそろどこかの出版社に怒られそうな気がする。運営が心配でならない。


「OK、じゃあ君の依頼はドラゴンの討伐で良い? それなら俺の捜し物と一致しそうだ」

 アキは頷くと、何かに気付いたようにモジモジし出す。


「トイレならあの奥だよ」

 俺がトイレのマークがある方向を指さすと。

「違うから!」

 大きな声で怒られてしまった。


 女性に対する配慮が足りないとよく言われるが、配慮しているつもりでもよく怒られる。まったく人間関係とは難しいものだ。


「報酬の件よ、約束したでしょ」

 エンゲージした以上、これからゲットできるゲームアイテムは全て折半になる。実力もフォロワー数も俺の方が上だから、組むメリットは俺にはない。


 となると、ゲーム以外で報酬を準備するって事だろうか?


「お金は・・あなたの方が稼いでそうだし。あたし実質の失業中だし。女性にも、興味なさそうよね」

「いえ、興味津々ですが」

 食い気味にお答えすると。


「あれだけ人気のきれい所プレーヤーを手も出さずにガンガンふっておいて、ホントに? あたしにだって、興味なさそうじゃない。ゲイだって噂もあるのよ」

「それは誤解だ!」

 ジト目で見られても困るのですが。


「普通の男なら、あたしみたいな女にはグイグイ迫ってくるものなんだから」

「それは、自意識過剰なのでは」

 カワイイのは認めるが、世の男は野獣ばかりではないはずだ。


「失礼ね! 男ならそれとなく住所や本名聞いてきたり、ちょろちょろ顔や身体を盗み見したり。普通するでしょ!」

 なぜかしゃべりながら、アキはどんどん怒りをエスカレートさせていった。


 おいおい俺を、そこらの陽キャと一緒にしないでくれ。

 陰キャは24時間ビクビクしながら生きてるんだ。


 俺が困ったように首をすくめたら、どうやら火に油を注いでしまったようだ。


「じゃあこうしましょう。あたしがあなたのリアルでも彼女になってあげる。それが報酬。まさか断らないわよね‼」

 なにかが間違っている気がするが、今からどう訂正すれば良いのかわからない。


「えーっと俺、女の子とつきあったことないんだけど。どうすればいいの?」

 とりあえずお伺いを立ててみると。


「奇遇ね、あたしも男とつきあったことなんてないから、なにしたら良いかなんて知らないわよ」

 アキはふくれっ面でそっぽを向く。


 金玉の件とか、今の発言とか。この人見た目と違って、純情さんなのだろうか?

 あのイメージビデオや写真集からは想像できなかったけど・・。


 まあ、人間見た目で判断しちゃダメなんだろう。


 それより問題は、雰囲気的に今更報酬なんていらないって言い出せそうにないことだ。

 ここで報酬断ったら、さすがに問題があるだろう。主に女性のプライドとか。


 頭を悩ませていると、ひとつの単語が浮かんだ。

 ひょっとしてこれってツンデレってやつか? いやいやそれこそ二次元の世界だ。



 どうやら違う方向性で謎が謎を呼んで、深い迷宮ダンジョンが構成されつつある気がする。

 俺は天井を見上げながら、そんなイメージを振り払うようにかるく頭を振ると、深いため息をついた。

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こちらが僕の代表作になります!

異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
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