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ある意味ダンジョン突入!

 昨夜は大変だった。

 出来上がったコロッケを美味しそうに頬張る愛菜は、なぜかやたらとアキの事を追求してきた。


 遅くまで居座り、なかなか帰ってくれなかったし。お兄ちゃん子過ぎるのも問題だな。愛菜を追い返してベッドに潜り込めたのは深夜2時過ぎだ。

 途中で「暑い」とか言い出して、セーラー服を脱ぎはじめたときにはさすがにあせった。残暑が厳しかったとは言えもう10月。そんなに暑くないぞ。


 ブラジャーの上からとはいえ、意外と大きかった二つの膨らみが脳裏から剥がれず、モヤモヤしてなかなか寝付けなかったし。

 兄妹として認識してくれるのは嬉しいが、俺も一応男だ。配慮願えると嬉しい。


 おかげでゲーム内での出来事が、その後どんな反響になったのか調べたかったけど、そんな暇も無かった。



 あくびを噛みしめながら駅前通りまで歩き、時間と場所をスマホで再確認する。

 指定されたカフェは流行の衣料店や雑貨屋が入る、おしゃれなテナントビルの最上階。待ち合わせ時間までまだ20分以上ある。


 隣のビルにあるいつもの書店で時間を潰そうかと思ったが、まだオープン前。

 おしゃれテナントをぶらつく勇気も無いので、通りのベンチに腰掛け、スマホでネクスワールド関連の掲示板をエゴサする。


 猛暑も落ち着き、半袖で歩く人もまばらに残るが、朝の秋風が心地よい。

 しかし掲示板の検索結果は、はやりちょっと寒々としていた。


『アキ姫、ユウト君の次はヒューイ様? 節操なさ過ぎ』

『なんであんなアバズレがモテるのよ!』

『ヒューイも欺されてんの、わかんないのかな?』

『見えそうで見えないところが最高だった』


 やはりアキは炎上の影響なのか、辛辣なコメントが多い。ユウト君とは、炎上の原因になった男性アイドルだ。

 まあ、中にはお友達になれそうなコメントもあるが。


『またヒューイ、女と組んだな』

『今回もすぐ破局じゃね?』

『でもエンゲージは初だろ』

『今回こそグイグイ迫ってほしい!』


 俺向けのコメントも多かったけども、だいたいこんな感じだった。これなら炎上まではいかないだろうと、ちょっと安心する。


 『女殺し』という不名誉な二つ名の原因は、過去のパーティー登録にあるのは自覚している。

 ゲームを始めて、レベルとフォロワー数があがりはじめた頃、有名クランやハイレベル・パーティーからのお誘いがいくつかあった。


 しかし有名どころはリアルイベントも多く、コミュ障な俺には敷居が高かったから、丁重に辞退を申し上げていたら、どこのパーティーも誘ってくれなくなった。


 さらにレベルが上がると、ペア登録の申込をチラホラ受けるようになった。


 フリーの有名傭兵女性剣士とか、人気敏腕女性魔法使いとか。聖女様候補の回復魔術師とか。中には自称ハッカーを名乗る、妙なシーフの少女もいた。


 なぜか女性ばかりなのは気になったが、コミュ障なりに協力プレイには憧れがあったし、リアルイベント系には出なくても良い条件を出してくれたので、申込を受けた。

 その頃は伸び悩んでいたし、他のプレーヤーの情報が枯渇していて、イロイロ困っていたのも原因だったが。


 しかし・・。


 やたらと個人情報を聞いてくるし、他のプレーヤーの情報・・特に女性プレーヤーの話になると、突然機嫌が悪くなる。プレイ以外の日常トークで「気遣いが足りない」とか「そういうとこなんとかして!」とか、仲良くなると、徐々に怒られるようにもなる。


 やがてどのプレーヤーも「あたしたち、会わないみたいね」と言い放って、去って行く。何度か同じ事を繰り返してしまい、コミュ障には、ペア・プレイも無理なのかとあきらめ始めていた頃、『女殺し』の二つ名が付いてしまった。


 直接的な原因は、過去組んだプレーヤーさんたちが、あちこちで俺に『フラれた』トークをしたことだが。


 誘っておいて、向こうから断って、これいかに? と、さすがに困惑したが。コミュ障の俺が何か失礼なことをしたに違いないと、深く反省すると同時に、以来誰とも組んでいない。


 今思えば、彼女達は俺の「ステータス」や「実力」を利用しようとしていたのではないかと思う。

 もちろん、それ自体が悪いことだとは思わない。

 ただ俺が、上手くそれに徹して、彼女たちをフォローできなかったのが問題なのだ。


「次は上手くやらなきゃな」


 勘違いでなければ、アキの瞳に宿っていたのは、強い「決意」とか「覚悟」と呼ばれるものだ。亡くなる寸前の父や、遠縁になってしまった古い友人が持っていた輝きに、あまりにも似ている。


 協力できるなら、力を貸してあげたい。取引とか関係なく、素直にそう思っている。


「今度こそは・・」

 強く拳を握り、深呼吸をしておしゃれテナントビルを見上げる。


 まずは目の前のおしゃれビル攻略だな。カフェとか行ったことないけど大丈夫だろうか? まあなに事も成せば成るだ。

 俺は難関ダンジョンに挑む心意気で、装備を点検する。


 今日の装備は、ソシャゲでゲットしたドラゴンのキャラがさりげなくプリントされた限定トレーナーに、腰にチェーンが付いたワイドジーンズに、履き慣れたスニーカー。


 愛萌も「これなら大丈夫!」と太鼓判を押してくれた、俺の勝負服だ。


 少し早いが遅刻よりマシだろうと、ベンチから立ち上がろうとすると。

「ああ、あのっ!」

 と、突然声をかけられた。


 気付かなかったが、同じベンチに女性が座っていたようだ。

「邪悪なオーラが感じられます。その、そのビルには、入らない方が・・」


 モジモジと指を絡ませながら、うつむき加減に呟く小柄な少女。長い前髪に大きな眼鏡のせいで表情は見えないが、周囲に人がいない以上、どうやら俺に話しかけているようだ。


「えーっと、この後、待ち合わせで」

 困惑しながら答えると、小柄な少女は突然俺の腕にしがみついてきた。


「そっ、それが危険なんです! 安全な場所で・・あ、ああ、あたしと。そのっ、お茶でもしませんか?」


 逆ナン・・ではないだろう。そんなギャルゲやラノベみたいな事が現実で起きないことぐらい、俺だって理解している。

 これはきっと、壺だな。ホイホイ付いていったら、屈強な男達に囲まれて壺を買わされるヤツだ。

 俺はネットの情報には長けているから、それぐらいは知っている。


「壺なら間に合ってるんだ、ごめんね」

 なんとか腕を振り払うと、少女は涙ぐみながら伏し目がちに俺を睨んだ。


 よく見ると少女は、庇護欲をそそる可愛らしい顔立ちをしている。歳は愛菜とそれ程変わらないんじゃないだろうか。

 ゆったりとしたニットとやたら長いスカートは、どこか野暮ったくも感じるが、彼女の魅力を充分に引き立てていた。


 その姿は自称ハッカーのシーフさんに似てなくもない。彼女も人気プレーヤーで、その容姿とアイテムを駆使したトリッキーなプレイで、多くのフォロワーを獲得していたっけ。


「壺?」

 不思議そうに首を傾げる姿も可愛らしかったが、その手には載らない。


「変な宗教からは、早く足を洗った方が良いよ」

 俺は手をヒラヒラとさせて距離を取り、逃げるようにおしゃれビルに向かって走った。


「待って! 宗教違うっ‼」


 後ろから叫ぶような声が聞こえたが、彼女の更生を祈りつつ、俺はダンジョン・・じゃなくて、おしゃれビルへと逃げ込んだ。



 ☆  ☆  ☆



 そのカフェは、入り口でオーダーするタイプだった。

 おしゃれな制服を着たキレイな女性が並び、メニューも横文字がズラリで、何度見ても意味がわからない。


 こんなトラップがあるとは・・初見殺しというヤツだな。どうやら冒険者としての基礎をおろそかにしてしまったらしい。

 やはりどんなことでも事前準備は大切だ。


「アイスなトークのデンジャラスなカフェをひとつ」

 なんとかオーダーすると、キレイな店員さんは苦笑いしながら「じゃあこちらで宜しいですか?」と、メニュー表を指さした。


 緊張のためろくにメニューも確認できず、3回ぐらい高速で頷くと「あちらの受け取り口でお待ちください」と答えてくれたので、オーダーできたのだろう。


 ふう、これで第一関門突破だ。

 悪くない出だしに安心しながら会計を済まし、店内を見回す。


 俺はそこで2つめのトラップに気付いた。

 女性の一人客を探して、近づけば良いと考えていたが、店内は女性客であふれている。


 それっぽい人物に近づきながら顔を確認していったら、不審者以外のなにものでもない。アキがもう来ているとも限らないわけだし。最悪通報されてしまう。


 オロオロしていると、ポケットのスマホから「ポーン」と着信音が聞こえる。

 慌てて確認すると。


『ウケる 何その格好?』

『一番奥の窓際の席』

『早く来い!』

 シュポシュポシュポっと、アキから立て続けに着信がる。


 やはり持つべき者は仲間だな。


 少し安心して奥のテーブルに視線を送ると、おしゃれなワンピースに身を包んだ茶髪の美しい女性が楽しそうに手を振っている。

 後ろを振り返っても誰もいないから、俺に向かって手を振っているのだろう。


 手を振り返すべきか悩んでいると。

「デラックス・アイスカフェのトールでお待ちのお客様!」


 店員さんの声が聞こえてきたので、ビクリとする。

 受け取り口には、大きなグラスの上に、これでもかとデコレーションされた巨大アイスクリームが乗っかったコーヒーがある。


 レシートを確認すると、そんな感じのオーダーになっていた。

「こちら無料トッピングですので、ご自由にどうぞ」


 にこやかな店員さんに頷いて、俺は並んだトッピングを見る。

 蜂蜜にチョコソースにシナモンパウダーやココアパウダー。

 なるほど、充実のラインナップだ。

 俺は初心者であることを悟られないように順番にトッピングをふりかける。



 どうやらここはトラップだらけのダンジョンだ。

 俺は気を引き締め直すと、ダンジョンの最奥部に向かって慎重に歩を進めた。




これで主要キャラが出そろい、やっと主人公が冒険の第一歩を踏み出しました。

この難関ダンジョンをどのように攻略するか、どうか楽しみにしてください。


次回からは、毎晩8時頃に1話ずつ更新できればと考えています。

どうぞよろしくお願いいたします!

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こちらが僕の代表作になります!

異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです

興味がありましたら、ぜひ!
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